それは…どぉゆうコトなの?2~後編~

 
 
 
彼女たちの後をつけ、ぼくは地下鉄に乗り込んだ。ストーカーも真っ青な行ないであることは、自分でも百も承知なのだが、どうにも気になって止まらない。

一定の距離を保ち、後ろを歩いていると、次第に人が…………人が…………何でこんなにひと気が多いんだ!見失うじゃないか!──と、目に飛び込んで来たのは、古めかしいながらも、立派な建物。同じ方向に歩く人たちも、そして彼女たちもそこに入って行く。

(……ここがお紅茶の水女子大学附属高等学校(仮称)か……?)

門に掲げられた名を見れば確かに!

『お紅茶の水女子大学 附属高等学校(仮称)』

マジかっ!マジだっ!

それにしても、あの子たちが一体何の用でここに?(滝汗)──と不思議に思えば、飾り付けの様子から、どうも文化祭らしい。誰かに招待されたのか、本人たちが見学に来たのか……いや、この子たちが自主的に見学に来るとは到底考えられなかった。(失礼な)

(……女子高だけど……果たして男ひとりで入れるか……?)

恐る恐る門から足を踏み入れると、2~3人で固まって立っている生徒に、

「ご父兄の方ですかぁ~?」

と訊かれる。

「……そうです……」

背中を伝う汗。気づかないふりをして能面で答える。

「どうぞ~」

差し出されたパンフレットを受け取り、そそくさと通り過ぎた。

(……あの子たちは……と……)

校舎に入って見回す。

(いたっ!)

人影に隠れて様子を窺っていると、彼女たちに手を振りながら近づいて来る女の子が目に入った。

(……こ、これは……)

……ここの制服を着ているんですけど……これは……やはり招待されたのか……だけど、見るからに頭良さそう。とてもあの子たちと関係ありそうには……(自主規制)。

楽しそうに談笑した彼女たちは、その子に促されるように歩き出した。ある教室の前で立ち止まる。

廊下側の壁に貼り出された大判の紙を見上げ、彼女たちは首を傾げた。恐らく、制服の子の発表展示物なんだろう。ぼくのところからは文字が良く見えない。

すると、ひとりが制服の子に何やら訊ねている。

制服の子が何か答える。

さらにあの子たちが首を傾げる。

(……何だ……?……発表の何がそんなに疑問なんだ……?)

頭の上に、蜂のようにハテナマークをブンブン飛ばしながら、彼女たちは教室の中へと入って行った。

出て来たところで遭遇しないよう、ぼくはそのまま遠目で待機。そして、ふと、思い当たった。

(……あの制服の子が、前に彼女たちの話題に出た『平均偏差値70超え』の子か!)と。

しばらくして出て来た彼女たちは、ハテナマークをさらに飛ばしながらも、和やかに制服の子と別れた。どうやら、他の展示物を見に行くようだ。

(……もう大丈夫かな?)

ぼくは彼女たちが見ていた展示物を見に近づいた。まるで巻物を伸ばしたように、横長に書かれた作品を見上げる。

「……………………」

しばし、頭の中、真っ白。

『宇宙空間におけるワープは可能か──ブラックホールの実証と関連性』

……これは……どぉゆうことなの?

(……昨今の女子高生は、こんなことを研究しているのか……?)

ぼくは、全く彼女たちと同じ表情になっていたに違いない。そして、間違いなく、頭の上にはハテナマークの群れ。

そこだけで混乱したぼくは、他の展示物を見る気力もなく、学校を後にした。

そして、それきり彼女たちと遭遇することはなかった。
 
 
 
 
 
~おしまい~
 
 
 
 
 

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