転生したら野良猫のクソだった件

俺は野良猫のクソ。いや正確に言うとさっき野良猫のクソになった。それまでは人間だったんだ。昨日自殺して、気がついたら野良猫のクソに生まれ変わってた

野良猫のクソはいい。なんにも気にしなくていい。景色は人間のときと同じだ。だが体温がない。暑くもないし寒くもない。眩しけりゃ目を寝ればいい。なんも飲み食いしなくてもいい

最高だ。世界がどうなろうと無関係。誰かが不幸になろうと無関係。社会情勢は自分にはなんも影響ねぇ

人間も俺を見つけりゃサッと避けていきやがる。気分がいいね

自殺した理由はささいなことさ。生きるのにめんどくさくなった。人と触れ合うのも、仕事すんのも、家族を養うのも。全てがめんどくさくなった

だいたい仕事ってやつはクソの価値もねぇ。金を貰うために何かを提供しなきゃなんねぇ。誰かの生活のためになんなきゃなんねぇ。じゃなきゃ金は貰えねぇ。クソだ

生活ってやつもクソだ。金がなきゃ生活できねぇ。食えねぇ。食わせてやれねぇ。着るもんも金がいる。移動にも金がいる。クソだ

金がなくても楽しめることは増えた。例えばスマホ。タダで誰かをイジメることができるし、覗き見もできる。エロもそうだ。スマホがありゃ無料でヌキまくれる。音楽やお笑いや映画もそうだ。無料で違法で見れる。最高だ。人と触れ合わなくたって楽しめる

だけど金がなきゃスマホは持てねぇ。クソが

だいたい家族ってやつもクソだぜ。ガキはガキでよ、産んでやったくせに感謝の気持ちなんか脳みその片隅にも置いてなくてよ、食わせてやってんのに俺を邪魔もん扱いしやがる。学校だって行かせてやってんのによ、ムスっとした顔してよ、だけど養うために俺が頑張ってやってる

あん?産んでくれなんて頼んでねぇって?うるせぇ!俺が産んでやったんだよ!生まれなきゃ喜怒哀楽もねぇだろ?色んな体験ができてんのは生まれたおかげだろうが!

あん?そんなの求めてないって?

そんなの俺だって同じだよ!俺だって求めてねぇ。だけどお前ができちまったから俺がやんなきゃなんねぇだろうが!

嫁だってクソだ。俺の稼ぎが少ねぇからっつって共働きになって、俺への敬意を忘れやがった。クソが。家事育児ができてんのは誰のおかげだ?あ?俺が結婚して子どもを産ませてやったおかげだろうが。俺の顔を見るなりウザそうな顔しやがって。セックスもさせてくれねぇ。キスしようとしたら「疲れてるから」だとよ。太ももを触っても無表情だ。むしろ「そんな気分じゃないからやめてよ」みたいな声なき声が聞こえる。ふざけんじゃねぇ。なんでだ。なんで俺の望む反応しないんだお前

会社の奴らもクソだ。いっつもいっつも結果ばかり追い求めやがってよ。結果がでなけりゃ責めやがってよ。結果より過程だろ。そりゃ俺だって人間よ。サボるよ。いやだからってよ、結果だせねぇからっつって怒ってくんじゃねぇよ。返信が遅いとか、伝え漏れがどうとかよ、うぜぇよ。求めんな。俺もてめぇらに多くは求めねぇ。だからてめぇらも俺に期待すんな。クソが

友達もクソだ。どいつもこいつもそれなりに頑張ってやがる。仕事も家庭も順風満帆だ。悩みがあっても自分で解決するんだとよ。死ねばいいのにな

ってことで俺が死んだ。睡眠薬ガブ飲みで。なんも後悔はねぇ。この世にゃ贅沢なんかねぇ。むしろクソみたいな世界とグッバイできて最高だぜ

と思ったら野良猫のクソに転生しやがった

地面と空と周りの風景と。木の枝が揺れる景色と太陽と。あんなに嫌いだった太陽もなにも感じない風景の一部なら心地良く感じる。太陽って厚かましいじゃん。求めてねぇのに昇りやがる。それが合図で起きなきゃいけねぇ。着替えなきゃいけねぇ。仕事に行かなきゃいけねぇ。マジでクソじゃん

太陽なんか核ミサイルでぶっ壊せばいいなになって思ってたけど、なんもしなくていい今なら許してやれる。昇れ昇れ。人間どもにうざってぇ日常を喰らわせてやれ

雨もうざくねぇ。髪の毛の乱れや服が濡れる不快感もねぇ

夜もうざくねぇ。寝なきゃ明日が辛いとかないからいつ寝てもOKだ

縛りがねぇってことがこんなにもラクだなんて知らなかった

毎日好きなときに寝て、起きたらただボンヤリと目の前に入る情報を得て、でもその情報は自分には無関係で、世の中で起きてる出来事も自分とは無縁で

俺が野良猫のクソになってからどれくらいの日が経ったんだ?日付の感覚がねぇ

誰かに自分の想いを伝えなくても過ぎる毎日に飽きてきた

たった1人で完結する世界に飽きてきた

身体を動かそうにも動かねぇ。野良猫のクソだからだ。手も足も声もない

また景色を見てる。情報を見てる。目の前にある出来事を摂取してドンドンと想いが溢れ出してくる

誰かと関わりたくなってきた

なんか…なんかさ…ちょっとだけ俺の言葉を聞いてほしい。それよりさ、なんか…なんかさ…誰かの言葉を聞いてみたい

俺の周りをハエが飛んでる。そうか。ハエからすれば俺はエサだ。ハエが俺の体に止まる。ムシャムシャと俺を食ってる

なんか嬉しくなった。食ってくれ。なんか俺に役目をくれ

あ!ハエが飛んでいってしまった。もう行くの?待ってくれよ!ちょっとでも、こんな俺でも役にたったっていう幻をもっと見せてくれよ!

でもハエは遠くへ行っちまった

遠くへ行かないように俺が出来ることってあったのか。なんも動かせない俺でもあいつが離れたくないように、ずっとそばにいてくれるために、なにか、なにかできたのかな?

セックスしたかったなぁ。セックスしたいって思ってもらえるように、もっとなんか、俺にもできたんかなぁ

子どもともっと遊びたかったなぁ。子どもから遊びたいって思ってもらえるように、俺もっと出来たなぁ

夜になった

目を閉じてただ色々と考えてた

辛くなるのが嫌でなにも出来なかった自分のことを考えてた

傷付くのが嫌だったから正直にならなかった自分のことを考えてた

なにか自分からやれてれば、君と手を繋げていたかもしれないって、そんな可能性があったことに気付いた

カサカサと音がしたから目をあけた。ゴキブリが目の前にいた。僕を食べにきたんだ。なにもしようとしなかったから何も出来なくなった自分の今を自覚したから、少し嬉しかった

ゴキブリが僕を食べた。少し不安がなくなってその日は寝れた

閉じるまぶたに太陽の光が届いた。朝だ。目をあけた。清掃員がいて周囲を掃除してる。僕のところにきた。僕をチリトリに入れた。僕はその後、意識が消えた。死んだ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?