鬼に金棒・虎に翼
ガッチリと抱き抱えられていた夏の手から指が一本一本が離されて、やっと違う季節の腕の中に迎えられた気がするこの頃。そう、秋です。
みなさんいかがお過ごしですか。
NHKの朝の連続テレビ小説「虎に翼」、終わってしまいましたね。
「カムカムエヴリバディ」から飛んで久しぶりに、毎日オンタイムじゃないけど大体その週のうちにその週のストーリーに追いつく、という視聴を続けていました。
『虎に翼』で感じた最初の印象は、「そこに言及するのか!」という見過ごされがちな要素をとても多く拾い上げたこと。
◆寅子の生理が重いこと
◆学ぶ女子の傍で、進学せず嫁いできた花江が孤独を感じていたこと
◆法学部の教師・学友の「親切な差別性」を指摘したこと
◆華族令嬢涼子の付き人・玉ちゃんとの関係を大事なものと描写し続けたこと
◆父親の弱さを責めながらも受け止めたこと
◆弟の直明に「長男だからと全部背負わなくていい」と言ったこと
◆「でも俺がなりたいのは、直人や直治、優未なんだよね。そんなの無理なのに」と、道男が自分の本心を言えたこと。
◆寅子の育児に関わる頻度の少なさで優未がいい子を演じてしまうこと。
◆「優秀な男と競わないといけないのに、優秀な女とまで競わされることが苦痛」と言った小橋
◆轟の同性愛
◆星百合の認知症
◆寅子の更年期障害
◆法律事務所にいたいというみいこに「相談者の話に聞き耳立てて、人の不幸に安堵するようならやめろ」とたしなめること
◆「行け、山田」
(まだまだたくさんある)
大テーマで扱うことはできても、ドラマの中でちょっとだけ出すには難しい要素を「それでもこれって私たちの日常だよね」という感覚から目を逸らさず出してくれていました。
先日幸運にも「虎に翼」のプロデューサーである石澤かおるさんにお会いする機会がありました。
広い人脈とコミュ力とクリエイティビティを持つ友人が「虎に翼お疲れ様会をやろう!!」と誘ってくれて、銀座のお寿司屋さんに集まったのは私を含め8名の女性。
プライバシーに配慮して細かくはお知らせできませんが、みなさん強い意思と強いエピソードをお持ちの精鋭です。料理を出す大将の気配を消す気遣いがすごかった。
カウンターを貸し切って、石澤かおるさんにどんどん投げる「私が感じた寅翼のすごいところ」「私が推すエピソード」「私が推すキャラ」
私なんかは足元にも及ばないくらい何度もドラマを見返して、関連の書籍も読み、聖地巡礼もすでにしているという方もいて、感想戦がおたふくソース並みに濃厚。
そのくらい熱く盛り上がって誰かと話したくなる物語だったのは完走した多くの方と同じで、インタビューや関連記事が沢山出て「この間新聞で、同じ日の朝刊なのに2箇所違うテーマで『虎と翼』の記事出てたよ」なんていう情報も。
「人気だから、どんどん特集を組まれる感じあるよね」と言う話になった時の、石澤さんの言葉が印象的でした。
ハッ、としました。
『虎と翼』の内容を分析して内容や面白さの理解を深めるのは、視聴者としての消費に過ぎず・・・
そうではなくて、その一歩先へ。
自分の仕事の現場では、違和感を抱いた時に「はて?」と立ち止まって自分の頭で考えることができているだろうか?
自分の部下の前で、誰かの申し出に「続けて」と聞く姿勢を貫けているだろうか?
立場の違う人との会話では、自分の間違いを認めて「失敬。撤回する」と言えているだろうか?
自分の家庭の中では、顧みられなくて辛いと思っている人を、スルーしてないと言えるだろうか?
物語を消費して「面白かった」で終えないために、目が覚めるような思いを身のうちに入れるために、こういう「イズム」を内面に持つこと・・・。
思えば、物語の中で寅子は何度も何度も変化していきます。
「はて?」と言いながら歩みを止め、考え直し、イタタタと思いながらできなかったことを反省し、言い返さなかったことを後悔し、傷つけたことを心に刻んで、偉くなるほどに自分自身の心の形を変えていったように見えました。
いつの間にか星航一の「なるほど」の口癖が自分のものになるほどに。
なのでドラマの中で最後の最後まで寅子は若々しかった。
変われることが若さなのだと、固まってしまわないことが人と人の間で生きることの愛なのだと、そういうことがエピソードを重ねるごとに伝わってきました。
「虎に翼」は「鬼に金棒」と同じような意味だと辞書には載っています。
でも、人を殴る武器ではなく、虎に翼を与えるイメージの軽やかさはどうでしょう。
ひらりと一頭の虎が「千里を往って千里を帰る」。そんなふうにいろんなことを成し遂げて、大事な人のところに戻って来たい。
そう思うことに男性も女性もない。
どうやったって同じではないけど、最初からできることとできないことを決めつけられる苦痛からは、そろそろ解放されてもいいのではないかと思うのです。
問題が100年前からあんまり前進していない・・・とドラマを見て愕然とすることも多かったのですが、「螺旋階段のように同じ場所を回ってるようでも、角度が僅かであっても、少しずつでも登ってると思いたいよね」とメンバーの一人の方が言った言葉に深く頷きました。
少しずつでも登って行けたら。
子供にも老人にも女性にも男性にも登りやすい緩やかな階段をつくれたら、たとえ翔べなくても自分のことを全力で大切にできると思うのです。
すごく細かに踏み込んで書かれたインタビュー記事!ぜひ読んでみてくださいね。
この夏見た映画、劇場ではこのくらいでしたが、どれもおもしろかった・・・・
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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