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マッキンゼーのビジネス文書スタンダード「バーバラ・ミントのピラミッド原則」を詳しく解説する。

1.はじめに

ビジネスの現場では、プレゼンテーションや報告書の作成が日常的に求められます。
しかし、これらの文書を効果的に作成するための具体的な方法を知らない方も多いかもしれません。

そのため、多くの文章術が世の中に出ています。
その中で最も有名なものの一つが、バーバラ・ミントの「ピラミッド原則」です。

バーバラ・ミントは、ビジネスコミュニケーションと問題解決の分野で大きな影響を与えたアメリカの作家兼コンサルタントです。

ハーバード・ビジネス・スクールを卒業し、マッキンゼーに初の女性MBAコンサルタントとして1963年に入社しました。
その後彼女は、マッキンゼーでの経験を活かし、1973年に独立。その後40年以上にわたり、そのコミュニケーション手法を教え続けています。

日本においては1995年に『考える技術・書く技術』を翻訳出版し、ピラミッド原則を紹介しました。

その後、「新版 考える技術・書く技術」、「同ワークブック(上下巻)」、「入門 考える技術・書く技術」、「同スライド版」といった関連書籍も出版され、多くのビジネスパーソンに愛読されています。

ピラミッド原則は、文書作成やスライド作成などに用いるライティング手法の一つで、頭の中にあるモヤモヤとした考えをクリアなメッセージに変換し、説得力あるように構成するロジカル思考法です。

ただ、この本。欠点があります。

それは「あまり面白くない」こと。確かに正しいことを言っていますし、内容も豊富なのですが、とにかく退屈で、分厚い本ですので、読むのが大変なのです。挫折した方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、ピラミッドストラクチャーの基本概念から具体的な応用方法を、重要な部分だけをピックアップし、簡潔に解説します。

2. ピラミッド原則の利点と適用分野

まず、ピラミッド原則を適用することのメリットについて伝えます。

2.1. 明確性と説得力の向上

ピラミッド原則を用いることで、情報が論理的に整理され、明確で説得力のあるメッセージを伝えることができます。これにより、読み手や聞き手が情報を理解しやすくなり、納得感が高まります。

例えば、ビジネスレポートや提案書において、ピラミッド原則を用いることで、重要なポイントを先に述べ、その後に詳細な説明を加えることで、読み手が一目で要点を把握できるようになります。

2.2. 効率性と問題解決能力の強化

ピラミッド原則は、情報を効率的に整理し、問題解決能力を強化するためのツールとしても有効です。複雑な問題を階層的に整理することで、解決策を見出しやすくなります。

例えば、プロジェクトマネジメントにおいて、ピラミッド原則を用いることで、プロジェクトの全体像を把握しやすくなり、各タスクの優先順位を明確にすることができます。


こうしたメリットから、ピラミッド原則は、戦略立案やコンサルティングの分野でも活用されています。情報を論理的に整理し、明確な戦略を立案するためのツールとして非常に有効です。

例えば、企業の経営戦略を立案する際に、ピラミッド原則を用いることで、経営陣が直面する課題を明確にし、それに対する解決策を体系的に整理することができます。具体的な事例として、マッキンゼーや、ボストン・コンサルティング・グループがクライアント企業の戦略立案においてピラミッド原則を活用していることが挙げられます。

では、具体的にピラミッド原則を採用する手続きを見ていきましょう。

3.ピラミッドを作る前に、問題を定義する

ピラミッド原則では、いきなり書き始めてはいけません。
まず、適切に問題を定義するためにSCQフレームワークを使用することが推奨されます。

3.1. Situation:現状の把握

SCQフレームワークの最初のステップは、現状の把握です。これは、現在の状況や背景を明確に説明することを意味します。例えば、新製品の市場投入を計画している場合、「現在の市場状況」「競合製品の状況」「消費者のニーズ」などを説明します。

具体的な例として、ある企業が新しいスマートフォンを市場に投入しようとしているとします。この場合、以下のような現状の把握が必要です。

  • 現在の市場状況:スマートフォン市場は既に成熟しており、多くの競合が存在します。

  • 競合製品の状況:主要な競合他社は既に最新技術を搭載した製品を提供しており、ブランド力も強いです。

  • 消費者のニーズ:消費者は高性能でありながらコストパフォーマンスの良い製品を求めています。

3.2. Complication:問題点の特定

次に、現状を複雑にする要因や問題点を特定します。これにより、解決すべき課題が明確になります。例えば、「市場には既に多くの競合製品が存在する」「消費者のニーズが多様化している」などの問題点を特定します。

具体的な施策として、以下のような問題点を特定することが考えられます。

  • 競合の多さ:市場には既に多くの競合製品が存在し、新規参入が難しい状況です。

  • 消費者の多様化:消費者のニーズが多様化しており、一つの製品で全てのニーズを満たすことが難しいです。

  • 技術の進化:技術の進化が早く、常に最新の技術を取り入れる必要があります。

3.3. Question:核心問題の明確化

最後に、解決すべき核心問題を明確にします。これにより、具体的な解決策を導き出すための方向性が決まります。例えば、「新製品が市場で成功するためには、どのような差別化戦略が必要か?」という核心問題を明確にします。

具体的な事例として、Apple社のiPhoneの成功が挙げられます。Appleは、デザインの美しさや使いやすさ、エコシステムの強さを差別化要因として市場で成功を収めました(出典:Apple公式サイト)。

このように、SCQフレームワークを適用することで、現状の把握から問題点の特定、そして核心問題の明確化までを体系的に行うことができます。


なお、上のSCQフレームワークは、それだけでまた本が一冊掛けてしまうくらいのボリュームになりますし、文書術とは異なるスキルなので、本記事では「先に問題を定義するほうが重要」くらいで覚えておけばよいと思います。

それでは具体的にピラミッドを作っていきましょう。

4. ピラミッド原則の基本構造

考える技術・書く技術 バーバラ・ミント ダイヤモンド社

4.1. 頂点のメッセージ:情報の核心

ピラミッド原則の最も重要な要素は、頂点のメッセージです。
これは、全体の情報の中で最も重要な結論や主要なメッセージを指します。頂点のメッセージは、読み手や聞き手に対して最初に伝えるべき内容であり、全体の文書やプレゼンテーションの方向性を決定します。

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