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ブックオフで「じぶん探し」をする〜64歳母の冒険〜

「来週いっきまぁ〜す♪」
という酔っ払いながらの電話から数日後。
64歳の母は、とつぜんやってきた。

なぜだかわからないが、母はいつも突然やってくる。
一応わたしも仕事をしているので、いつ来たら良いか相談してくれたらいいのに…
といつも思うのだが、こればかりは毎度お馴染みのパターンである。



そして母はうちに来ると必ずブックオフに行きたがる。

我が家の近くには割と大きめのブックオフがあり、そこで洋服を買いたいのだ。

「ブックオフってぜんぜんブックだけじゃないじゃない」
と、母は言った。

"ブックオフはブックだけがオフではない"
ということを、そのブックオフを見てはじめて知ったらしい。

そうですよ。ブックどころかゲームも服もベビーカーも、ギターも扇風機だって売ってるよ。
暮らしのすべてをOFFしてるんだよ。

「せっかく東京に来たんだし、新品買おうよ〜」
と近くのアウトレットに母を連れていきたいと思うのだが、母はなぜかいつもブックオフ推しであった。


そのブックオフは洋服の量がとんでもなく多いため、母は買い物開始こそウキウキしているものの、中盤あたりからわけがわからなくなり、チンプンカンプンな品がカゴに放り込まれているのもいつもの流れだ。


「え、ぜったい似合わないからやめな」
と、血迷う母にいつも冷静なツッコミを入れるのも、娘であるわたしの役目であった。



今回も
「どんな服を買いたいの?」
と事前に聞くと、

「お尻がかくれる服」
と言う。


「なんかもっとオシャレな服買おうよ〜」
と言うと、

「じゃ、オシャレなお尻がかくれる服!」
と言う。


とりあえず、尻を隠したいらしい。



そこまで言うなら私も母のその基準で、この大量の服の中からベストなものを選ぶことにした。

要はチュニックみたいなやつってことだよね。

チュニックチュニック…


店内をうろうろし、
母に似合いそうなチュニックを探す旅に出た。
服が多すぎるがここはひとつ、一肌脱ごうじゃないの。

チュニックチュニック
チュニックチュニック…

これはお尻が隠れない…
これもお尻が隠れない…

これはお尻が…
これもお尻が…


コレハ?
オシリガ?

カクレル!!!!!


まじで頑張って探し、
何枚か良さげなやつをチョイスして母の元に持っていく。

が、
「これはお尻が隠れないよ。」
とすかさず言われた。

「え〜隠れるよ〜けっこう丈が長いじゃん」と言うと

「こんな風にお腹が出てるから、洋服が上にひっぱられちゃうから、
もう少し長くないとダメなの!」
と母。

し、しらねーよ…。


お腹の膨らみも計算した上での尻がかくれる服でないといけなかったらしい。

そんなん知らんがな。

と思いながらも、わざわざこんなに遠くまで尻を隠す洋服を探しにきた母のためにもう少し頑張って探すことに。
こんどは自分が思っているよりも、さらに丈の長めの、そしてちょっとオシャレな洋服をチョイスしてみた。

母に見せると、
「あ、なんかいい感じ。」
と目を輝かせた。


しかし母のカゴを見ると少し目を離した隙に、ヘンテコな品が入っている。

なんで?そんなの着ないじゃんぜったい…
と思うものばかり。はぁとため息がでる。

そして私がもう一回りしてまた母の元に戻ると、
今度はエスキモーが着るようなめちゃめちゃ
分厚いダウンがカゴに追加されている。


「ねぇ、これ北極で着るやつじゃん」
と私がいうと、

「だって50%オフなんだよ?!すごくない?984円!!」


とまた瞳を輝かせている。

いくらダウンの値段が一桁だって、こんな分厚いダウンぜったい着ないでしょ。
てか誰も買わないからこんな値下げしてんじゃないの?
目を覚ませ、母ちゃん。


そしてわたしはそっとカゴからそのエスキモーダウンを引き抜き、元に戻した。

母は戻されたエスキモーダウンに気付き、
「え〜〜〜安かったのにぃぃぃ」
と言っている。

どうして
【本当に着るかどうか】
ということより
【安さ】
が勝つんだろうこの人は…



ひととおり見て、試着もいっぱいして、
私のツッコミを聞きながら母が取捨選択をし
結局わたしが選んだ1枚と、母が自分で選んだカットソー2枚を買った。

「あ〜楽しかった〜〜」

と満足そうな顔の母と一緒に帰り道を歩く。

もしかすると、母にとってのこのブックオフで洋服を買うというイベントは、
ただ単に服を購入するということではないのかもなァ。
とふと思った。

じぶんに今似合うデザインはなにかな
とか
今着たい色はどんな色か
とか
ちょっと冒険してみようと思うきもち
とか

服を実際に見て、手で触ったり試着してみたりしながら、
そんな「今のじぶん」のきもちを服を通して感じることができる。

はたまた試着では、いつもとはちょっと違うじぶんにもなれたりする。

そんな
「服さがし」というか「その服が着たいと思うじぶんさがし」 fromブックオフ

的な、楽しいイベントになっているのかもしれないなァと思った。

ついでに、値札シールを見た時の母の瞳の輝きが、孫が産まれた時くらい輝いていたので、
値段が格安というところが、
その楽しみを更に倍増にしてくれるらしい。

やっぱり今後もアウトレットではなく、
ブックオフに母を連れていってあげようと思ったのでした。

おしまい



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