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社内事情〔33〕~結論~

 
 
 
〔里伽子目線〕
 

 
 取り引き先との打ち合わせを終え、私は少し遅めのお昼を摂ろうと、通りがかりにあったカフェに入った。

 料理を待つ間、打ち合わせの内容を反芻しながら少しまとめておく。今日の先方の手応えを加味すると、もう少しで詰められそうなところまで来ているのが実感出来た。

 負けず嫌いの瑠衣の頑張りが効いているのか、アジア部の今期業績もまずまずと言ったところ。あとは、今、手掛けている案件が本契約にこぎ着けるかどうか、だわ。

 あとは、早くこの不穏な問題が解決されるといい。今のところ、社内には詳しいことは公表されていないけれど。所轄の警察署からの警告が出たから気をつけるように、としか。

 だけど、私のように課長から大まかなことを聞いてしまった立場としては、早く課長をこの状態から解放してあげて欲しい。このままの状態が長く続けば、きっと課長は身体を壊してしまう。それだけが心配だった。

 そうこうしているうちにランチセットが運ばれて来た。食べながら、窓から冬化粧の表通りをぼんやりと眺める。

 こうしていると、頭に浮かんで来るのは先延ばしにしていること。

 片桐課長に赴任の内示の件を話せないうちに、課長にも内示が出たと先手を打たれ、結局、言い出せないまま。

 ━ついて来て欲しい。

 まだ、その言葉に対する返事もしていない。

 課長のその言葉が、実質的にどう言う意味を持つのかくらい、いくら私にだってわかっている。

 課長に「人生をくれ」と言われた時に、そして、課長に全てを預けようと決めた時に、遠からずこの日が来ることは覚悟していた。━だけど。

 ……本当は、とっくに結論なんて出ていた。

 私には面倒くさい宙ぶらりんは無理だから。

 でも、この結論を公言するのは、課長の気持ちを確かめないと出来ない。課長が賛成してくれなければ、この話は私には根本的に無理なこと、になってしまうから。

 それを、今夜、課長と逢う時に話そうと決めているんだけど……課長は何て言うだろうか?

 そんなことを考えながらお店を出た。早く戻って部長に報告して、別の案件の提案書も確認してもらって……とにかく目の前の仕事を終わらせなければ。

 ━と。急ぎ足で歩いている私の目に、でっかい外国人の男に絡まれているらしい女性の姿が映った。

 (え、え、え、え、何、あれ?もしかしてナンパでもされてんの!?)

 思わず足を止めてガン見。言い争っているのか、痴話喧嘩に見えなくもないんだけど……どうしたものか。

 様子を窺っていると……何だかヤバそうな気配。

 (やば……引っ張って行かれそう)

 私は携帯電話を取り出し、GPSをオンにしつつ110番通報をしながらふたりに近寄って……行こうとしたら、外人男が女性をすごい勢いで引っ張って、と言うより掴まえて走り出した。

 (ヤバい、ヤバい、ヤバい!……何でこんな時に限って誰もいないかな!)

 心の中で文句を垂れつつ、私は通話をオンにしたまま、外人男を追い掛けた。

 (うわわ!ひと気ない方に連れてかれてる!ヤバいわ、これ)

 完全に人の気配が途切れた通路。先を行くふたりの姿が角を曲がり、私の視界から外れる。焦った私はダッシュ。角から飛び出すと、視界の彼方で女性が襟元を掴まれて、半宙吊りにされている。

 「…………やめ…………」

 その時、外人男が太っとい腕を振り上げた。殴ろうとしてる!そう思った瞬間━。

 「やめなさい!」

 私は思わず叫んでいた。

 男が私の方を一度だけ見て、すぐに目の前の女性に視線を戻した。私が女だと認識したせいなのか、日本語だったせいなのか、全く意に介していないらしい。

 男が再び女性に手を挙げようとしたしたのを見て、私は英語で叫んだ。

 『やめなさい!』

 今度は男の目が、確実に私に注がれた。どうやら通じたらしい。

 (何とか時間を稼がなくちゃ)

 必死で計算しながら、私はふたりに近づいた。
 
 
 
 
 
~社内事情〔34〕へ~
 
 
 
 
 
 
 
 

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