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"数字"に支配されるメディア。取材費とPVに揺れる現場の話

私はこれまでテレビ局、ウェブメディア、新聞社と、業態も規模も異なる3つの会社で、さまざまな業務を経験してきました。そんな私の視点で、今のメディア業界を一言で言い表すと・・・

「めっっっっっっっっっっっちゃ、厳しいデス…」

意外と知られていない、メディアの現状を深掘りして書きます。

ニュースづくりは料理と似ている?コストカットが進むと…

突然ですが。
メディアにおける「コンテンツ制作」は、「料理」と似ている、と言われます。

買い出しをするように、取材をして素材を集める。材料を切って、焼いたり・炒めたりするように、編集したり、校正したり。そして食卓に届ける感覚で、配信ボタンを押す…という具合に、その工程が料理のそれと重なる、というわけです。

そして、いかに新鮮な食材を調達して、鮮度を保ったままおいしい料理を食卓に届けるかが、レストラン(≒報道機関)の腕の見せどころ。いつでもどこでも何かネタがあれば、すぐに現場に駆けつけられるようにと、現場の料理人たち(≒記者や編集者)にタクシーチケットを持たせたり、全国各地に支社支局のネットワークをつくり上げるなど、大手メディアなどは並々ならぬ企業努力をしてきました。

…前段が長くなりました。

そんなメディア業界がいま、大変なことになっています。特に"コストカット"の問題は深刻です。国内外、多くのメディアにおいて、人員削減や、経費削減の波が押し寄せています。

メディア企業において「経営のスリム化」が進むと、一体何が起きるか、想像がつくでしょうか?

一番に槍玉にあげられるのが、先にも挙げた「タクシーチケット」だったりします。一般的な感覚では当然、タクシーチケットが「必要経費」とは到底受け入れられません。そのため現場の人たちが「大事な取材のために、タクシーチケットが必要なんです!」と訴えても、経営者からは「贅沢なタクシーの無駄遣いを減らすことの、何が問題なんだ。これだから、世間知らずな"マスゴミ"と批判されるんだ!」…と、一刀両断されてしまいます。ちなみにメディアの経営者には現場感覚がないのか、と疑問に思われるかもしれませんが、昨今は外部の経営コンサルタントが介入するケースも多く、メディア業界の古い慣習を取り払おう、というバイアスも強まっています。

メディア特有のコストカット事情

ただ、メディア企業におけるこうしたコストカットは、一般的な企業における「経営のスリム化」にとどまらないインパクトをもたらします。それは「その瞬間に、その場所でしか取材できないことが、できなくなる」ことを意味するからです。これこそが、その他の業種とは異なる、メディア特有の事情だと言えます。

取材とは「材料」を「取る」と書いて取材です。メディアにおけるコストカットは、「新鮮な食材」が調達しづらい状況を生み出します。それによって、いま情報空間には、いつでも取材できるネタ・簡単に取材できるネタばかりが溢れかえる状態となっているわけです。

PVノルマで疲弊する作り手と、ますます不健康になっていく受け手


メディアとお金の関係で言えば、少しアンタッチャブルな「スタッフのお給料」に絡んで、近年問題視されていることがあります。

それはPVノルマの問題です。

前提として。昔からメディア業界では、コンテンツの「品質」の評価は、とても難しいとされています。「良いニュースとは何か?」という問いに、プロの記者や専門家でも、その答えは千差万別なんです。

そんな永遠の議論を横目に…非常にわかりやすい指標(=PV)が、ほんの数年で、社会全体に浸透してしまいました。

そしてメディア業界の中でも、PVを「品質の指標」とする企業が現れ始めました。そうすることによるメリットは、たくさんあります。特に管理職にとっては、PVを「目標値」や「ノルマ」に据えることで、部下の目標の達成度や、達成のプロセスを可視化することが可能になります。また、先にも書いたような「タクシーやカメラの稼働数」など、コンテンツをつくるのにかかったコストと、それによってどれだけPVを獲得できたか、を分析することで、生産性を高める戦略を練ることもできます。

ただ…現場レベルでは、ノルマが自身の評価やボーナスにまで影響を与えるということになれば、「なんとしてもノルマを達成したい」というマインドにならざるを得ません。もしも取材のために(その瞬間にしか取材できない貴重なネタのために)タクシーに乗ろうものなら、それに見合うだけのPVを獲得しなければ…という、見えざるプレッシャーを感じたりもします。PVという指標が誕生する以前は、こうしたプレッシャーは皆無でした。

結果として、質にこだわるコンテンツ制作は後回しになり、手っ取り早くPVが取れるネタから着手してしまう。たとえば動物の話題や、芸能人がSNSを更新した、といった話題からまずは取り掛かり、もし余裕があれば…自分のあたためている「意味のあるニュース」に取り組もうかな…という具合です。

憂慮すべき「PVノルマ」の問題

メディアを取り巻く環境は厳しい。逆境に打ち勝つ起死回生の一手は

このようにメディアを取り巻く状況は、非常に厳しいです。

質を維持しようともがくメディアの中には、経営不振に陥るケースも出てきました。生き残るには、人員削減やコストカットを断行し、コンテンツの質を下げてでも「数の原理」で効率化を図り、広告収入を維持していくしかありません

そんな厳しい状況を打破するには・・・抜本的に、構造を見直すしかない。しかし・・・

正直なところ私自身、「メディアを存続させるために、そこまで躍起になる必要があるのか?」と、弱気になり、自問してしまうことが度々あります。「メディアの存在意義」を見直すことも含めて、業界全体で、模索が続いているのが現状だと言えるのではないでしょうか。

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