Web3×AIが最強かもしれないって話。WorldcoinとPluralityから予測する未来
いま、世界中を騒がせている「Worldcoin(ワールドコイン)」。
Worldcoinは、国籍やバックグラウンドによらず誰もがグローバル経済にアクセスでき、公正に利益を享受できる世界の実現を目指す、Web3のプロジェクトです。
2023年7月24日に、仮想通貨「WorldCoin(WLD)」がローンチ。日本でも都内の数ヶ所で「Orb(オーブ)」と呼ばれる生体認証デバイスが設置され、固有IDの発行が始まっており、世界中の注目を集めています。
そんなWorldcoinを立ち上げたのは、OpenAI社CEOのサム・アルトマンです。ChatGPT生みの親で、AI(GAI/LLM、以下AI)のムーブメントを引き起こした張本人が、なぜいまWeb3の領域に注力しているのか。
その背景について、サム・アルトマンは「世界の貧困解決とAIによって雇用が喪失した未来に備える」と述べていますが、技術的な観点から見ると、AIとWeb3の相性の良さが根底にあると考えています。
「Web3はオワコン」「時代はAIに移った」といった風評も耳にしますが、実際にはAIとWeb3は切っても切り離せない関係にあり、両者の掛け算でより真価を発揮します。GaudiyはWeb3企業でありながら、AI領域に多くの投資をしている理由も、まさに「Web3はAIで加速する」と考えているからです。
今回は、その事実をお伝えするために、サム・アルトマンの「Worldcoin」や台湾のIT担当大臣オードリー・タンが提唱する「Plurality」、GaudiyにおけるAI活用の事例などを踏まえながら、AIとWeb3、メタバースが実現する未来について自分なりの考察をお伝えできればなと思います。
AIとWeb3は発展途上の技術
はじめに、AI、Web3ともに発展途上の"技術"であり、世界をより良くするための"手段"であることに触れておきたいと思います。
ChatGPTの登場により、実用化のレベルが一気に引き上がったLLMですが、AIは学習が進むにつれてより精度が高まっていく発展途上の技術です。OpenAIが公開した「ChatGPT」だけでなく、Googleの「Bard」やMetaの「Llama2」など、LLMの技術革新はすさまじいスピードで進んでいます。
またLLMの発達に伴い、その技術を活用した新規サービスがいくつも生まれていますが、その改善にはヒューマンフィードバックがとても重要だと言われています。
一方、Web3においては、仮想通貨やNFTなどの投機的なイメージがいまだに強いと思います。一過性のNFTブームが去り、Web3は再び「冬の時代」に突入していると言われていますが、腰を据えて取り組んでいる企業がインフラ整備を着実に進めている時期です。
AIもWeb3も、世界をより良い方向に変えていくための革新的な技術であることは間違いないですが、同時に多くの課題も存在します。それを解決し、より発展させていくためには、AIとWeb3の掛け合わせがとても重要です。
では、AIとWeb3がどのように組み合わさるのかについて、具体例とともにご紹介していきたいと思います。
AIの弱点をトークンインセンティブで解決する
AIには「コールドスタート問題」と呼ばれる課題があります。
これは、新規のユーザーや新規のコンテンツなど、学習に必要なデータが十分に溜まっていない場合に、機械学習による予測の精度が落ちてしまう問題のことを指します。
例えば新しいSNSを使うとき、自分が興味ないコンテンツばかり表示されることも多いと思いますが、これも同じ問題です。パーソナライズできるほどの学習データが溜まっていないために、レコメンドの精度が上がらず、再生回数などプラットフォーム上で評価が高いものが優先されたりします。
このコールドスタート問題が生じると、ユーザー体験が悪くなってしまうので、AIでは初期にいかに学習データを集められるかがとても重要です。
それを解決し得るのが、トークン(仮想通貨)です。初期のトークンには、値上がり益を目的としたインセンティブが働きます。そこで、このトークンインセンティブを利用して、学習データを蓄積する協力者が、よりよいAIモデルに貢献できるメカニズムデザインをつくります。
具体的には、協力者はトークンを目的に参加し、一方の利用者はトークン決済によってAIサービスを利用する仕組みです。そのサイクルが大きくなればなるほど、トークン価格が上がり、初期のトークンホルダーに対してより大きな還元(値上がり益)がなされるというスキームができます。
その後、仮に投機筋が抜け、トークン価格が下がったとしても、フロー的価値を特徴とするNFTやFTなどと異なり、AIの学習モデルはストック的価値があるため、サービス自体への影響がないことも利点として考えられます。
サム・アルトマンのWorldcoinでも、このコールドスタート問題を解決する戦略を取っています。"Proof of Personhood(人間性の証明)"をコンセプトにするWorldcoinでは、「World ID」という分散型アイデンティティ(DID)のパーソナルデータを集めるために「Worldcoin Token」というトークンを無償配布する仕組みにすることで、多くの初期ユーザーを集めています。
Web3(DAO)の弱点をGenerative Agentsで解決する
また、Web3のコアである「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」におけるコミュニティマネジメント問題を、AIの技術で解決できると考えています。
DAOの問題は、シンプルに揉めやすいことと、多数決による意思決定があまり機能していないことにあります。
例えば、NEMという仮想通貨では、トークンホルダーが短期的なインセンティブを求めて投票したことで、当初のビジョンから逸脱することになり、開発者がハードフォークして方向転換するという事態が起きました。
(完全なDAOがうまくいかない話は、以下の自分のnoteにも書いています)
Gaudiy経済設計顧問の坂井教授が著した『多数決を疑う』にも書かれているとおり、従来の民主主義では「多数決」という手法で意思決定を行いますが、これにはマイノリティの意見が汲み取れないなどの欠点があります。
より望ましいのは「熟議」による意思決定プロセスですが、限られた時間と空間で、多くの人が同時に議論することは不可能であるため、仕方なく「投票」という手段に頼らざるを得ないのがDAOの現状です。
しかしながら、AIを活用すれば、この熟議プロセスを実現できます。
具体的には、今年4月にスタンフォード大学とGoogleの共同論文で発表されたGenerative Agents(以下、AIエージェント)などを活用します。性格を学習させたAIエージェント同士が、個々の感情をふまえた議論をして、人間がその結論に従うような世界です。
この世界観は、台湾のIT担当大臣オードリー・タンとグレン・ワイルが提唱した「Plurality(プルラリティ)」という思想に基づいています。
Pluralityとは、AIとWeb3のテクノロジーを使うことで、多様な意見を尊重し、人々が協働しながら妥当な解を導くことのできる多元主義の思想です。従来の民主主義をテクノロジーでアップデートしたものとも言えます。
AIの議論をもとにした意思決定って大丈夫なの? と思うかもしれませんが、案を絞るまでの熟議プロセスはAIエージェントに任せ、最終的な意思決定は人間が行う方が、効率的かつ合理的だと考えています。
Pluralityは、今年の初頭くらいから僕が最も関心を抱いている考え方です。
Web3企業のGaudiyがAIに投資する理由
このように、AIとWeb3は相互に補完できるような特徴があり、両方を掛け合わせることで、より活用や技術革新が進んでいくと考えています。
Gaudiyはブロックチェーンの技術を活用したファンコミュニティサービスを、世界的に有名なIPを有するエンタメ企業に提供しています。このDAO的なコミュニティをより発展させるために、現在、主に2つの領域でAIへの開発・研究を行っているので簡単にご紹介します。
1. AIエージェントを活用したコミュニティマネジメント(PluralityDAO)
これまで、コミュニティマネージャーが行っていた企画立案やCS対応、ユーザーマッチングなどに、AIエージェントを活用するという研究開発を行っています。
毎年数万人が参加するフジテレビ主催のアイドルフェスで、Gaudiy提供の約4万人が登録するファンコミュニティアプリにおいて、ユーザーの投稿にAIエージェントが返答、会話するという新しい取り組みを実証実験しました。
参照元となるGenerative Agentsの論文のままでは、長期記憶やいくつかの課題がありましたが、実証実験ではこれにGPT-4での実装と長期記憶を独自開発することで、その問題を解決しました。
現在は、この精度をさらに高めるため、text to imageや voice to textといったマルチモーダル(数値/画像/テキスト/音声など複数種類のデータを組み合わせたり、関連付けたりして処理できる単一のAIモデル)を導入し、よりよいユーザー体験を提供できるような研究開発に取り組んでいます。
2. IPを使った独自の画像生成AI
また、ファンによるエコノミーの拡張を実現するため、誰でもクオリティの高いクリエイティブを簡単に生成できる、IP独自の画像生成AIに取り組んでいます。
画像生成AIではよく「著作権」が問題になりますが、GaudiyではIPが提供するデータをモデルアセットに活用することができるため、著作権問題をクリアしながら質の高い画像生成を行うことが可能です。
これはグローバルIPを複数所有する日本の強みを生かせる領域であり、その際に企業がIPのモデルをしっかり保全した形で所有できていることや、その経済圏をトークンエコノミクスでつなぐことは、大きな競争優位になると考えています。
この技術は、コミュニティサービス内ではまだ提供していませんが、複数のIPとともに研究開発を進めています。直近の例では、大手レーベルと約90万人のチャンネル登録者数を有する有名YouTuberの新曲CDジャケット(IP非公開)を、画像生成AIを活用して制作させていただきました。
近い将来には、AI生成レンダリングを活用して、ユーザー自身がプロンプトで簡単にゲームをつくれるような世界線にもなると考えています。
こうしたAIの精度を高める上で、ファンによるフィードバックができることは、非常に強みになります。ファンだからこそ、小さな違和感にも気づき、より強固なIP画像モデルを作っていくことができるからです。
ファンの貢献活動によってAIが育ち、AIが育てばIPコンテンツをもっと増やせる。さらに、Web3のコミュニティでは貢献してくれたファンにインセンティブを還元することで、好循環を生むことができます。
日本のIP、ゲームの強みが最も活かせる領域なので、これらの組み合わせで世界に勝てるプロダクトを作ります。
AIとWeb3、メタバースが実現する未来
もうひとつ、メタバース(ここでは「デジタル空間」という狭義の意味で扱う)が、AIエージェントの精度を高めるのに重要な役割を果たすため、その関係性についても触れます。
なぜなら、メタバース空間では、より多くの "人間らしいデータ" を取得できるため、AIエージェントの性格学習が進むからです。
これまでのデジタルデバイス、例えばPCやスマホの場合は、興味関心や位置情報のデータを取ることはできても、検索行動の前にある感情データまでを取ることはできませんでした。
ですが結局のところ、人間を知るための強力なデータは、デジタルデバイスに触れているときではなく、何気ない日常にあります。人々がより多くの時間をメタバース空間で過ごすようになり、そのデータを取得できるようになれば、より精度の高いAIエージェントをつくることが可能です。
では、より精度の高いAIエージェントをつくれるようになった先に、どんな未来が待っているのか?
一番大きな変化だと思うのは、自分の代わりとなる高精度なAIエージェントをつくることで、人生をパラレルに生きられるようになることです。
現在の社会では、人々は、基本的にひとつのパスしか通れません。例えばキャリアの意思決定において、3つの選択肢の中から1社に決めたとします。もし残りの2社を選んでいた場合にどうなっていたのかは、実際に働いてみないと想像することも難しいと思います。
ですがAIエージェントがいれば、残り2つのパスを同時並行で試したり、事前にシミュレートすることが可能です。これに気持ち悪さを覚える人もいるかもしれませんが、パスを増やせるということは、より自分らしい選択肢を選びやすくなったり、よりよい人生を生きられることにつながります。
これは、僕が以前noteにも書いたNetwork Stateの未来にも通ずる話です。
Web3が実現する複数のデジタル国家に所属できる世界において、AIエージェントがより自分にあう国家を見つけてきてくれたり、ひとつの国家内でもAIエージェントが自分の代わりに議論してくれたりする未来がやってくるかもしれません。(まさにオードリー・タンが提唱するPluralityの世界です。)
人生一度のパスしかないと思うと、大きな決断がしづらいこともあると思います。ですが、実際の"絵"として見ることができれば「これは捨ててもいい」「この夢はめざしたい」のように思えてくる。
これは脳科学的にもホメオスタシスという脳のはたらきとして検証されており、自分の人生をどう生きればよいかわからない不確実な時代だからこそ、解像度の高い未来予想図を見られることの重要性は増すと考えています。
まとめ
さいごに、改めて伝えたかったことをまとめます。
Web3からAIに時代が移ったわけじゃない。むしろWeb3はAIで加速する
AIとWeb3は不可分で、両者の掛け算により時代を進めることができる
サム・アルトマンのWorldcoinやオードリー・タンのPluralityなど、世界の著名人がAIとWeb3の両方に注目している
AIとWeb3、メタバースで、人はより自分らしく生きられるようになる
今回は割愛しますが、医療、エンタメ、人材開発、国家運営など、AIとWeb3の可能性はさまざまな領域で見えてきています。いまのスピード感であれば、来年はもっと色んな事例が出ていることと思います。
僕は、Web3とAIの掛け合わせは互いの技術を進化させ、大きな社会変革を起こすものになると確信しています。だからこそ、GaudiyはWeb3企業でありながら、AIに大規模な投資を行っていきます。
そして、その挑戦がGaudiyのビジョンである「ファン国家」の実現を大きく加速させると信じています。今回のnoteでもGaudiyのAI活用事例を紹介しましたが、これからもめちゃくちゃチャレンジしていきます。下記に、いま仕込んでいるものや今後のロードマップを載せているので参考までに。
AIチームには、海外のエンジニアや研究者出身など、ユニークなメンバーが集まってきています。まだまだ絶賛採用中なのでぜひ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?