雨雲からのぞく太陽

雨。
屋根のない駅のホームで、電車を待つ。
雨は嫌いじゃない。でも、濡れるのは嫌。これが嫌いってことなら、嫌いなのかもしれない。
今日は朝から降っている。一日降り続けるのかな。

なんとなく、傘を回してみる。
傘から水滴が、円を描くようにはしゃいだ。

雨の音を聴く。
濡れたコンクリートの匂い。
湿った空気を感じる。

やっぱ、屋根はいるだろ。
電車を待ちながら、なんでもないことが頭の中に浮かぶ。
雨の日は、雨のことばかり考える。余計なことを考えなくていいからいい。

雨足が強くなる。
いや、やっぱ屋根いるだろ。

電車が来た。
たくさんの雨粒を乗せた傘を閉じて、車内に入る。水が滴る傘を見て、乗客がちょっと嫌な顔をした気がする。心にも雨雲が接近してくる。

うん、やっぱり屋根はいる。

そーっと傘をたたもうとする。
その視線の先に、知ってる顔があった。

心の雨雲は一瞬にして消えて、青空が広がった。


雨、やばい。傘、やばい。
傘から電車内へ流れる罪悪感の粒と、座っていて少し低い位置にある太陽のような笑顔を交互に見て、やばいやばい、と無言の合図。

傘をそーっとたたむのを大げさにやってみせる。たたみ終えて、目を合わせる。細くなった傘を見て、お互いに「一件落着」の微笑とうなずき。
これでよし。オッケーオッケー。セーフ。

「久しぶりに雨だね。」

やっぱ、会話は天気から。
雨の日は、雨のことばかり考える。
でも。
太陽が雨雲からのぞいたあの瞬間。
雨空が、一瞬にして晴れ渡った。

「んね。今日の小テスト勉強した?」

青空から、雨が降ってきた。

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