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日記|三角形の狭い部屋に住んでいた

10年ほど前、都内の某私鉄沿線の三角形の部屋に住んでいた。千葉の実家を出て初めての一人暮らし。最近聞いたところによると同姓同音名の後輩も同じ沿線の三角形の部屋に住んでいたらしい。この名を持つものは三角形の部屋に吸い寄せられるのだろうか。

あの部屋はとにかく謎だった。なにしろ床が三角形だからどう家具を置いても鋭角にデッドスペースができる。これから三角形の部屋に住もうとしている人がいたら、よく考えてみてほしい。部屋は四角形に近い方がいい。角は90度か、せめて鈍角の方が家具を置きやすい。家具というものは大体四角い。

綺麗な新築でオートロックがついていたのはよかったけれど、それ以外に良いところは特になかった。場所は職場の最寄り駅。駅から、徒歩15分。会社まで、徒歩15分。当時の職場は不夜城だったので、休日に駅前へ行くと出勤帰りの疲れ果てた同僚と鉢合わせしてしまうことも度々あった。職場が近いのも考えものだとわたしは思う。

間取りはワンルームで16㎡未満。そう、三角形な上にとても狭かった。当時揚げ餅にハマっていたのだが、どういうわけか餅を揚げる度に火災報知器が発動した。狭すぎて一瞬で煙が充満してしまうのだ。報知器の電源の切り方がわからなかったので、仕方がなく毎回コンセントを抜いて餅を揚げた。大好きな揚げ餅で火事にならなくて本当によかった。

部屋には人がひとり入ることもできないささやかなクローゼットがついていた。ある夜男性を家に泊めたら、寝ぼけた彼がクローゼットをトイレと勘違いしてそこで用を足そうとしている瞬間に目が覚め、人生で1番強い力で人間を羽交い締めにして、止めた。好きだったので許した。好きじゃなかったら嫌いになっていたと思う。

ありがたいことに友人がよく泊まりに来てくれてとても楽しかった。でもあんなに狭い部屋でどうやって3人も4人も眠ってもらったのか今では全く思い出せない。来客用の布団なんて持っていたのかも怪しい。かつてフローリングに直に転がされて今もまだ一緒にいてくれているのだとしたら自分は相当友人に恵まれている。

いまでもふっと新築の匂いがすると、あの三角形の部屋のことを少しだけ思い出す。三角形な上に狭いあの部屋は暮らしづらかったけれど、工夫しながら生活するのは意外と楽しかったかもしれない。一応伝えておくと、デッドスペースは最初から最後までちゃんと死んでいて、しっかりデッドスペースだった。あの鋭角と寄り添う覚悟があれば、人生で一度くらい三角形の部屋で暮らすのも悪くないのかもしれません。

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