心に残る優しい想い出

今日はなぜかふと昔のことを思い出した。

もう10年以上前になる。

それは理学療法士を目指す学生として、初めての長期実習を頑張っていたときのことだ。

初めての患者さんたち、慣れない人間関係、そんな中、試行錯誤しながら実習を頑張っていた。

普通は担当する患者さんは2人くらいなのだが、なぜか俺は7人担当していた。

それぞれにレポートとかもあったので、結構な地獄だった。

その患者さんの中の1人、重度の認知症のおばあちゃんがいた。

ほとんど寝たきりだが、介助して起こせば椅子に座って過ごすことくらいはできていた。

ベッドから転落する可能性もあるため、ベッドの周りには柵をされていた。

俺はこのおばあちゃんを、なぜかほっておくことができなかった。少しでも元気になってほしくて、積極的に関わっていた。でも表情は変わらず、反応もない。

それでも空いた時間にはおこしにいって、椅子に座らせた。話は通じないし、言葉も発せないけれど、一緒に過ごして、一生懸命話しかけていた。そのときは、まだまだ知識も技術も鼻くそだったので、ベッドから起こしてあげて、少しでも覚醒と離床を促すくらいしかできなかった。それでも俺なりに一生懸命頑張っていた。

ずっと何の反応は得られなかったけれど……

ある日、俺はそのおばあちゃんに、繋がっている点滴のチューブを車椅子の車輪に絡めてしまうという事故を起こしてしまった。

なぜ車椅子に移乗したかというと、いつも病室内で寝かされているこのおばあちゃんを、外に連れ出してあげたかったから。太陽が照らす、晴れわたる青い空の下に連れ出してあげたら、きっと笑顔や何か言葉がでるんじゃないかなぁと思ったから。

結果的に、外に連れ出すことはできず、点滴のチューブを再度取り替えることとなってしまった。

おばあちゃんの点滴のチューブが外された。
そして、看護師が注射針を腕に刺して、再度点滴のルートをとってくれた。

俺はバイザーや看護師さんにこれでもかというくらい謝った。

バイザーからは「大丈夫、いい勉強になったな!事故をちゃんと報告したことは評価しよう!」と言われた。

そして、おばあちゃんはまた病室に運ばれることになった。

俺は申し訳なくて、おばあちゃんに付いていった。

2人になったときに、おばあちゃんに謝った。

言葉は通じないであろうけれども、ちゃんと言葉にして謝った。

「本当にすいませんでした。本当にごめんなさい。注射までさせてしまって、痛い思いをさせました。本当にすいませんでした。」

本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

するとおばあちゃんは、ベッド柵の隙間から、細くてしわしわの白い腕を伸ばし、小さな手で俺の頭を撫でてくれた。

そのときの手の温もりと、優しい表情を今でも鮮明に覚えている。


俺は少し、優しくなれたように思う。

誰かから貰った優しさを、また誰かに。

優しさの連鎖をこれからも広げていきたい。


インリン・オブ・ジョイトイのM字開脚くらい広げていきたい。






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