ニーチェ「超人になる方法」 優等生は超人になれない
『ツァラトゥストラ』にはたくさんのキャラクターが登場しますが、特に重要な登場人物が二人います。それは「道化師」と「牧人」です。彼らだけが「超人」となったことが暗示されているためです。
ツァラトゥストラは、人間を超克する道と方法は沢山あると言っていますが、彼らはそれぞれ違う方法で「超人」になりました。今回は二人のうち「道化師」だけを見ていきます。
道化師は軽々と人間を飛び越えて超人になりました。人間に対する同情心のない悪魔のような道化師こそ、超人になれるのです。
優等生タイプの人は真面目ですから、「成長」を求めて努力しますが、「進化」を目指す人はいないでしょう。「人間はいつか進化するにしても、自分が進化することはない」と思うでしょう。
また、優等生タイプの人は『ツァラトゥストラ』の「三段の変化」における駱駝ですから、「超人」を目指す前に、まずは獅子の意志を獲得する必要があります。
一方、道化師は、「人間は飛び越えることもできる」という常識や固定観念に縛られない飛び抜けた思考によって「超人」になりました。
道化師だけでなく、舞踏する人も軽やかに人間を飛び越えていきます。
ニーチェは読者に「超人を目指せ」と言いますが、そのためには、優等生的な努力ではなく「人間は飛び越えることもできる」という常識を超えた思考と軽やかさが必要なのです。
───────────
最も遠い者に向けられたわたしの大いなる愛は命じる、「あなたの隣人をいたわるな!」と。人間は克服されなければならない或るものなのだ。
克服にはいろいろな道と方法がある。それは、あなたが試みなければならないのだ!
道化師だけが、「人間は飛びこすこともできる」と考える。
氷上英廣訳「古い石の板と新しい石の板4」
───────────
その道化師は悪魔のような叫び声をあげて、おのが行く手をふさいでいる者を飛び越えたのである。
手塚富雄訳「ツァラトゥストラの序説6」
───────────
「だがこの町からは去りたまえ─そうでなければ明日わしは君を飛び越えるだろう。わしは君を飛び越えて生き、君は落ちて死者となるだろう」そう言い終わると、その男(道化師)は姿を消した。
手塚富雄訳「ツァラトゥストラの序説8」
───────────
わたしはわたしの目標を目ざす。わたしはわたしの道を行く。ためらう者、怠る者をわたしは飛び越そう。こうしてわたしの行路はかれらの没落であるように。
手塚富雄訳「ツァラトゥストラの序説9」
───────────
そこでは、わたしはまたわたしの昔なじみの悪魔、そして宿敵であるあの重さの霊と、その霊がつくったいっさいのものをも、ふたたび見いだした。つまり強制、規定、必要とその結果、目的と意志、善と悪などを。
──それというのも、舞踏をするためには、舞踏して飛び越えるものがなくてはならぬからではあるまいか。
軽い者たち、最も軽い者たちがあるためには──もぐらや重い侏儒どもが存在しなくてはならぬからではあるまいか。
手塚富雄訳「新旧の表2」
───────────
わたしが神を信ずるなら、踊ることを知っている神だけを信ずるだろう。
手塚富雄訳「読むことと書くこと」
───────────
【引用】
ニーチェ、手塚富雄訳『ツァラトゥストラ』中公クラシックス、Kindle版
ニーチェ、氷上英廣訳『ツァラトゥストラはこう言った』岩波文庫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?