見出し画像

ゆうしゃのパーティー

ゆうしゃのパーティー   作:高木優至

(勇者と戦士と魔法使いが試練の祠に向かっている。)

あの。…あの。私、わかってるんです。どこかから。見てるんですよね? あの、神様。先程の戦いも見てましたか? もちろん見てますよね? あの、私ご存じかと思いますが、只今MP0なんです。あの聞いてますか? 試練の祠に着く前に私のMP0なんです。信じられますか?

いや、魔法使いがMP0ってもうこの世の終わりじゃないですか。私、まだ3日前に仲間になったばかりなんですよ。なのにMP0で試練の祠って…考えられなくないですか? だってまだ最初の試練も始まってないんですよ? だから私勇者に言ったんです。一回戻ろうって。そしたらどうなったと思います?

これですよこれ。(山盛りの薬草)確かに魔法が使えなきゃただのお荷物ですよ?私。武器もこの棒っ切れ一本だし。いや、こんな棒っ切れ一本じゃスライムにも勝てないでしょ。え…私の存在意義って何だ。草持ちおじさん…嫌だー! そんなの嫌だー! お願いします神様。

(ガシャンガシャン音がする)

ああ、今勇者が血眼で壺を割っていますが、とりあえず無視しときましょう。神様。私、この脳筋勇者にはとても付いて行けません。この3日で悟りました。私にはとても手に負えそうにありません。どうか、どうか抜けさせてください。

(壺を割る音が止まる。)

あ、はい。薬草ね。さっき使ったからまだまだ入りますよ。ってだから草持ちおじさんじゃないんだって!

(壺を割る音がする。)

って話聞いてねぇし。あいつも壺好きだよねー。最初からいる戦士のおっさんもさ、よくついて行けるよなぁ…って思うでしょ? 私わかっちゃったんです。二人とも脳筋なんだって。だってですよ。敵と出会ったらただひたすら剣を振りまくるだけって。わかります?この地獄絵図。おかげで私のMPはすっからかん。ていうか少しは自分で薬草持てっての。

え、あれ? 壺の魔物? いや勇者眠らされてるし…どうすんのこれ。私無理、MP0だし。お、戦士来た!って空振りかい! いや勇者死ぬ死ぬ! とりあえずこれでも食っとけ。おいおい勇者全然起きねぇなおい。戦士当たらないわ、私草詰めるだけで精一杯だわ、もう。詰んだー! これ詰んだわー!

痛い痛い痛い! 私ペラッペラなんだから狙わないで。いやもう自分で草食っちゃうよ草。え!?戦士様、やった会心の一撃! よっしゃ、いや~あんた最初からやる奴だと思ってたよ私。って勇者寝たまんまだよ。起きないのかーい! もう戦闘終わってるって。お前誰のおかげで今生きてられてると思ってんだ毎回毎回、覚えとけよ。

起きたわ。と思ったら宝箱。あー開けるよねー。そうですよねー。あったら開けるよねー。薬草ね。はいはい。って草持ちおじさんじゃねぇわ! 誰のおかげでおま…あーLVが上がったのね。はいはい、よかったね。いやー…助けてー、誰か助けてー。…で死にかけたのにまだ進むのね。いやもう正気の沙汰じゃないわこれ。

あの勇者さん? いや、門の前に凄い強そうな魔物が…行くんですか? いや嘘でしょ? やめた方がいいって。あー行くんだ。…って勇者ワンパン! 草詰める暇すらないんですけど。あの戦士のおっさん、ここは勇者を回収して逃げた方が…ってもうやられてるー! いやいやいや、無理でしょどう考えても。(様子を伺う。)ここは逃げるが勝ち。君達の雄姿はきっと後世に語り継がれるであろう。

ってあれ? え…あの追いかけて来ないんですか? 優しい。逃げられるんだ。てっきりこういう時は私、逃げられないもんだとばかり思ってました。…あ、え? ひょっとして神様。見ててくれたんですか。えーなんかありがとうございます。あれ? え、これってもしかして、このまま逃げればこの糞パーティーともおさらばできるんじゃないんですか? あ、え、やった。えっと、神様。ありがとうございます。これで心置きなくって棺桶ついてくるんかーい。

(スライムと遭遇する。)

って、え…スライムって、嘘でしょ?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?