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〘新話de神話1〙雨の神話〜雨に泣く〜

 
 
 
 何故、この私がこのように呼ばれなければならないのか──。

『バアル・ゼブブ』

 蝿のバアル、などとよくも呼んでくれたもの。

 何も知らぬ者どもよ。

 時に、地上に重く過酷な試練を与えたことはある。

 相容れぬ兄弟と命のやり取りをしたことも。

 常に私の側にいてくれたのは、妻アナトだけだった。離れている時も、いつも彼女だけは心を傍らに置いてくれていた。

 何も知らぬ者どもよ。

 好きに呼ぶがいい。

 私は私の役目を全うするだけ。

 崇めようが、蔑もうが、雨を以て意思を示す。

「私の名はバアル・ゼブル」



 人々に、時に嵐を、時に慈しみの雨をもたらすと言う、嵐と慈雨の神バアル。『バール』や『ベル』と発音されることもある。

 ウガリット神話における最高神イルの息子とされ、妹である愛と戦いの女神アナトと夫婦神と言われている。

 夫婦共に苛烈な面をも持ち合わせることから、次第に魔将の様相を謳われるようになった。

 だが、バアル・ゼブル──その名の意味は、『崇高なるバアル』。

 時に、彼は己の哀しみを、雨の中に忍ばせる。
 
 
 
 
 

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