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スパイシースパイシースパイシー

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今私は『村上さんのところ』を読んでいる。世界中に存在する村上春樹ファン(通称:ハルキスト・村上至上主義)から届くメールに、村上さんがお答えしたものを一冊にまとめた本だ。村上さんは、この本の中で473通のお便りに答えている。結構な量だ。完結に1文で答えている質問もあれば、長めに答えている質問もある。

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私の村上春樹歴は、小6からだ。家の近くの図書館で新刊コーナーにあった『1Q84』を20ページほど読んだところから始まっている。

初めて1Q84を読んだときは、まだ小さくて知識もなかったから「なんだこのエロ本」と小さいながらに感じたことだけ覚えている。

エロい本がなぜ図書館に「おすすめの本」として陳列しているのか気になったので図書館にあった古き良きパソコンで、村上春樹を検索してみた。今思うと真面目なんだか、好奇心旺盛すぎたのか。

検索してみると、wikipediaに「日本の小説家、文学翻訳家」と書いてある。どうやら権威ある有名な作家だったらしい。

頭の中の「エロおやじ」が「エロを堂々と書いているが、それが認められる権威あるおじさん」にアップデートされた。小説の題材として、エロにあんまり興味がなかったもので「日本ではおじさんがこんなことやあんなことを書いても難しい文章をかけるなら褒められるのか」と、なまじ知識を持った小学生ながらに考えていた。相変わらず主語が大きい。

1Q84で村上春樹を「ただのエロいおじさん」と脳内に登録して以降、一冊も村上春樹に触れてこなかった。

それから、村上春樹と図書館で検索していた真面目な小6は、23歳になり友人の勧めで『村上さんのところ』を読みはじめた。小説は少し抵抗があったので、質疑応答であれば読めるかなと思い本を購入した。

「エロいおじさん」って何考えてんだろ、と興味を持ちながら読み始めたところ、これまでの自分が馬鹿だったことに気づいた。このおじさんすげえ面白い!ってか頭いい(私は頭が悪そう)。

この人が面白くない本を書くわけないだろう。馬鹿野郎。

自分に作品を受け止める知識と感性がなかっただけだ!ものすごく受け答えがさっぱりしていて、でも言葉が効いていて、突き放すわけでもなく感情を自分の個別のものとして答える。質問者と回答者である村上春樹の線引きが読んでいて気持ちいい。

「エロいおじさん」どころではない。世界最高峰に面白くて、皮肉と繊細さを持ち合わせた天才だ!!!と認識を改めました。

また一つなりたい大人像ができた。

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面白い大人になりたいと子供の頃から思っていた(子供の頃から面白くなればいいのに)。欲を言うのであれば可愛いけど少し意地悪な、ばあちゃんになって死にたいと考えている。

村上春樹の『村上さんのところ』を読んで、改めて面白い意地悪な婆ちゃんになって死にたいと思った。

優しいコミュニケーションもしたいいのだが、スパイシーな皮肉を聞かせつつ、他人と自分の境界線を分けた優しい大人になりたいになりたいのだ。前提相手を不用意に傷つけたり、悪口を言い合いたいわけではない。そんな会話はあんまり面白いと思えない。

そうじゃなくて、世界への大きな期待を手放して、でも突き放さず、物事の道理を受け止めながら独自の解釈を載せて話す大人たちになりたい。そんな面白い大人になりたい。(個人的な村上春樹へのイメージ)ああ。

だが、面白い大人になりたいと言ってる奴が面白かった試しはないので、きっと私も例外ではない。

スパイシーな皮肉を聞かせつつ、優しい大人になりたいと思ってはいるが、結局スパイシーなんて食レポでしか使わない言葉を3つもならべておしゃれを気取っているのだから、私はスパイシーに程遠いのだと思う。

あと23歳でスパイシーとか言ってしまう自分を恥じている。

何歳から面白い大人になれるのだろうか。


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