50巻まで描かせてください
漫画を描いています末次 由紀と申します。今は「ちはやふる」という競技かるたの漫画を描いています。
2007年の年末から始まった連載は15年目に入り、なう絶賛最終局面中です。
去年の12月くらいに
「正直なところ、ちはやふるはあと何号くらいで・・・何巻で終わりますか?いろいろ準備をしなければならないので教えてください」
と編集さんに尋ねられました。
そのころ48巻の真ん中あたりを書いていて、
1話1話でどのくらい進めるかというのを考えるのですが、それがどんなふうに見えているかというと、フルマラソンのランナーが「次の角を曲がったらスタジアムが見えるはず」と思ってる状態というか。
わかりますか。
41キロくらいもうず〜〜〜っと走ってて息切れしてて意識も朦朧としていて、次の角を曲がったらスタジアム、と思ってるけど、その角の先にどのくらいの距離があってスタジアムなのかもぼやっとしてるかんじ。スタジアム入ったら○メートル、と知識としてわかるけど、そこまでの正確な距離がわかるかというと、わからない。
でも「今走ってるところからゴールまで正確には何メートルなんですか?」と聞かれている感じです。
わからない・・・・
でもいつまでもわからないと言っていられない(そりゃそうだ)・・・
自分なりに丁寧に「マラソンコースのその先、あの角の向こう側」を想像してみました。
ううん・・・
箱根駅伝のゴールのように大手町のど真ん中に急にゴールテープがある、ということはなさそうだから、スタジアムまではもうすこしあるはず・・・。
こういう時は「引き」、いわゆる「え、次の話どうなるの!?」という感じで次号に続くというのの回数で考えるのですが、それが作れるのが大体4回くらい・・・。
つまりあと5話くらいで終わる手応えだったので、「49巻くらいだと思います・・・」と目をふよふよ泳がせながらお返事しました。
でも48巻の最終話を書いた時点で、編集さんと2人で「これは・・・・終わらないのでは・・・」と言う感触はあったのです。周防さんの丁寧な粘りがそう思わせてきて。
しかし、もう【49巻が最終巻】という準備は出版社側では始まっていて、2月の48巻発売のときに講談社電子書籍で『47巻無料キャンペーン』が走ることになり・・・。
担当さんが神妙な声で尋ねてきます。
「どうしますか・・・。でも100pプラスくらいまでならぶ厚い49巻で出せるんです。そしたら49巻で完結というのを達成できますよ」
先を見通すのが下手くそな長距離ランナー(息も絶え絶え)の酸欠気味の頭に、担当さんの優しくも芯の通った声が響きます。
「末次さんのお気持ちで決めていいんです」
・・・・・・・・
あ、そうか。
ゴールまで何メートル?じゃない。
スタジアムをどこに置くかも、私が決めていいんだ。
足を止めるのをどこにするのか、決めていいんだ。
・・・・・いや、いいの!?!?
「いいんです!伸びても!そのときは2人で謝ったらいいんです!」
えーーーーーーー!!
ドーンとしててくれる担当編集のNさんと土下座の絵を描いて、お詫びすることになりました。
すみません!50巻まで描かせてください!と。
50巻まであったらスピンオフも描けるかもしれない。ぎちぎちに入れる49巻よりも、悠々とあの子たちを描ける余裕があったほうがきっといい・・・と私の心が傾きました。というか決断しました。
どんな時も「好きなように描くのが一番です!」という姿勢でいてくれる担当さんとBE LOVE編集部。
そしてそういう決断をしてもきっと見守ってくれると信じられるファンの皆さんの存在。
おかげでかなり追い詰められないと最後の方を詰めない自分なんですが、応援してくれるファンの皆さんの存在が本当に温かい・・・。
50というのは競技かるたの札で並べられる数。それはとても綺麗な数字とも思えました。こんなに長い作品にしてもらった幸せをかみしめつつ、ラストスパートを楽しみたいと思います。
でも担当さんがGW前に言いました。
「それで結局、BE LOVEでいうと何月号で終わりますか?雑誌の印刷数に関わってくるのでGW明けには教えてください」
やっぱりゴールまで△メートルってわからないと大人の世界はアカンらしい。
最終の角を回る気持ちでGW中も頭をこねくり回したいと思います。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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