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「竜とそばかすの姫」見てきました

緊急事態宣言下でその上ネームも終わってないのに「竜とそばかすの姫」を見てきました。

どんな映画でもどこかで10分寝てしまう私を心配して、長男が「ママ、寝たら起こすね」と言って笑います。自動アラーム機能つき長男がいてホッとして座席につきました。

◼️◼️◼️(鑑賞中・満席。でも座席が半分使用不可!)◼️◼️◼️

まだ公開間もないので、ネタバレしないように気をつけて書きます。

見終わって思い出すのは2015年に作られたダヴの実験CMでした。

ある日、2つのサイン付きのドアが、女性たちの目の前に現れます。
1つには「美しい」もう1つには「普通」と書かれており、どちらか1つを選ばなくてはいけません。ストレートな質問に直面して、当然の事ながら困惑する女性たち。
最初は、悩みながらも結局「普通」のドアを選ぶ女性が圧倒的多数でした。だって自分は「普通だ」「平凡だ」からと、そう語る女性たちの表情は複雑で、ちょっと自信が無さげ。本当は「美しい」を選びたかったけど、それは自分には手の届かない言葉だと思ってしまった人、周りの目が気になって選べなかった人、理由はそれぞれです。

モデルのように魅力的な同級生「ルカちゃん」と比べて、自分はなんて・・・。

映画中では言葉で語られませんが、主人公のすずは「美しい」という言葉を「自分には手に届かない言葉」だと思っているのが伝わります。

「美しい」と「普通」のゲートがあれば、迷うことなく「普通」を選ぶキャラです。「普通」があって良かったとホッとする心情まで理解できます。「美しい」と「ブス」であれば、「ブス」を選ぶしかなくなるから。そのくらい「美しい」はすずには遠い言葉です。

なぜわかるかというと、私自身もきっとそうだろうと思うし、かなりな美人でも「美しい」を選ばないと思うからです。自分自身を「美しい」と思うことほど困難なことはないと、きっと男性も思うのではないでしょうか。

そんな「美しい」のゲートを絶対に選ばないであろう人に向けた映画なのではないかと、勝手に思いました。

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SNS「U」の世界で歌姫となったベル。本当は田舎の冴えない高校生なのに!

見た目は全然自分と違う。華やかでスタイルが良くてどんな服も似合うベル。

でも本当に人を惹きつけたのはその歌声です。

歌だけは自分のもの。自分の作った曲と歌詞。友達のヒロちゃんの演出がいかにうまかろうとうも、歌が導いてくれた力がベルのもとに集まります。

すずはべつに醜いわけではなく、「醜い」というコンプレックスがあるわけでもありません。クラスメイトも自分も「普通の子」と思っているだけで、誰の思考にもひっかからない感じ。それがすずを癒していると同時に、悲しさを表に出せない活力を奪われた状態が、すずの顔にずっと描かれる隈と「ちゃんと食べてるか?」という幼馴染しのぶくんの心配の言葉にも出ています。心にも体にも栄養が足りません。

歌がそんなすずに力をくれます。

自分は普通。自分は何も持ってない。でも好きなものがある。
そんなふうに思って、絵を描いたり歌を歌ったり、詩を作ったり物語を作ったり、ダンスをしたりゲームをしたり、そんな「輝いてほしい何か」を、ダイヤモンドになるとまでは信じられないまま、静かに磨いている少年少女の背中が浮かびました。

磨いているということを人に知られることも恥ずかしい。でもこれが好きなんだ。こんな世の中で何かに希望を持てるとしたら、この「好き」が本当に光りだす、そんな小さな奇跡だろう?そんな心細い背中を持つ人に見て欲しい。そういう映画になっていると思いました。

紹介したダヴのCMは、いまはもうYouTubeでも見られなくなっていて残念なのですが、CMの中で自分の娘がどっちのゲートを選ぶか、というのを親が見守るという描写もありました。

「美しい」と「普通」を前にして、娘はやっぱり「普通」のゲートを選んでしまいます。

そのとき、親は「黙っちゃいられねえ!」という勢いでゲートを潜ろうとする娘を捕まえます。

「あなたは美しい。美しいのだから、こっちを通りなさい」

そうやって「美しい」のゲートにぐいっと押しやる親御さん。

照れながらも諦めて「美しい」のゲートを通る娘さん。親にとったら子供はみんな「胸を張って「美しい」のゲートを通って欲しい。本当の美醜は関係なくな!」と思っていることがわかります。

「あなたの存在はもう、かけがえなく美しいのだ」と親が思っていることを、親になってみたら理解することができます。

若者の美しさは若者には見えません。

でも映画のすずの胸に、自分の選択の支えになっている存在に気がつく瞬間がきます。自分を肯定する力が満ちるとき、軽率な悪意ある言葉や嫉妬や外聞などをかなぐりすてて動くことができるようになるのです。人のために。


3回くらい作中で泣き、「いい映画だった・・・」と夫に言おうとしたら「なんかピンと来なかったな」と先に言われてしまって、私の感動は宙ぶらりんに。一緒に行った義母も「映像は美しかったけど、話は難しかったわ〜。あの世界のことがよくわからなくて」と。SNSの世界にどっぷりいない人にはあの切実さが伝わらないのかもしれないと思ったり。

それでもこの作品は、「美しい」のゲートなど絶対に選ばない、自分など取るに足らない人間だと思う人たちにとって、ものすごく大切な作品になると思いました。

ここ展開無茶だな?とか、そこでそんなこと言うかな?とかはありますが、私にとっても、心の一番綺麗な部分を輝かせることがきっとできると信じる力をくれる映画でした。この夏ぜひ見に行ってください。

最後にもう一度ダヴのCMの紹介を。

でもある日、それまでは「普通」を選んでいたけれど、思い切って「美しい」のドアをくぐってみた女性がいました。「そうだ、私は美しい。」そう世界に宣言するかのように、心に決めて「美しい」を選ぶ女性たちが次々と映し出されます。
ドアを通った後の、彼女たちの自信に満ちた笑顔に注目してみてください。彼女たちの心からの笑顔は、実に美しく輝いています。
自分が美しいかどうかは、他の誰でもなく、自分が決めることのようです。

自分は「美しい」のゲートを胸を張って通れるでしょうか?

もしその選択を自分の子供が見ていると思ったら、迷わず「美しい」を選べると思うのは、そう生きて欲しいと思うから。ベルは美しいですが、大事なのはそこではない、ということも同時にわかります。

P.s.今回は寝ませんでしたよ!

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