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追憶~冷たい太陽、伸びる月~

  • 空の果て

  • 第35話 虹を渡って

その後承和は空の穴へ戻ることがなかった。

 承和から深碧(Shin-peki)、縹(Hanada)、菖蒲(Ayame)と子へ代を引き継ぎ、最後のトビヒ族の行方を追っていたからだ。

 深碧以降の代は親以外のハナサキ族を知らない。また、自分を空飛ぶ人間だとさえ思い込む者もいた。種血の存続のため親となるハナサキ族が派遣されたが、人型の姿で子が生まれると空の穴へ戻ったからだ。

 承和は利矢の後継者を知らない。深碧らも空の穴への還り口を知らぬまま人間の地で眠りについた。任務を完遂した菖蒲は人間の男性との間に子を授かったが、臨月を迎える前に別れた。菖蒲の子は本来の姿で生まれ、虹(Niji)と名づけられた。迎えに来たハナサキ族に虹を託し、菖蒲は地上に残った。


 後に、本来の姿で生まれたハナサキ族にも名づける習慣が広まる。

 それまでの、トビヒ族の影を歩んだ歴史は長かった。

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