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たった2畳でも自分のスペースが欲しいわけです

子供が3人以上いる友人家庭と話すたびに、みんなの顔が、加わっている圧力によって重い顔になるのと同時に「その話題振ってくれますか」と解放の光を放つテーマがあります。
その様はまるでバルーンフェスタのよう。

横たわるのは

大家族のスペース問題。

圧力と解放の象徴

「まだ川の字どころか洲みたいに寝てるんだけどもう限界」
「うちはなんか皿みたいに上と下の開いたところに親が寝てる」
「長女に子供部屋を一部屋作ってあげたけど、全員に同じようにはしてあげられない」
「勉強机は2個が限界」


そう。小さい頃はまだ良かった。なんとかなった。

それがなんとかならなくなる年齢を迎え始めています。

だいたい目安としては、子供が22センチ以上の靴を履き始めたら「大人と同等サイズのスペースが必要」というサイン(私見)。

スペース問題が我が家でも勃発です。

まず男子兄弟R&S(8歳・10歳)が言い始めました。

「自分のスペースが欲しい」

長女K(12歳)も中学校の制服の申し込みが始まり、カバンや靴や夏服冬服やコートの注文票を書き込みながら、ハッとして言いました。

これから届くこれ、どこに仕舞うの?」

家の中を見渡して、今ある収納と今ある家具と、今持っている荷物をどうにかできるようなスペース、どうやったら見つけ出せる?とダウジング並みのあやしいセンサーで捜索している時に、次女W(6歳)が言います。

私も机が欲しい。小学生になったら机が欲しい」

マンションの家のサイズはおそらくドラえもんでも呼ばない限り広くはなりません。

ならないのですが、いま直面しているスペース問題に、先手を打っていた人がいました。

5年前リフォームをしてもらった時の建築家・Yさん。

「いつかみんな大きくなりますから、いまのうちに考えておきましょう」

その頃から、いまの使い方を数年後にはこう変えましょう、という提案をしてくれていました。
私のドラえもん。わたしのスペースヒーローのことを思い出し、まずは購入です。
そう、2段ベッドを。

大家族といえば2段ベッド。奥はSくんのスペースですが、まだ机はいらないと言って、秘密基地ばかり作っていた場所。

これまで9畳の部屋を「2人の部屋」としていたのが、2段ベッドの登場でなんとなく二つに分離した感がありました。そう、上と下、左と右に。

後々はベッド自体に板かカーテンを取り付けて、個室風にすることも考慮。建築士Yさんは奥側と手前側に別々のドアを取り付けることも忘れませんでした。
これで兄弟が右と左の陣地の真ん中に競技線(©︎かるた用語)を設定しても、そこを踏み超えることなくリビングやトイレに行くことができるのです。

そして長女の方にも4.5畳のスペースにタンスを新しく置き、造り付けのロフトで寝てもらって生活全部をこの部屋ですごせるように。

これまでタンスが家族クローゼット(約4畳)に集められてて、着替えは全員そこですることになってました。家族の着替えのプライバシーより、洗濯物を箪笥にしまう手間を一度にする方法を提案してくれていたYさん。

でもティーンネイジャーになる子にそれはどうよ、いつかは変えないと、と思っていたので、必要な模様替えです。


でも、末娘の机は・・・・

いったいどこに・・・

私のドラえもんもそこまでは考えててくれなかった・・・

見える場所はもうどこもかしこも「公共」。個人の机が一体どこに置けるっていうの?

Wちゃんはまだ新小1。上の子達も結局勉強はリビングのテーブルでしているし、まだ必要ないんじゃないの?
ランドセルラックだけ買って納得してもらう?

できる限り現状を変えたくないという本能。面倒なことはできるだけ遠ざけたいという本音。
その心の声に逃げそうになった瞬間、あるお家のことが思い出されました。

浅草寺で見かけた蝋梅。花言葉は「先見・先導・慈しみ」


それは私の親戚のおばちゃんの家。歳の近い4人兄妹が住んでいた家です。
兄1・兄2・兄3・妹1。

東京の小さな住宅で、お兄ちゃん3人に2部屋が与えられていたけど、妹ちゃんにはどうやっても部屋がない状況でした。

でも遊びに行った時に、「ああ!」と思いました。

二階建ての小さな一戸建ての、階段を登ってお兄ちゃんたちの部屋に行くまでの少しのスペース、つまりは廊下に妹ちゃん(当時高校生)のための場所が作られていました。

広さとしては2.5畳あるかないか。

そこに机と身の回りのものが置かれており、夜はお布団を敷いて寝ているということでした。

とは言っても通路も兼ねているので、お兄さんたちはいつでも往来します。

私はその時本当に、心の底から納得したのです。

通路を兼ねた2.5畳。
それでも絶対に、自分のためのスペースが必要なんです。

自分の宝物を置く棚、引き出し、「ここは私の場所」と言っていいスペース。何を読んでいても、何を書いていても、背後に立たれない安心感が。

それがないと、息ができたとしたって浅くて細かくて、自分自身の世界に深く潜ることはできません。

6歳のWちゃんにだって、自分のスペースが必要です。

ふう、と大きく息を吐き、私はまた決断することにしました。
ないと思っていたけれど、あるのです。そう、約4畳の家族クローゼットに活路が。

激しい断捨離が始まりました。
ハンガーポールにかかる服は大半私のもの。私の服を半分にすれば、机を置くスペースが作れます。身を切る改革を数日かけて決行し、次の夏着る服どころか明日着る服さえ無事かわからないレベルで切り詰め、とうとう達成しました。

机を置けるスペースができた!
 
ここで安心するのは素人です。ダイエットを叶えて安心してたらまた肉が入り込んできます。すぐ!そこに!机を置くのです!

慌てて次女と楽天市場で検討して、「これがいい!」と決めた机は、目を皿のように探しても組み立てサービスのついてない組み立て家具。

なのにすごい。1日で届く。

ラック二つ、机一つ、チェスト一つ。段ボールを開いて、圧倒される部品の多さ・・・。
スライドレールのついた家具は、一度味わうと『スライドレール教』に入信したくなるくらい心身を助けてくれますが、
作る側になるととんでもねえ!!なくていいじゃん!!なくても引き出しは開くでしょ!?

「2人で60分で完成」と目安として書かれていましたが、そんなものは「組み立て家具を知り尽くした達人」が2人がかりで集中した結果の数字。

説明書を読み解くところから「東大の2次試験かな」と思うくらい時が止まります。
言っている意味がわからない。部品の意図がわからない。塗っていいボンドの量がわからない。

5分に一回は絶望し、説明書を右往左往。

でも2時間を超えたところから、全貌がつかめはじめてきました。

そうか。君は、本当に最短距離で完成に導こうとしてくれていたんだね。
「絶対これ説明書のミスでしょ」と5分に一度思っていたのは拙速な判断だったよ。信じるよ・・・。

4時間すぎて、仕上がってきました。
大工としての自分が。


できたー・・・!力作・・・!
力作だけど、出来上がったら普通。シンプル。こんなにシンプルなのに、ものすごく大変だった。すごいわかってほしい。この苦労がわかる人を増やしたい。みんな家具は自分で組み立てよう。いやオススメはしない。すごい大変だから!

支離滅裂に大変さを歌い上げたい。乗り越えたことを祝いたい。
意外なほどの爽快感をもたらしてくれた勉強机。
そしてそのためのスペース。
血みどろの戦いの末こじ開けた約2畳のWちゃんのための場所。

ここは扉のない家族クローゼットスペースで、まだ兄弟のタンスは置いてあるから、自分だけの場所というわけにはいかないけど、ロールスクリーンもつけて、目隠しも設置。


大工になった私には朝飯前のロールスクリーン設置。


やったーーー!!

まだなんにも乗っていない空っぽの机と、そのためのスペースをWちゃんに見せたら、ものすごく不思議な顔。「え、これ私の机?」とキョトンとしてから机について、せっせとオレンジ色の折り紙の裏に何か書き始めた。


不思議な切り込みは「空白を取りたかった」という不思議な理由。


嬉しそうに見せてくれたメモには、不思議な宣言。

すごいな。机というのはすごいな。

まだ習ってもない九九を「9かける9は81」という部分だけ兄に入れ知恵されて繰り返し言う末娘。2の段からパパに教わり始めて、遅い時間になるまで算数をしていました。すごいな。

この小さなスペースをまだ「小さい」とも思わないような、ピカピカの「自分」への第一歩。
その背中を見られたことで、大工は満足です。

先日買ったばかりの電動ドリル、君がいて本当に良かった・・・と思いながら仕舞っていたら、Sくんが言い出します。

おっかあ、おいらも机ほしい」

いらないって言っていたのに〜〜〜〜〜?



彼の机も買う必要が出てきました。

今度は一万円出しても組み立てサービスにお願いしたい。
でもなかったらしかたない。
今なら60分でもう一個作れるかもしれないですしね。

このハンガーポールに服がみっちりかかっていました。明日着る服あるのかな。

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