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川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』

優しくて大きな鳥に連れられるように、広い世界を旅する短編集。
最初に降り立ったのは、滅びの気配漂うやわらかな場所。詳しいことはわからないけど、おそらく今より遠い未来で、ここの人はちょっと変わったところがあるらしい。そしてしばらくすると私は鳥に連れられて、また違う場所へと降り立つ。次の場所にもなんだか変わったところのある人がいて、前の場所とは全く違う世界みたいだ。
そうやって各地を転々と旅するうちに、だんだんと謎がとけていき、最後には今まで訪れてきたところが全てつながっていたことに気付く。

以前に、『美しい生物学講義』という本を読んだ。初心者にもやさしい生物学の本だったけれど、その中では「人間も生物であり、様々に進化した(しなかった)形態の一つにすぎない。そこに優劣はない」というようなことが書かれていた。それはおそらく、この世界にも共通する考え方だ。
あの本で書かれていたのは「人間と他の生物との間に優劣はない」という意味だと思うが、それはきっと、この世界にいる変わった人との関係にも適用できる。この旅の途中で出会った変わった人たちも、人間の進化の形態の一つにすぎない。そこに優劣はない。


通常想定するような「普通の」人間含め、人はそれぞれ変わっていて、愛したり、憎んだり、自分たちを滅ぼしてしまう。そして時には、異質なものを排除しようとしてしまう。けれどもそういうところも含めて人なのであり、そういった行為さえ許してしまうような、温かいまなざしがこの世界にはある。

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