見出し画像

大人の読書感想文

愛って、なんだろう。

ふと、そう思って検索してみた。

そのものの価値を認め、強く惹きつけられる気持ち。(グーグル日本語辞書より)

強く惹き付けられる………か。

推したちのその存在には唯一無二の価値があるし、彼らの作り出すものに強く惹き付けられている。

しかし、今私の横で競馬を見ている夫はどうだろう?
存在の価値は十分に認めている。
でも………強く惹き付けられたかどうかは、分からない。
惹き付けられて結婚という道を選んだのかもしれないけれども、どうだか。

そんな時にこんな本に出会った。

この話はジャーナリストであり、新宿ゴールデン街のバー「月に吠える」のマスターであるコエヌマカズユキ氏が愛について取材し書き上げたオムニバス形式の本である。

ゴールデン街はとても好きだ。
この間は学生時代から唯一付き合いのある大親友と行った。
街に漂うあのなんとも言えない、濃い空気が大好きだ。

学生の時、親に「ゴールデン街は危ないから行くな」も言われていたのだが人も場所も危ないからこそ近づいてみたい性分の私は21歳の時初めてその街に足を踏み入れ、トリコになった。

今回はどのエピソードも大変に濃かったため、章ごとに感想文を書いていく。

!以下の文章はネタバレを含んでいます。

1.最強のふたり?

この章の主人公は生まれながら脳性麻痺を抱え、車椅子での生活を余儀なくされた男、熊篠と風俗嬢でありながら性に関しての活動も行う、はる。

このふたりの物語は実にドラマティック。
障害を持ったがゆえ、そして過去に恋愛で壮絶な経験をしたゆえに恋愛に対して消極的な熊篠と熊篠の過去や障害、そして後ろ指を指されてしまうこともある自らの職業ですら「楽しんで」、交際に対して前向きなはる。
このコントラストが見ていて目が痛くなるほど鮮やかで、私が専門学校の片隅に置いてきた青春を思い出させる。

これから読む人は是非熊篠氏の仕事で起こったできごとに注目して欲しい。
そしてもしパートナーがいる人は「これが私に出来るか」と考えながら読んで欲しい。私は多分無理。

タイトルにもなっている「最強のふたり」は2人で見に行った映画のタイトルでもある。
障害者と風俗嬢。実にセンセーショナルかつお堅い人や偏見で塗り固められた人が見たらえっ、と言ってしまいそうだが、私にはタイトル通り「最強のふたり」だと、思うのだ。

しかしこのカップルの物語ははるの妊娠によって終わりを告げる。
しかもその子は熊篠の子供では無いかもしれない、というショッキングすぎる結末だった。
そりゃないぜ!と思わず声に出してしまった。

この章を読み終えて思ったのが、はるはあまりにも幼すぎたのかもしれない。ということだ。
その幼さゆえに熊篠の全てを受け入れた。
しかし、幼さというのは生殖行為にとっては必要のないものでこのようにある種の悲劇すら起こしてしまう。
その子は客の子かどうかということは分かっていないが、ソープ嬢というたくさんの男性を相手にする仕事で自分を大切にできなかったのかな………とも思ってしまう。

ちなみにはるは現在でも「吉野さやか」という名前で活動をしている。
が、この話があった時と今を比べるとあのイノセントなはるが恋しくあり、どうしてこうなったんだ…とも思ってしまう。

2.レズボスの少女たち

私は男性に対して恋愛感情を抱くれっきとしたヘテロである。
でもゲイのYouTuberが好きでよく見るし、新宿二丁目のゲイバーにもレズバーにも何度も行ったことがある。
自慢ではないがレズの方にナンパをされたこともある。

さて、この物語の主人公、千尋はレズビアンである。
この話のメインは千尋が高校を中退して働き出したバイト先で出会った同級生、ノリちゃんとのストーリーである。
ひょんな出会いから恋が始まり、愛へと変わり、あることから終わりへと向かっていく。
終わりの始まりは「嫉妬心と我儘」というのも妙に納得した。
この二人を見ていると性別が違うだけで本質的なところは男女の恋愛と全く同じだ。

ところでこの話においては何個かキーとなる場所やアイテムがある。
ビーズアクセサリー、原宿、MILK。
ここでこのアイテムや場所が何を意味するかは書かないでおくが、きっとノリちゃんとの破局後千尋はこれらを目にするたびに胸がざわついたり、思わず泣きたくなることがあったんだろうな、と考えてしまう。

これを読んでいる人も過去の恋愛を思い出すフックとなるものがあると思う。
私はなんだろう、とふと思った。
横浜元町、稲荷山公園駅、下北沢駅、乃木坂46の「命は美しい」…
謎の羅列だが私はこれを書きながらあの頃の青すぎた自分を恥じつつも、何も恐れることなく全力で恋愛できていたあの頃を懐かしく思っている。

最後にこの章で一番心に残った文章を書いて締めることにする。
「(前略)バカみたいですよね。もう十年くらい前の恋愛なのにまだ縛られちゃって。でも、どうしても忘れられないっていうか、心配になっちゃうっていうか……(中略)…二人でお揃いを買いに行けるまで続いていたら、きっと今でも隣にノリちゃんがいるんじゃないかな、とか、もう無理なことはわかっているんですけど、どうしても考えちゃうんです」

3.百パーセントの夫婦

身内でお見合い結婚をした、という人はどれくらいいるだろうか?
私の周りでは0パーセントだ。
ということはほとんどが恋愛結婚だ。
しかし、相手はどれだけ理想に対して近いだろう?
私は既婚者でいまだに夫大好き芸人でやらせてもらっているが欲を言えばもっと素敵じゃないかの柏木さんに似てアンニュイでセクシーな風貌がいい。
夫ももう少し大人しくてグラマーな子がいいと思う。(実際にそう言ってきたらこづいておく。私も罵られる覚悟はできている。)

と、こんな具合でどんなに相手が大好きで結婚しても百パーセント理想ではないと思う。

さて前置きが長くなったが今回の話の主人公はお見合い結婚をした有馬達朗と妙子だ。

このふたりの会話で話が進んでいくのだが妙子のエピソードには「わかる!」と共感する部分が多々ある。
「この人、なんか無理だな」と思ったきっかけがとんでもなく些細なことだったり、24歳で結婚に対して焦っていたり(私の場合、ど田舎出身ゆえ同級生や後輩が24で結婚していたり出産していたり下手したら第二子妊娠中、というのも普通にあったからだ)。
女というものは元号が変わっても変わらないのだな、と思わずクスッとしてしまった。

有馬夫妻は病気や介護、金銭トラブルなど様々な問題に直面した。しかし、文字通り支え合って乗り越えてきた。
よく「何があっても一緒にいようね」と若いカップルはいうが人生本当に何が起こるか分からない。
問題がきっかけで破綻する夫婦ももちろんいる。しかし、有馬夫婦は問題が起こるたびに絆を強くしていった。
お互い、大恋愛の末に結ばれたわけではないが、この人と人生を歩みたい!と思って「信頼」のもとに結婚した。
信頼って一朝一夕にできるものではない。
相手を信じるという、まさに100パーセント相手を愛すことのできた証明なんだと思う。

この章を読み終えてこういう夫婦になりたい!と心から思った。
そして、もし20歳に戻れたら結婚を考えた時の選択肢にお見合いがあってもいいな、とも。

4.オンラインの愛

ネット上で出会って結婚。
それはここ最近の話でなく、インターネット黎明期からあったらしい。

今回はそんなデジタルの世界の話。
主人公は会社員のマユミだ。
マユミはFacebookでエドガーという男と仲良くなりメールのやり取りをするのだが、このやり取りを見ているとかつて自分がネットで知り合った人とメッセージのやり取りをするために遅くまで起きていたことを思い出し、とても懐かしくなる。

メッセージが届いたという通知を見てワクワクし、いざメッセージを開いて一喜一憂し、あれこれ考え想いを込めて送信する……

今でも芸人さんに置きチケ依頼のDMをするときとラジオにメッセージを送る時は少しだけそんな気持ちになるが、きっとマユミも同じ気持ちだったのかな、と勝手に親近感を抱いた。

さて、マユミはエドガーとはあることをきっかけにメッセージのやり取りをやめて、次にアンクレアというフランス人の人妻とガールフレンドになるのどが、このエピソードが大変印象深かった。
アンクレアはマユミにビデオメッセージを送るのだがそのシーンは横で寝ていた夫を起こすくらい、大泣きしてしまった。

この純情可憐かつ時に危なげなふたりの恋愛はアンクレアが重ねた嘘により破綻してしまう。
そして、この恋にも似た関係を振り返って言ったマユミの言葉がとても深かった。

「(前略)…ゲームの世界で何をしても、自分のの普段暮らしているリアルな世界にはまったく関係ないですよね。でも、ゲームの世界がないとつまらない。両方合わせて、自分の中でひとつの世界なんですが、他人から見たらふたつの世界に見えるのかもしれません。」

私はゲームの類が苦手だからせいぜい夫がやっているのを眺めるだけだし、アニメや漫画といった「二次元」にも興味はない。
でも、たまに思ってしまう。
もし、このチケット取り置きのDMに「ご飯行きませんか?」とメッセージを送ったらその時違う世界の扉が開いてしまうのだろうか?
もちろん、そんなことは絶対しない。
第一既婚者だし、マユミがさっきの言葉に続けてこう言っていたから。

「(前略)…もし実際に会ったら、夢が壊れると思います。現実になった時を想像するまでが一番楽しいんです。現実にしたらいけないというか。その人というよりも、その人を自分の中で膨らませた人物との恋愛を楽しんでいた気がします。」

インターネットでの恋愛も、芸能人に対しての「ガチ恋」ももしかしたら近いものなんだろう。

5.白雪姫を待ちながら

この話の主人公は福田寿之と明美夫妻である。
ふたりは社内恋愛の末に結婚し、子供には恵まれなかったが幸せに暮らしていた。
しかし明美はある夜、植物状態になってしまい、そこから7年間意識が戻っていない。
この場合、尊厳死という選択もできたが、寿之はそれを選ばず、今日まで意識の戻らない妻と生活している。
意識が戻るのはたった1%。それでも寿之は妻の意識が戻ることを願って献身的な介護を続けている。

この章を簡潔にまとめると以上の通りだ。

この本の中で今の自分に一番近いのがこの夫婦だろう。

もし、私の夫がある日突然目を覚まさなくなってしまったら……
考えただけでも、泣きそうになってしまう。

その時、私は尊厳死を選ばず、介護できるだろうか?
そもそも、一緒にライブを見に行ったり、食事をしたり、どうでもいいことで笑い合うことができない分かった時点で夫を道連れに死を選ぶかもしれない。
だから、いつか目を覚ますと信じ、共に生きると決めた寿之は心から妻を愛し、無償の愛をもって尽くしているのだな、と思う。

物語の中で白雪姫は王子のキスで目覚めたが、現実ではどんな治療法を持っても目を覚ますことはほぼない。
目覚める日は来るのだろうか?

6.原子記号14番の恋人

原子記号14番。今脳内で「水平リーベ、僕の船…」と思い出している人もいるだろう。
Si。ケイ素、シリコンである。

この物語は一体のラブドール、シリカとその恋人、ノリオの話である。
今「え?なんか気持ち悪くない?」と思った人こそ、この章だけでも読んでほしい。
読み終わる頃にはそんなこと全く思っていないと思う。

ノリオはシリカ、その前に持っていたラブドールとの日常を写真付きでサイトに載せている。
これがとても愛らしいのだ。
本当にシリカ、という女性がいて彼女と日々を過ごしているかのような文だ。
サイトの中のシリカは感情があって、呼吸をしている。
サイトの中のふたりは笑ったり泣いたりして、思い出を積み重ねている。
それは書き手であるノリオの愛があってのものだ。
サイトを書くにあたってノリオは自分のために書き、写真を載せ、運営をする、というのを信念にしている。
この文を読んでプロのライターでもないのに「いかに閲覧数を稼ぐか、目に留まってもらえるには」と考えながら書いていた自分を恥じた。

私たちが見たらラブドールはただのシリコンで出来た人形だ。
でも、ノリオから見たらそれは大切な存在だ。




さて、この本を読み終えて最後に「愛」の意味を私なりに解釈して見ることにした。

相手のために自らのプライドや時間、お金や人生までも犠牲にしていいと思える心。
見返りを求める「恋」に対して、見返りを求めないもの。

今夜、夫と愛について語ろうと思う。なんだか「どうしたの、気持ち悪い」と言われてしまいそうだけど。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?