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〘お題de神話〙煉獄の果てに

 
 
 
何故なにゆえわからぬ」

 追いかけて来た言葉に立ち止まる。

「そなたの言うこと、わからぬでもない。だが、さすれば人は我欲に走り、争いとなる。後悔の種とも。必ずだ」
「それでも……」

 背を向けたまま男は応えた。

「ただ死ぬばかりなれば、何故なにゆえ生み出す必要があったのか」

 やがて、天界から火種を盗み、人々に与えることになるその男の名をプロメテウスと言う。

「言うたはずだ。必ずそなたにもあだなすと」

 ゼウスの怒りを買ったプロメテウスはカウカーソス山の山頂ではりつけにされた。不死であるため毎日再生するきもを、そのたびに巨大鷲アイトーンに生きたままむさぼられるのである。

「かけたなさけあだで返され、どんな気持ちぞ?」

 当初、火を与えられた人々は感謝の念を抱き、平和に豊かに暮らしていた。だが、次第に恩恵を忘れ、火を武器として争うことを覚えた。それはゼウスの予期した通りでもあった。

「……人として生を受けた者の、それもまた試煉……例え大地ガイアの怒りを買おうとも……」
「愚かな。そなた、そのために如何いかほど責め苦を負うてやっておる? それほどの価値はなかろう?」

 苦しげに喘ぎながらも己を曲げぬプロメテウスが、ゼウスの心を波立たせる。

「……私が、ただ哀れに思って火を与えたとでも思うておるのか」
「何?」
「真の意味で豊かに生きるは難しい。お前とて、叔父上クロノスとのことでは辛酸しんさんめたであろう。神であれ人であれ、簡単には手に入らぬものと知らねばならぬ」

 ゼウスの眉間に、にわかしわが刻まれた。

「……人に、私とは別の意味での“試煉”を与えたとでも言うつもりか?」
「そして、お前たちティターン族にもな」

 プロメテウスの眼光がゼウスを射る。

「人が善と悪の果てに辿り着けるかいなかはわからぬ。そして、それを見届けねばならぬのが、お前たちに課した試煉だ」
「そなた、初めからこうなると知っていて……」
「私の名を忘れたか」
「……だが、永劫えいごうに続くやも知れぬ試煉を越えるなど人には出来まいぞ」

 苦し紛れのゼウスの台詞ことばに、プロメテウスが今度こそ笑みをたたえた。

「可能性は残っている」
「どう言うことだ」
「私への腹いせに造ったパンドラかめを持たせ、エピメテウスつかわしたであろう」

 ゼウスが息を飲んだ。

「弟には言い含めておいたが、恐らく覚えておるまい。開け放った甕に残るものがさいわいとなるか、更なるわざわいとなるか……それは私にもわからぬよ」

 『先見の明を持つ者プロメテウス』の名を持つ男は、ヘラクレスに解放されるまで3万年にわたって責め苦に耐え続けた。
 
 
 


 

ゼウスとプロメテウスの関係性にも諸説ありますが、よくよく言われるプロメテウスのトリックスター説をもう少しネジティ部っぽくしてみました(笑)

本来のプロメテウスは人の味方的な書かれ方なのですが、ちょいとばかり人を試す感じにしてみたと言うか。

人に火を与えたプロメテウスに怒ったゼウスが、腹いせとばかりにあらゆるもの──魅力も才能も狡猾さをも詰め込んだ女(パンドラ)を造り、甕を持たせてプロメテウスの弟エピメテウスに送り込みました。賢いお兄さんプロメテウスの言いつけなどすっかり忘却の彼方のエピメテウスくんは、色仕掛けで籠絡されたわけですw

やがて好奇心に負けたパンドラが『決して開けてはいけない』とゼウスに言われていた甕を開け放ち……とこの辺は有名なのでご存知かと思うので割愛しますが、そこら辺りも予想済みだったプロメテウスが計画に捩じ込んでいた、と言う感じです。(補足終わり!www)
 
 
 
 
 

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