本場を訪ねて8年、紆余曲折あり41種類になった無印良品 カレーへの静かな執念
「無印良品で一番売れている商品はカレー」
そんな話は、いろんなメディアでよく聞く。外出自粛中は私自身も良く食べたものの、種類が多すぎて全メニューを制覇できなかった。どうやら現在41種類もあるらしい。
9月27日にはMBSテレビ「平気なの!?って聞くTV」で「カレーの種類が多いけれど、店員さんは大丈夫なの?」という企画が組まれていたぐらいだ。番組の尺の都合上、取り上げられなかった無印良品のカレーについて深堀りしてきて欲しいという声がかかったので、無印良品の開発担当者・日向さんに話を聞いてきた。
2012年から続々と増えて、現在41種類
─いつからカレーに注力することになったんですか?
カレーの歴史を遡ると、1980年代には無印良品のカレーのルーを発売していたそうです。大きなメーカーさんとは違って、少人数で作っているので正確な数字は今は調べられないのですが…。90年代になってレトルトカレーを作り始めました。
2002年ぐらいにレトルトで「タイカレー」を作ってみようとして、それから化学調味料を使わないものに取り組み始めました。それまでは「お母さんが作る味」のイメージが強かったカレーを「世界の味」にシフトしていきました。
─今でこそ、タイカレーは定番になりましたけど、確かに昔はレトルトカレーも家庭のイメージが強かったかも。
そうですね。「タイカレー」は当時、新しかったと思います。その後、2009年に「バターチキン」が始まりました。発売してからずっと人気があったんですけれど、特に力を入れるというわけではありませんでした。
─カレーの種類が増えたのはいつぐらいからなのでしょう?
2012年に、その時の開発担当者が初めてインドでカレーの視察を始めたんです。リサーチの結果をもとに、これまでの作り方を見直して、ミックスされたカレー粉ではなく、ひとつひとつのスパイスの組み合わせや配合を考えました。そこが分岐点ですね。「素材を生かしたカレー」というシリーズになって、15種類、31種類…と品数が増えていきました。
─現地視察に行くことは、無印良品ではよくあることなんですか?
全商品ではないけれど、基本的には現地視察に行くことが多いです。「世界の菓子」ではフランスに行ったり、「素材を生かしたパスタソース」はイタリアに、コーヒー豆も産地に行きますね。カレーもそのひとつだったんだと思います。担当者によって方針も変わるので。
現地の人からの”ダメ出し”で生まれる、新商品
─現地視察ではどんなことをするんですか?
毎回「この商品をリニューアルしよう」みたいな感じで、不定期に行きます。前回、タイへ行ったのは「グリーンカレー」のリニューアルと新商品の開発が目的でした。人気の商品は、2〜3年ぐらいのスパンで手を入れています。
視察は3日間の日程で、朝に到着して朝ごはんからずっと、最終の夜までカレーを食べます。1日に20種類ぐらいですかね。
─20種類! お腹壊しそう。
私は、2018年からカレーの担当になったのですが、まさかこんなにカレーを食べるとは思ってませんでした(笑)。
─無印良品の「グリーンカレー」ってすごく辛いイメージがあります。好きだけど食べられない人もいますよね。
多分、2014年から2016年の「グリーンカレー」はものすごく辛かったと思います。私も食べられなくて(笑)。そういう経験もあったので、ずっと辛いものだと思っていたんですけれど、実際にタイに行ったら、現地の方から「そんなに辛いものではない」と言われたんです。確かに、タイで食べた「グリーンカレー」はそこまで辛くなかった。こういうのは現地で調査しないとわからないなぁと。
食べるだけではなくて、現地の方に試作品を食べてもらいましたね。
─現地の方!
現地の食材メーカーさんに訪問することになったので、その時にスケジュールに組み込んでもらったんです。「グリーンカレー」「レッドカレー」「イエローカレー」の3種類の試作を食べてもらいました。
もともと、自分たちの試作品と現地の味を比較しようと思って持っていったんですけれど、せっかくだから食べてもらうことにしました。
─どんな感想だったんですか?
「これはレッドカレーじゃない」「ちょっとでも甘さがあったらダメ」と。
─辛口なコメント…!
正直な現地の意見なんですよね。実は私自身も誤解していて、「レッドカレー」は「グリーンカレー」よりも辛くないものだと思っていたんですよ。確かに、現地で食べてみたレッドカレーは想像よりも辛かった。そこで、無印良品史上、1番辛いカレーとしてレッドカレーをリニューアルすることになりました。
─現場視察でわかったこと…。
そうですね。対して本場の「グリーンカレー」は思っていたよりも辛くないことがわかったので、ハーブやスパイスの香りを重視しながら辛味を抑えた味に変更したんです。
─現地の人の意見はありがたいと思う一方、日本でウケそうな味にしても良いのでは、と思ったのですが。
そうですね…。一理あると思いますが、やっぱり「世界の味を知ってもらおう」というコンセプトもありますし、いただいた意見に納得感もあったんですよね。
ただ、具材に関しては、レンコンなど日本と野菜もいれています。レトルトカレーという都合上、オクラやナスは溶けてしまうので入れられないんですね。
あと…現地の「グリーンカレー」には、小さなナスが入っていたりするんですけれど…あれはいらないかなと。皮で覆われてるので溶けない利点はあるのですが、味が苦い。
タイの人に「小ぶりのナスが入っている理由はあるんですか?」と質問してみると「なんでかよくわからない」「定番だから」という解答だったので、味の上で必須ではないんだろうなと思って割愛しました。そこには寄せなくてもいいかなと。
そのかわり、ハーブや香辛料など、味のベースになるものはなるべくしっかりやるようにしました。
「辛いものが苦手」な開発担当者が作った「辛くない」シリーズ
─そういえば、最近になって「辛くない グリーンカレー」も出ましたよね。「辛くないカレーは出さない」という話を聞いていたので、驚きました。
番組でも言っていたように、実は私自身が辛いものがあまり得意ではなくて…(笑)。それと、ちょうど子ども用のカレーの企画を考えていまして。でも煮詰まっていたんですね…。
子育てをしている社員も多いので、「子どもたちはどういう風にカレーを辿っていくのか」「そんな苦労があるのか」という話を社内でヒアリングしました。そうすると、意外と子ども用の甘いカレーを食べる期間が短いことがわかったんです。
─すぐに大人用のカレーを食べ始めるってことですか?
そうです。子どもたちも大人用のカレーが食べたくなる。でも、刺激が強すぎると食べられない…みたいな。食育的な観点から、ちゃんとしたスパイスや素材の味を小さいときから知っておいたほうがいいかもしれないとも思いまして。例えば、「辛くない グリーンカレー」は青唐辛子だけを抜いて、レモングラスやこぶみかんの葉といったハーブをしっかり使っています。
この社内ヒアリングのときに、もっと驚いたのが「辛いものが食べられない大人も多い」ことでした。「グリーンカレーって辛いことはわかっているのに、どうしてかココナッツ系の独特な味を楽しみたい…でも辛くて最後まで食べられない…」みたいな人が多かったんです。
現地視察でタイやインドネシアに行った時に、”辛そうだけど辛くないココナッツ系のカレー”があったとか教えてもらっていたので、イケるんじゃないかと思いまして。
─発想の転換。
煮詰まっていたので、この発見には助けられました。子どもに特化するのではなく、間口を広げる形でリリースできました。30日には、この「辛くない」シリーズで新作が2つ出ます。
“カレーのための”白米を作る
─いろんなリニューアルが繰り返される中で、人気商品って変わるんでしょうか?
1番売れているのは「バターチキン」ですね。これは不動の人気で2位を大きく引き離して圧倒的。次が「グリーンカレー」、今は3位が「プラウンマサラ」です。ちょっと前まで3位は「キーマ」でした。
─3位が変わったのは、何か理由が?
これといった理由はないのですが、店頭での売り方で順位は変わりますね。いろんな種類のカレーを知っていただきたいので、もう定番になったキーマカレーよりも、新しいものをプッシュしようと思いまして。カレーは、お店との連動が多くて、Café&Meal MUJIでは長いこと「バターチキン」を販売して、今では定番メニューになりました。
─確かに目のつく場所に置いてあると手にとっちゃいますね…。「マッサマン」とか「プーパッポン」は、店舗でカレーの名前を知りました。
「マッサマン」はブームの1年前から販売していたので、良い先取りができました。たまに先取りしすぎて失敗することもあるんですが…。
─失敗? 意外です。
失敗とは言えないのですが、ベトナムの「マンゴーカレー」や「サツマイモのカレー」は開発が難しかったと聞いています。具材が溶けてしまうので。「レッドカレー」や「イエローカレー」のように一度ラインナップからなくなって復活する場合もあります。
あと、少し前までは、インドの「ターリー」という食べ方に習って、少量のカレーを数種類食べてもらうサイズ展開も用意しました。パッケージの写真の背景に、組み合わせてみると美味しい他のカレーをうっすら写していたんですよ。
─今はもうないんですか?
日本だと「ちょっとだけ食べたい」というニーズのほうが高いので、切り口を変えて「小さめカレー」というシリーズにしました。
─想像以上に試行錯誤の繰り返し…。最後に、オススメの食べ方を教えてもらってもいいですか?
なんだろう…。グリーンカレーは麺にも合うので、私はそうめんやうどんとよく合わせています。あと、実はよく知られていないのですが、無印良品ではカレー用に「レンジで温めるご飯」を用意しているんです。
─見たことあるかも…?
「ジャスミン米」「十穀米」あとは「白米」ですね。もともとナンも販売していたんですけれど、日本ではやっぱりご飯と合わせる方が多いので。「ジャスミン米」は汁気が多いカレーとすごく合いますよ。あと実は、「白米」もカレーに合うようにブレンドしました。
─カレーに合う白米を作ったってことですか?
10種類ぐらいの品種を炊いて、カレーと相性がいい品種を選びました。カレーには粘り気の少ないさっぱりしたお米が合うので、福井県産の「ハナエチゼン」と富山県産の「てんたかく」をブレンドしています。レンジで温める白米は、メーカーさんのイメージが強いと思うのですが、実はちょっと違うので試してみてほしいですね。
取材協力/画像提供:良品計画
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