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お鶴の恩返し

お鶴の恩返し   作:高木優至


(機織りをしている。)

喜んでくれるかな?

あっ、私はお鶴。今訳あって絶賛機織り中なのです。実は「これは何かな~? 何だろ~な~?」と興味本位に覗いてしまったら、枝に頭が挟まってしまって。もきゅー!って感じでもがいている所をこの家の与一さんに助けてもらったのです。

「もう大丈夫だよ。」なんて優しい言葉もかけてくれたこのイケメン与一に、どーしてもどーしても恩返しがしたくなっちゃった私は「ええーい、もう行くしかないっぺさぁ!」ってな感じで、ぶぁっさぶぁっさと押しかけてきちゃいました、与一家前。キャー! 私のド直球イケイケガール! このこの! 

という訳で、与一さんの様な優しい殿方と一緒になれたら…「幸せだろうなぁ~。幸せだよなぁ~。も、幸せ過ぎて死んじゃうでしょ!」てな事で一晩の宿を乞い、なし崩し的に居座り、こうしていそいそと機を織るわけです。はい。

機を織る間、絶対にこの部屋を覗いてはいけませんよ?

キャー! 私の“ザ・できる女感”出まくりでしょー? でしょー? でしょー?

機を織る間、絶対にこの部屋を覗いてはいけませんよ?

もう一回言っちゃう! 言っちゃうよそりゃ。ドヤ? ドヤ? ドヤさ? あー、全国のお鶴ファンのラブコールが聞こえるわー。

そんな感じでルンルン気分で機を織り始めたのはいいのですが。…覗いてるよね? あれ絶対覗いてるよね? てか、まだ一反も織れてないんですけどー! 早すぎない? ねぇ、早すぎない?覗くの。

いや、何でだよ与一。お前はあれか。待ての出来ない犬か? 犬コロか? あー! もう、何でだよ! 私のハッピー計画が全部ズタボロだよ。どうしてくれんだよ与一! あーんな事やこーんな事だってまだしてないのに。どうしてくれんだよ。一回目って…早すぎだろ?

…そうだ。このまま見なかったことに…ってそれは鶴としてのプライドが許さーん! (チラ見する。)おいおいおい。何がっつり見てんだよ。わっ!とかぎゃっ!とか驚きの声も無い訳? 何ただただがっつり見てんだよ。変態かっ! 野鳥の会の方か! 鶴の生態観察してる訳じゃないんだぞ?バカヤロウ。

そう言えば、先輩のおつうさんも3回目で覗かれて破局したって言ってたもんなぁ。って私は一回目だぞ! 何だこのスピード離婚。っていうかまだ見てるよ。何で何もしてこないんだよ。あれかな? 趣味かな? 覗きが趣味なのかな?

あーもう! 気になって機織り処じゃねぇわ! ねぇけど、やめたらバレて別れなきゃいけないから、そんなの嫌だし。まだまだラブラブ生活始まったばかりだし。もっとラブラブしていたいし。ラブラブしているはずだったし。はずだったのに…何してくれてんだ、このアホ与一!

どうする? どうする?どうする?どうするよ? あーもう、わからん。わからんからとりあえす機織ろう。…ってそれでいい訳ないじゃん私! 現実から逃げるな私! 考えろ考えろ考えるんだ私。あっ、そうだ。

…見なかったことにしよう。そうだ! それが良い! 鶴のプライドがなんぼのもんじゃい! そうだ。そうしよう。私さえ知らんぷりしていれば何も問題ないはず。でも鶴と一緒って…どうなんだろうね。

ペット! そうだ。ペットとして傍に…居れないよなぁ。…どうしてかなぁ? どうして一緒に居れないのかなぁ? 私…別れたくないなぁ。

次の日私は、しれっとおはようと声をかけてみた。彼もおはようと返してくれた。どこかよそよそしさを漂わせながら。私は出来上がった反物と置手紙を残し、大空へと羽ばたいていた。体が勝手に動いていた。飛びながら私は、クーと一声だけ鳴いた。

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