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漫画家が社会活動をすることについて。ちはやふる基金の一年を振り返る。


noteでは個人的な思いや出来事を中心に書いていますが、家庭人としての生活のほか、漫画家活動と、ちはやふる基金の活動も別軸でやっています。

2019年の12月に登記を終えたちはやふる基金。発足してから一年が過ぎました。

そもそも「連載がそう遠くない未来に終わる」という思いから、ちはやふるの連載をしている間にやるべきことがあるという、なぜだか湧き上がった切迫感と使命感で始めた【ちはやふる基金】https://chihayafund.comでした。

漫画を描くことしかしていなかった自分が、社会活動に踏み出す。

ものすごくハードルが高く思えたことでした。

「漫画家は漫画描いていればいい」という思いが自分の中にもありました。

でも、バスケットボール留学生を支援する「スラムダンク奨学金」ALSの研究開発費を支援する「せりか基金」の活動をずっと見ていて、1ファンとして「好きな漫画家さんが、漫画を描くことを越えて、その分野で努力している人をサポートしようとしている。その分野の人はどれだけ励まされるだろう」と思っていました。その分野にいない自分でも先生方のやっていることに励まされたのです。

漫画を描いて、連載を終えて、競技かるたの世界とサヨナラして、また違う漫画を描く・・・

そうするのが普通だと思えたのですが、どうしてもそれができない。自分だからできることがあるんじゃないか。その思いから、協力者を集めてちはやふる基金を立ち上げました。

コロナ禍が直撃の2020年

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賞金総額200万円を自腹で出して、夢だったちはやふる小倉山杯(2020年2月)がギリギリ開催されたのはよかったのですが、その頃から世界を襲う新型コロナウィルス。

学校も休校になり、緊急事態宣言が2ヶ月続きました。

世の中のあらゆる大きなイベントが中止になり、競技かるたの大会も練習会も開催できない事態になりました。

ちはやふる基金の設立理由の大きな柱である競技かるたの高校選手権までも中止になってしまいました。毎年参加人数が増え(2019年は2千人超)、今年も史上最多の参加者数にきっとなるから、ちはやふる基金の出番だと準備を進めていた大会でした。

その大会がなくなり、対面で接近して行う競技かるたのスタイルからしても、大会が、試合が再開できるのは一体いつになるのだろう?

そんな思いから、4〜6月は大変落ち込みました。

無力感から、「ちはやふる基金は作るべきじゃなかったんじゃないかな・・・」と思う瞬間もありました。

そんな夏頃に、お世話になっていた滋賀県の近江勧学館から相談を受けました。

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高校選手権も、その他予定されていた施設利用もキャンセルになり、来館者が減ってしまったこと。畳の修繕費用を賄うことも難しくなってしまっていること。

基金のメンバーとも話し合い、勧学館さんと打ち合わせを重ね、クラウドファンディングを行おうということになりました。クラウドファンディングの主体は勧学館さんですが、そのサポートを担おうと、camp-fireさんとの打ち合わせやリターンの選定に担当者を立てました。

結局絵を描くしかできない

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支援をしてくださった方への返礼品として使用してもらおうと、絵を描きました。勧学館さんと基金メンバーのしっかりものの担当者とcamp-fireさんが進めてくださるプロジェクトに接して、自分ができることって結局絵を描くことだけだな…と、思いました。

でも、落ち込みつつも協力できることがある事実が私に手応えをくれました。

同時期に開催された競技かるたONLINEの高校生大会。高校選手権が中止になったことで「高校生たちに何か頑張れる場を作りたい」と立ち上がった【結びつくかるた会】さん主催の大会です。

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こちらにもイラストの寄贈で参加させていただきました。

実際の開催を主催した【結びつくかるた会】と【競技かるたONLINE】の製作者さんたち皆さんの尽力を思えば、本当に小さな協力しかできてない・・・。

それでも、実際に高校選手権を奪われて、団体戦をしたかったこの夏を奪われて、下を向いてしまう生徒さんたちを想像しては溢れてくる涙。

そんな時も「千早だったら、オンラインでもカルタをする」と、心の中で千早が前を向くのです。その瞬間その瞬間で、私の中で生きている彼らが「自分だって落ち込むけど、友達がいるからなんかやりたい」と言うのです。

ああそうか。

こんな時に前を向く、そんな人になりたかったのではないか、私も。

「来年の名人・クイーン戦もきっとあると信じて、ちはやふる小倉山杯もきっとできると信じて、準備をしましょう」と基金メンバーに言われ、45巻に合わせてちはやふる基金でカレンダーを作る企画が生まれました。

勧学館のクラウドファンディングの話も動いているときでした。

窮地に立たされているのは勧学館だけではないことを感じていました。秋から大会開催を模索しても、きっと出場人数は絞られ集まる参加費が減るのに、会場は広げないといけない。つまりあらゆる大会でいつもより運営費が逼迫する。

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すぐ絵を描きました。最初白黒のイラストで6枚程度、という話だったのに、カラーで12枚描きました。だってもう絵を描くしかできないから。

一生懸命描きはするけど、初めて作るカレンダーがどれほど皆さんに受け入れてもらえるかわからない・・・・。

そんな思いで、企画を進めいろんな決断をするたびに震えました。ものすごく売れ残ったら・・・親戚に20個ずつ配ろう・・・親戚はどれだけいたかな・・・と指折り数えたりしていました。

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8月末から予約開始して、最初の2日間で目標としていたほどは予約が入らず、売れ残ったカレンダーを配る範囲を親戚から友人まで広げようと心の準備をしていました。両手両足の指くらいは使ってました。

だってこういう予約販売は、「最初の二日と最後の二日で8割売れる」と聞いていたから。

その前半戦で目標の半分だったということは、全体も目標の半分に違いない・・・。
友人と親戚が足りない・・・。そもそも人気が足りない・・・。カレンダー企画なんかするべきじゃなかった・・・。

落ち込みつつも、基金のみんなの努力や頑張りを知っているので、粘りが大事とTwitterでお願いとアピールを続けました。しつこいと思われてからが本番なのだと気を強く持ち、一字一字を重ねました。

人気がない自分がまたしつこくお願いをし続ける・・・どんだけ嫌われたいの?いやでも頑張れば「仕方がないなあ」と予約を決めてくれる方がいるかも・・・。

そんなネガティブとポジティブのミルフィーユを支えていたのは、やっぱりちはやふるのキャラのみんなと、その後ろにきっといるであろう同じように競技かるたを頑張りたいと思っている選手さんたち。

「買ってくれ!!」と大の大人が、漫画だけ書いていればいいはずの漫画家が、恥ずかしさを超えて、なんか頑張ってる。

それを見せるために私はいるんだよ。

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アピール活動を続けた9月末まで1ヶ月の販売期間。

最終的には二種類のカレンダーを1000個ずつと、タンブラーやハンカチタオルなども、予定数を買っていただくことができました。たくさんの皆さんに応援と購入支援をいただきました。

最終日にもう売るものがない「在庫ゼロ」を見た時は泣けてきました。私の手元に回ってきたのはカレンダー二種類が2個ずつだけ。親戚に配る分など残っておりませんでした。

基金の立ち上げも、大きな物販も、どれだけ不安で、どれだけ「人にどう見られるかな」と怖くて、どれだけ期待に応えられないかもしれないと思って辛いか。

挑戦をしてみて初めて、挑戦する人を笑うことなどできないと感じました。
見えている部分の何倍も、思いと時間と協力者がいるのです。見えてないでしょう?でもいるんです。私も見えてなかったし分からなかったこと。

10月、勧学館のクラウドファンディング開始

近江勧学館の皆さんも同じ気持ちだったに違いありません。

畳の修繕費350万円、諸経費50万円、計400万円を目標としたクラウドファンディングを10月に開始。

慣れない勧学館の職員さんにはここまで準備を整えることも大変で、きっと「人にどう思われるだろう」という思いもあったと思います。「助けてください」とアクションを起こすことは弱みを晒すことであり、誰にとっても大事なお金を「託してください」と言うことは簡単ではありません。

コロナ禍は秋になってもまだ収束せず、私の住む街の飲食店に「閉店」の張り紙が増えてきました。実家が飲食店をしているので、その「閉店」がどれだけ誰かの人生において重いかを知っています。どれだけの誰かの人生が真っ暗になるかがわかります。

一ヶ月に一度くらい行っていた近所のトンカツ屋さんが閉店になっていて、「えええ、そんな。そんなだったら言ってくれたらもっと通ったのに」と思う自分がいます。

「助けてって言ってくれたらいいのに」

閉店してからでは、立ち行かなくなってからでは遅いんです。そうなる前に「助けてください」と言う。もしもそのアピールが多くの人に届かなくても、その努力を「恥ずかしい」という気持ちで止めてはいけないんです。

勧学館さんは立ち行かなくなる間に行動を起こしてくださいました。それに私たちは協力することができました。

勧学館のクラウドファンディングは最初の二日で目標額400万円を達成し、最終的には242%の達成を叶えることができました。

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もうすごい。もうここでも泣く。

一部の人が起こしたアクションに、呼応して波紋を広げてくれた人がいる。たくさんいる。たくさんの人が、同じものを大事だと思ってくれている。

ううーーーーーーーーーーー

みなさん、ほんとにどれだけ感謝しても足りません。落ち込むことが多かった2020年に、同じくらい励まされることがありました。

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昨日勧学館さんが出してくれた「畳修繕終わりました」報告で、またみなさんの愛情が形になったことを実感しました。

振り返ってみても、私は絵しか描いてないーーーーーーーー。

でも「漫画家の社会活動なんて大したことできない」なんて言えないんです。絵を描く自分を多くの人が見てくれていたことがわかります。

「言ってくれたらいいのに」と思う人に向けて、私が言う役になれることがあるんだと感じます。

「怖いな」「恥ずかしいな」「大変だな」そう思う自分をちはやふるのキャラクターが見て言います。

「大人なのに何もしないの?」「助けてくれないの?」

何かするよ。誰かの「助けて」をちゃんと聞くよ。頑張っていくよ。
そんな自分のことを、誰かが見てくれてるかもしれないしね。

ここに書く事でまた、そういう思いを確認します。

一番感謝しなくてはならないのは、私のこれらの活動を見ていてくれた皆さんだと思い立ち、この年の瀬にnoteに書いてみました。

寄付、グッズ購入、RTや応援のメッセージでも力をもらいました。

表現しきれないほどの感謝をここに。ものすごく励まされた一年でした。基金のメンバーの皆にもとても助けられました。一人ではできなかったことだらけです。
心から、ありがとうございます。

2021年も、また頑張れる一年でありますように。みなさんにとって良いことで溢れた日々でありますように。強く強く願っています。

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