ムシマニア

ムシマニア　　　作：高木優至

（自宅の昆虫飼育部屋。記者が取材に来ている。）

あ、そこ気を付けてくだされ。はい、ここが虫さんたちの別荘でごじゃります。色んな虫さんたちが百数種類ほど暮らしているでごじゃる。全部で数千匹はごじゃろうかのう。

ああ、いたいた。どうじゃ？　このニジイロクワガタの見事な光沢。ほれほれ、ハナカマキリの何と美しい佇まい。はあぁあー、眼福眼福。この子たちがいれば記者さんの特集ページでも映えること間違いなしでごじゃろう。

ふむ。ま、確かにこの子達はメジャーでごじゃるな。もっとマニアックなもの？　う～ん。この子なんてどうでごじゃろう？

アオミオカタニシ。ほりゃほりゃ綺麗な薄緑色でごじゃろう？　この子はなぁ。何と、カタツムリなのに蓋があるのでごじゃる！　ほりゃ、パタコンパタコンって蓋。しかもしかも触角の先っちょじゃなくって何と、根元に目があるんでごじゃる！　のう？　面白いでごじゃろう？

それにこの子なんて…え？　それはどういう意味でごじゃる？　確かに虫さんたちの中には見るからに気持ち悪い子もいるでごじゃる。でもそれだけじゃなくて、このように可愛い子たちもたくさんいるのでごじゃるよ？　記者さんはそれをもっとたくさんの人に知ってもらうために今日来たのでごじゃろう？　そうじゃろう？

あの…少し宜しいでごじゃるか。お主からは虫さんたちに対するラブコンパワーがミジンコも感じられないでごじゃる。これは由々しきことでごじゃるよ？　お主本当に月間ムシムシパラダイスの編集者さんでごじゃるか？　（不審に見る。）ジー。ジー！

私にはそうは見え…。そりゃあ気持ち悪いと思う人も居るでごじゃるよ。私はそんな事ミジンコも思った事ないでごじゃるがな。まあ、確かにお主の言う通り、好きでない方をも唸らせてこそのマニア道でごじゃる。そうじゃ。私がお主を見事唸らせて進ぜよう！

注もーく！　注もーく！　え…はい？　確かに最近、心無い飼い主がポイ捨てしたり、外来種が我が物顔で全国にはびこってごじゃる。でもでも世の中、圧倒的にそんな阿呆ばかりではないのでごじゃるよ。

まあ、お主の言う通り少し放たれただけでも馬鹿みたいに増えていく子がいるのも否めない現実でごじゃる。でも本当の被害者は、故郷から連れて来られて愛も無く捨てられたあの子たちでごじゃるよ。

残念ながら馬鹿につける薬はないでごじゃる。本当にクソ飼い主は、シデムシに食われて跡形もなく消えるでごじゃるよ。マジクソざけんなボケって思うでごじゃるよそりゃあ。それでも私は、あの日あの時目の前に知らない生き物が現れた時のワクワクを無くして欲しくはないんでごじゃる。たくさんの子供達が目をキラキラ輝かせて、この子たちと出会って、たくさんたくさん良かったなって思って欲しいでごじゃるよ。私はそう思うのでごじゃる。

は？　何でごじゃる？　何でごじゃるかお主は！　どうしてそんな事を言えるのでごじゃる？

私だって好きでこんな狭い世界でこの子たちを育てている訳じゃないでごじゃる！　関係のない所から好き勝手に正論振りかざして、正義の味方気取りでごじゃるか？　さぞ気持ちの良い事でごじゃろうな。

帰るでごじゃる。もう帰るでごじゃる！　お主に話すことは何もない。もういいでごじゃろう？　取れ高なんて私には関係ごじゃらん。どうぞお引き取りくださいましまし。中途半端で帰って上司にこってり絞られればいいでごじゃる。

あ、どうしてもっていうのなら…考えなくもないでごじゃるよ。但し条件があるでごじゃる。お主…虫を食べたことはあるでごじゃるか？　虫でごじゃる。最近注目の昆虫食でごじゃるよ。実はのう…ゴキブリ、って食べれるんでごじゃるよ。

もちろんその辺にいるゴキちゃんを食べさせるほど私も鬼畜じゃないでごじゃる。病原菌や有害物質が濃縮されているかもしれないからのう。…となると。A、日本代表クロゴキブリ。B、マダガスカル代表ラエビガータ。さーてさて、記者様はー、どっちがお好きかのう？