蝉の声が聞こえない日に
秋は突然やってくるもんで、風の冷たさに戸惑う。
一年で好きな季節はこの変わり目だけれど、どこかあの暑さが恋しくなる。
今日も日課の散歩に出かけると、タイムスリップしたような気分になった。蝉の声は聞こえず、虫も秋の定期公演に向けて準備し始めるから、町が静かだった。
時々季節の変わり目にフラッシュバックする記憶があって、それは恋だったり友人との思い出だ。会社員みたいな生活をしていない自分にとっては、日中のこういう時間がたまに必要だった。
何事もひとりで完結するライフスタイルは見ようによっちゃあスタイリッシュだし、羨ましさを伴うけれど、実際はえらく地味で平凡だ。
空を見上げればいつもよりも空はスカイブルーの名にふさわしい青で、地上にいる俺を優しく抱きしめる。なんの変哲もない日常が少しばかり慰められているようで、そんな自分を低く飛ぶ鳥の群れが眺めてるような気がした。
夏の時間には見なかったその群れは今日もどこかに向かいそして帰っていくのだと思うと、コンビニの喫煙所でぼけっとしてる俺は悠々自適に見えるのかもしれない。このあと作業をするというのにその苦労は見えることはない、でもそれで良い。
行き交う車の数を眺めるのも飽きてしまってまた一本加えては、長袖の隙間から抜けてくる秋をようこそと受け入れてみる。
少し冷えた体を起こしてみては、この一年の短さを少し疎ましく思い、それもまた自分を奮い立たせるひとつなので案外悪くないとかぼやいたり。
12/22のライブを企画して以降、自分の中の歯車が回り始めて全てが見えてくるようになった。
今までこの秋に流されるまま冬に招待されていたのとは違う、特別な秋になりそうだ。
きっと来年はこの季節に触れて思い出す記憶が更新される気がしていて嬉しい反面、少し寂しく感じる。
こんなことを繰り返す道の先に忘れたものを思い出す日が来るのだろうか。そんなことに思い耽っていたらまた鳥の群勢が真上を通り過ぎた。
分かりましたよ、作業しますよ。そう呟いて火を押し消した。
日差しはまだ暑い秋の訪れを感じる9月の終わりに。
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