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言語学版 ガリレオ ch.1

第1章 ~肯定と否定~

本を読んでいると、「実に面白い」アイデアに出会うことがある。

そして、そのような面白いアイデアは言語学的な面白さとリンクすることが多い。このコラムでは、あらゆるアイデアを言語学的に分析していく。

人気TVドラマの『ガリレオ』は物理学であるが、これは 『言語学版 ガリレオ』である。

今回、取り上げるのは、この本。

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著者のチャド・マーレンさんはオーストラリア人であるが、松本人志さんに「大阪ラリア人」と言わさせたほどの関西弁お笑い芸人である。

この本では、オーストラリア人の視点から、日本のお笑いを分析している。
その1つに「肯定の文化」vs.「否定の文化」がある。

Inked肯定否定(チャド本)_LI

アメリカのお笑いは相手の発言を「それええやん」と肯定で捉え、笑いをつくっていく。

それに対して、日本は「なんでやねん」というツッコミとともに「否定」することで笑いをつくる。

「実に面白い」視点である。

つまり、アメリカと日本で極性 (polarity)が逆転するということである。

実は、このことは英語と日本語にも見られる。
(『日英比較 動詞の文法』 吉川千鶴子 著より)

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たとえば、英語ではremember (覚えておけ)と肯定で言うところを、日本語では「忘れるな (Don’t forget)」という否定で言う方が自然である。

上の例はすべて命令文であるが、命令文は「ツッコミ」のようなもの。

日本語では命令文という「ツッコミ」においてよく否定形が使われることは、ツッコミを頻繁につかう日本の否定文化とリンクする。

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ただ、ことばと文化が本当にリンクするのかを証明するのは難しい。
また、両者がリンクしないことを証明するのも難しい。

仮に、両者が影響し合ってるとしても、「文化がことばに影響を与えている」のか、「ことばが文化に影響を与えている」のかは不明である。

「ことばが文化に影響を与えている」とするものとして、サピア・ウォーフ仮説がある。(『最新英語学・言語学用語辞典』 中野弘三 監修より)

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このアポリアに対して答えが出る日がくるのだろうか。

言語学の旅は果てしなく続く。

ちなみに、人気TVドラマの『ガリレオ』 とこのコラムの大きな違いは「物理学」か「言語学」かの違いではない。主演の福山雅治のようなカッコよさが筆者にないということである。

「実に嘆かわしい」

To be continued.

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