見出し画像

ニーチェの読書術

現代は「『労働』の時代、すなわち、あらゆるものを即座に『片づけ』、古い本も新しい本もすべて片づけようとする、性急な時代、不作法に汗をかくあわただしい時代」ですが、文献学者ニーチェは私たちに「ゆっくりした読み方」や「言葉の金細工の術」を教えてくれます。


ニーチェは、彼の著作を「性急に片付ける」読者ではなく、「ゆっくりと、深く、後にも前にも気を配りながら読む」忍耐強い「完全な読者」を求めています。


───────────

私の本と同様に私も、緩徐(かんじょ)調の友人である。文献学者であったのは無駄ではない。おそらくまだ文献学者なのだ。


すなわち、ゆっくりした読み方の教師なのだ。結局書くのもゆっくりになる。


急を要する」あらゆる種類の人間を絶望させないようなものは何も書かないこと、それが今や私の習慣ばかりか、私の趣味にも──おそらくは意地の悪い趣味であろうが?──属している。


つまり文献学は、緻密で慎重な仕事だけをすまさねばならず、緩徐調で達成するのでなければ何ひとつとして達成しない言葉の金細工の術とその練達として、傍らに寄り、急がず、静かになり、緩やかになるという一事を、おそらく何よりもまずその崇拝者に要求する、あの尊敬すべき術なのである──。


しかしそのためにこそ、文献学は今日これまでより以上に必要なのであり、そのためにこそ、文献学は、「労働」の時代、すなわち、あらゆるものを即座に「片づけ」、古い本も新しい本もすべて片づけようとする、性急な時代不作法に汗をかくあわただしい時代のただ中にあって、最も強くわれわれをひきつけ、われわれを魅惑するのである。


──文献学自身は、そんなにたやすく何かを片づけはしない。それはよく読むことを、すなわち、底意をもち、扉を開けたままにして、敏感な指と眼で、ゆっくりと、深く、後にも前にも気を配りながら読むことを教える・・・


私の忍耐強い友人諸君、この本は完全な読者と文献学者だけに、私をよく読むことを学びなさいと熱望している!
『曙光』「序文」より

ニーチェ著・茅野良男訳『曙光 ニーチェ全集7』(ちくま学芸文庫、2015年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?