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ハマる人

ハマる人   作:高木優至


(壁にはまっている。)

あの。あの! すみません!

23人。私がこの壁にハマってから呼びかけ続けること23人目。またこちらを見ることもなく足早に通り過ぎていった。そりゃあそうだろう。何が楽しくてこんな壁にハマっている様な、怪しげな人間に関わろうとするだろうか。

あの! あの! ちょっといいですか! あの!

24人。ちらりと見たが、その一瞬で全てを悟ったかのように目をそらして通り過ぎていく。はあぁ、一体いつになったら私はここから解放されるのだろうか?

(声をかけられる。)え!? は、はい。何ですか? いや、何をしてるも何も…ご覧の通り壁にハマっておりますが何か? あなたにはこの状況が楽しいように見えますか? あ、すみません。つい声を荒げてしまいました。まさか話しかけられるとは思ってもいなかったもので。

何でまた私に? そうでしょうね、そうでしょうね。何をしてるのかな~?ってなりますよね普通。で・す・が! ここの人たちは皆、何事も無かったかのように通り過ぎて行くんです。そう、まるで私が存在していないかの様に。あなたで25人目ですよ。そりゃあ、たまにはチラリと見てくれる人もいましたよ。でもそれだけです。あなたの様に声をかけてくれる人なんて、誰一人としていない。

…どうして声をかけようなんて思ったんですか? あの。変な人がいるな~は普通に傷つきます。“もう少しオブラートに伝えてあげよう”みたいな気遣いは、ありませんでしたかね? そーですかー、とても素直な方でビックリです。

あの、もしよろしければこれも何かの縁ですし、LINEの交換を…いや違った。私を助けていただけないでしょうか? はい。ここからちょっと出して欲しいんです。いいですか? あ、すみません。ありがとうございます。

あ、あと。つかぬ事をお尋ねしますが…ご家族がいらっしゃったりとかしませんか? 旦那さんとお子さんが二人。そうですか。あの、でしたら…そうですねー。あ、大丈夫です。あの、今大丈夫になりました。はい。まだハマったままですけど、大丈夫です。

いや、別に楽しくなってきた訳じゃないですよ。あの、どこか楽しそうに見えますか? あ! あの手を持って踊るのやめてもらっていいですか! 恥ずかしです。すっごく恥ずかしいです。あの、やめっ! あ、ありがとうございます。私は寧ろ一秒でも早くここから抜け出したいんです。

でもいいんです。あなたがとても良い人に見えるから。巻き込みたくないんですよ。あなたの様な人は。いや、だから助けていただかなくて結構です。大丈夫ですよ、痛い痛い痛い! そんなに強く引っ張ると痛い! …ですよ。以外に強引な方だったんですね。だから家庭を持って幸せそうなあなたを…って痛い痛い痛い! ちょっとちょっと待って! 聞いてました?人の話。助けなくていいですから! 落ち着いて。ステイ。ちょっ!と、じっ!としてて!って。…遊んでます?

実はですね、どうして私がここにハマっているかというとですね。私もここにハマっている人を助けたんですよ。そうしたら今度は私がこんな目に…わかりましたか? だからいいんです。あなたはとても良い人そうですし、他の人を探しますよ。

面白そうって何ですか? 何も面白くないですけど。あ、ダメですよ! あなたには旦那も子供もいるんだから、そんな危ない橋を渡っちゃダメだ! あ、ダメです! この一線を越えたら、もう元には戻れませんよ! あ、ダメです奥さん! いけない! 好奇心や出来心で許されるもんじゃないんですよ! 奥さん!

助けます! あなたがもし私を助けてここにハマったら、また助けますよ私! いいんですか? 永遠の鼬ごっこですよ? いや、夕飯の支度まだしてきてないとか、そんなことはどうでもいいんですよ! あなたが私を助けたいと思ってくれた。それだけで私は嬉しいんです。すっごくすっごく嬉しかったんです!だから!

あなたは、あなたが待っている人の所へ戻ってあげてください。お願いします。

わかってくれましたか? あ、ダメです奥さん! ダメ!あ、あれ? あ、なんか抜けれました。どうしてでしょうね? わたしにもさっぱり。何かありがとうございました。もう全てあなたのおかげです。私もこれで家に帰れますよ。奥さんも、子供たちに美味しい夕飯、作ってあげてくださいね。ありがとうございました。お元気で。…さーて、帰るかな。

(足がハマる。)あれ? え? ちょっと待って…あ、奥さん! 奥さん、ちょっと待って! また!


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