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産みたくないのに、生理は来る―「赤い悪魔」との向き合い方

どんなに健康に気を付けて暮らしていても、月に一度訪れては数々の体調不良を引き起こし、服装や各種備えなど多方面に気を煩わせてくる、赤い悪魔———そう、今回は「生理」のお話です。

皆さんは、生理についてどのような煩わしさを感じているでしょうか?
生理中の痛みや体調不良が酷くて仕事や学業、人付き合いに支障をきたす…経血量が多くてどのような生理用品でも不安で、外出が怖い…月経前症候群(PMS)が酷く、他の人よりも元気に過ごせる時間が絶対的に少ない…生理にまつわる諸症状だけでも、私たちにとっては日常生活に大変な、でも声高には訴えられず他人にはなかなか理解されない、悲しい重荷になってしまっています。

そんな、女性の日常に大きな影響を与える生理という現象ですが、多くの女性がそれでも策を講じながら頑張って毎月を乗り切っているのには、生理が「出産をするために必要な体内現象の中の、重要な一部」であるという事実が大きいでしょう。
安定した生理があること、子宮環境を向上し生理のリズムを整えることは、妊娠出産を迎える上でとても重要なファクターです。私も、「毎月の生理は辛いけれど、元気な子供を産むためには仕方のないこと、頑張って受け入れなきゃ」と、ポジティブに生理を受け止められる女性をよく見てきました。

いつか、我が子を産む日のために。
そんな目標があるから、辛い生理を乗り切れる。

それなら、私たちのように、
子供を産みたくない女性は、何を心の支えにして、この辛い生理を乗り越えていけばよいのでしょうか。

生理が心と身体に与える影響​

私は、子供のころから生理痛が非常に重いタイプでした。
初潮が始まる前から、月に一度のペースで嘔吐を繰り返す。生理が始まってもいないのに、ホルモンバランスの影響で体調を崩しがちでした。
高校生になると、痛みで授業をまともに受けられない。大学生のころには、痛みのあまり何度も嘔吐したり、商業施設や駅などの従業員休憩室に頼み込んで休ませてもらうことも多々ありました。鎮痛剤はいくら飲んでも効かず、婦人科に行っても「この程度の痛みならまだ子宮内膜症等の病気とは考えづらい」と言われるだけ。失礼な話ですが、「いっそ病気なら、有効な治療を受けられて少しでも改善できるのに」とすら思ったほどでした。

社会人になってからは、生理痛のせいで毎月のように半休を使用し、入社一年目には有給をすべて使い切ってしまいました。当時の直属の上司が生理痛の重い女性だったため理解が深く、すんなりと休みを取らせてもらえたことは非常に幸運でしたが、もし生理休暇のある会社だったなら、体調不良で伏せるばかりでなくもっと有給休暇を楽しみのために使えたはずだったのに、と悔しい思いばかりでした。
生理痛のときだけでなく、生理が始まる前のPMS期には何日も頭痛と倦怠感が続き、頭も働かないし立ち上がることもできない。激しい生理痛が引いても、鈍痛は残り胃のむかつきで仕事に集中できない。
「生理が重い」ただそれだけで、生理の軽い女性やそもそも生理のない男性と比べて、月の半分近くも仕事のパフォーマンスを落としてしまう。どんなに健康に気を使っても、アルコールやカフェインを控えたり、常に身体を温めたり、婦人科に通院したり、尋常じゃないレベルで自分の身体を労りお金をかけ続けても。

それがどれほどの屈辱であったか。

生理の諸症状が重いこととは関係なく、私は幼少期にはすでに「自分は将来、子供を産むことはない」と決めていました。妊娠出産の知識が増えていくほどに、ただただ恐ろしいこととしか感じられず、精神的に拒否感を募らせていったことが原因でした。
そんな私にとって、重すぎる生理は次第に憎悪の対象となっていきました。

私は、産まない。産むつもりがない。
私にとって、生理はまるで必要のない機能だ。
それなのになぜ、こんなにも激しい生理諸症状に苦しめ続けられなければならないのか。必要ない機能のくせに。乗り越えたところで何の得にもならないのに。

私が、子宮を体内から取り除きたい、卵巣を捨てたいと考えるようになったのは、ごくごく自然のことでした。

「性の違和感」は連鎖する

生理諸症状が重かったことと、子供を産みたくないと考え始めたことの間には、最初は関連性はありませんでした。
しかし、あまりに辛い生理のために子宮と卵巣を捨てたい、子宮が憎いと感じるようになってからは、「そもそも自分の身体に出産機能があるからこんなに苦しいんだ、出産さえしなければこんな臓器はいらないんだ」と、苦しみを回避するために出産という選択肢を完全に捨てた、という側面もあるかもしれません。
お産への恐怖から産まない人生を選んだこと、出産機能があることへの拒否感から自身のジェンダーアイデンティティが揺れ動いたこと、女性性への拒否感から子宮卵巣を切除したいと願ったこと…自らの「女性としての身体」との向き合い方がすべて密接に関わりあっているように、生理諸症状の苦しさから子宮卵巣を憎むようになったことも、私のジェンダー観に多大な影響を与えているのでしょう。

とはいえ、「生理が苦しいから」という理由で子宮卵巣の切除手術を受けるというのは、一般的にあまりスムーズに出来ることではありません。
自分の身体なのだから自分で決める、と言い切れる人なら可能ですが、やはりどうしてもパートナーや家族の理解が必要だと思ってしまったり、卵巣を切除するとなると、ホルモン療法のためジェンダークリニックへの長期的な通院が必要となります。

幸い、昨今は低用量ピルの認知が急速に進んでいる印象があり、また新型コロナの影響でオンライン診療の整備が進んだことで、より手軽にピルの服用を始めることが出来る環境が整いつつあります。
中には排卵だけでなく生理そのものを一定期間止められるタイプのピルも広く知られるようになり、産まない選択をした「そもそも生理の必要性がない人々」にとって、生理のない生活を選ぶという選択肢が出来たことは非常に喜ばしいことだと感じています。
残念ながら私自身は、低用量ピルが体質に合わず、重い副作用が出てしまったため服用を中止せざるを得なかったのですが…その分、体質に合い効果的に服用できる方々にはぜひとも大いに活用していただきたいなと心から思います。

いらなくてもいい、「資産」と考える

毎月の重い症状を抑えること、ピルの服用により生理を止めること、究極的には卵巣を切除すること…子宮や卵巣を「敵」とみなし、生理があることをただただ苦痛に考えていた私の思考を、根本からひっくり返す出来事がつい先日ありました。
それが、「卵子提供プロジェクト」の存在です。

卵子提供とはその名の通り、健康上問題のない女性が自身の卵子を摘出し、妊娠を望む女性に提供する治療のことです。現在、日本では法整備がされておらず、妊娠を望む夫婦自身の受精卵での体外受精しか認められていませんが、海外では自己卵が使用できない場合には卵子提供による体外受精が一般的に行われています。

「卵子提供」で検索すると、多くの団体が海外での施術プログラムを紹介しています。卵子提供ドナー(多くの場合、20歳~34歳の健康上問題ない女性)と被提供者が、ハワイやマレーシア、台湾など近隣諸国に赴き、駐在する日本人スタッフのサポートの元で治療を受けています。
卵子ドナーは基本的にはボランティアが多いようですが、海外渡航費は団体側が負担するため負担はかかりません。また、施術時間以外は自由時間も多く、滞在中は観光などを楽しんでも良い場合も多々あります。

このプロジェクトを知ったとき、私は大変強い衝撃を受けました。
なぜ、このようなプロジェクトをもっと早く知らなかったのか。知った当時、私はすでに募集年齢をギリギリ超える年齢でした。もっと早く、20代のうちに知っていれば、私の卵子をいくらでも提供できたのに。いらないもの、グロテスクなもの、毎月自分の身体を痛めつける「敵」としてではなく、困った人に提供できる自分の「資産」として、自分の卵子を見ることが出来ていただろうに。

私はこの「卵子提供プロジェクト」を知ったとき初めて、自分の身体で生成される卵子を、卵巣と子宮を、自分という個人の敵としてではなく、社会全体の資産として感じることが出来たのです。
子供を産むのが自分だと仮定するばかりでは、卵子はいつまでも私の敵であり続けたでしょう。でも、産むのが他人なのであれば、そしてその人が不妊に苦しんでいて、何としてでも子供を望んでいる人であったのならば、それは私がボランティア精神のもと誇りをもって差し出せる資産にできるのです。

恐らく、私が長らくこのプロジェクトの存在を知らなかったのは、20代のころは不妊について考えることがほとんどなかったからでしょう。自分がいらないと感じているこの卵子を、喉から手が出るほど欲している人々がいる。「不妊治療」が今以上に一般的に認知され、また「子供を産まない人生」という選択肢を堂々と選べる社会に近づいていけば、卵子提供プロジェクトはさらに認知度を上げ活性化され、国内での法整備もいつかは達成されることとなるかもしれません。

それでも、生理と向き合う

重い生理を少しでも弱める方法はないだろうか、経血が出ることでの不快感や不便さを少しでも解消できる手段はないだろうか…生理用品業界は最近、日々進歩し画期的な商品を次々と開発しています。
吸収剤を編み込んだナプキンいらずのサニタリーショーツや、タンポンに代わり注目され始めた月経カップなどが現在のトレンドでしょうか。数々の新商品により、女性は生理中でも休むことなく活動的にいることが可能になってきています。それが良いことなのかはさておき。

ただ、私は月経カップや吸収系サニタリーショーツを見るたびに、これらを受け入れられる人と受け入れられない人には大きな差がありそうだなと感じています。
これは私の主観ですが、「子供を産みたくない女性」には、HSP(Highly Sensitive Person / 人一倍繊細で敏感な人)の方が多いように感じています。

ハイリー・センシティブ・パーソン(英: Highly sensitive person, HSP)とは、高度な感覚処理感受性を、気質(生得的な特性)として持つ人のこと。

刺激に対する「深い認知的処理」と「高い情動的反応」を持つ人のことで、その様な高い敏感性を「感覚処理感受性(sensory-processing sensitivity)」と呼ぶ。今日の数多くの研究が示唆するところによると、感覚処理感受性(SPS)は生得的なものであり、人類の15 - 20%に見られる性質である。感覚入力処理が通常よりも深いという点で特徴付けられ、それにより些細な事柄に対する気づきやすさを生んでいる。合わせて、他の人には気にならない程度の感覚刺激によって容易に興奮してしまうという現象も、恐らくは必然的な結果として生じている。
心理学上の概念であり精神医学上の概念ではない。病気や障害ではないので、DSMにも指定はされていない。

(引用:Wikipediaより)

妊娠中の、自分の体内に生命体がいるということへの拒絶を感じる人々、子供が発する声や行動に耐えがたい苦痛を感じる人々は、やはり繊細な感受性と、異物に対して敏感に反応する性質があるのかもしれません。
実際に私自身、HSP診断を行うと十中八九「パーフェクトHSP」と言っていいくらいの結果が出ます。

HSP気質の人の特徴の一つに、「身体に合わない服を身に着けると具合が悪くなる」というものがあります。私の場合はタンポンを体内に挿入するだけで具合が悪くなるので、公共の温泉などやむを得ない場合以外には使用できません。月経カップはタンポンよりもアレルギー発現率が圧倒的に低いとされていますが、それでも私の場合おそらく異物感を受け入れられないだろうな…と考えています。

どれだけ生理用品が進化しても、不快感を減らすのはなかなかの難題です。あとは、いつか歳を取って生理そのものが終わることをじっと待つくらいでしょう。

実は、閉経年齢は自分で算出することが出来ます。
女性が一生のうちに使用できる卵子は一般的に500個とされており、それに基づき下記の計算式が用いられています。

500÷(365÷生理周期の平均日数)+初潮の年齢

今は辛くても、とりあえず終わりの時期さえ見えてくれば、少しは気が楽にはなります。若い世代の方は卵子提供プロジェクト等を使って自分の卵子を「資産」としてとらえること、35歳以上の方々は閉経年齢計算で「終わりの時」を明確に捉えてその日をじっくりと待つことで、月に一度の憎き赤い悪魔、生理との向き合い方も少し変わるのではないでしょうか。

皆さんの生理への思いが、少しでも楽になることを心から願うばかりです。

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