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【米国株】株価収益率(PER)とは何か?

●そもそもバリュエーションとは?
バリュエーション指標にはいくつか種類があります。株価収益率(PER:Price-Earnings Ratio)は、株価を企業の一株当たり利益で割った比率です。これは企業の株価がその利益に対してどれだけの価値を持っているかを示す指標であり、投資家が企業の株式を評価する際によく使用されます。一般論として、高いPERは、投資家が将来の成長期待に対して支払いを行っていることを示し、低いPERは投資家が将来の成長に対して期待を持っていないことを示す場合があります。

PERに似た概念としてPSR(Price-to-Sales Ratio)があります。PSRは、企業の株価を企業の売上高で割った比率です。この比率は企業の株価がその売上に対してどれだけの価値を持っているかを示す指標であり、株式投資の評価に使用されます。PSRが低いほど、企業の株価が売上高に対して割安であると見なされますが、この比率は業種や企業の成長率などの要因によって異なります。

PEGレシオ(Price/Earnings to Growth ratio)は、企業の株価収益率(PER)をその企業の成長率で調整したものです。PERが企業の株価をその利益に対してどれだけ支払っているかを示すのに対し、PEGレシオはその成長率を考慮して評価します。一般的に、PEGレシオが低いほど、株価が利益成長に見合った価値であると見なされます。これは、低いPEGレシオが将来の成長を割安に評価していることを示すためです。

ここではPERをバリュエーションの代表的概念とみなし、PERについて書いていきます。

●PERとは投資家の期待の強度
一年で企業が100の利益を出していたとして、その企業の時価総額は100になるでしょうか?その企業がその後も継続的に利益を出し続ける見込みがあれば、企業の価値は利益の何倍にも評価されることは自然なことです。この倍率がPERです。つまりPERとは投資家の期待の強さと言い換えられるでしょう。

●平均PERは業種や企業によって異なる
長期で均してみたときの平均PERが業種や企業によって異なるのは投資家の期待の強度が異なるからです。例えば自動車会社は景気によって売上が大きく左右されます。そして利益はもっと大きく変動します。ゆえに好景気の時の膨らんだ利益が向こう何年も続くと投資家は期待できません。ゆえに自動車会社のような景気敏感な株のPERは一般的に低い傾向があります。景気敏感株は絶好調な時、高い利益成長率を出しており、尚且つ低いPERであるので、割安と判断して投資したくなりますが、こういう時は大抵株価の天井です。景気が暗転すれば景気敏感株の利益は急減し、逆にPERは一気に上昇するからです。

事例)
株価100ドル 一株あたり利益20ドル PER5倍
↓景気暗転
株価80ドル 一株あたり利益2ドル PER40倍

P&Gやマクドナルドといった老舗の株が、低い利益成長率なのに市場平均よりも高いPERで常に取引されているのは、投資家の信頼感があるからです。長年の実績があり、尚且つ既に強固なビジネスモデルを構築しており、他の企業の参入で利益が脅かされる心配も少ないので、投資家の期待が強いまま維持されているのです。

PERは業種や企業によって異なるのは、それぞれの固有の要因が投資家の期待に大きく影響しているからであり、その背景を無視してPERを比較すると議論がおかしくなってしまいます。PERを議論する際は、投資家の期待に作用している要因をチェックし、その利益はうつろいやすいのか、強固なものなのか、その強度を吟味しなければなりません。企業間のPERを比較する際は、成長率だけでなく、利益見通しの強度にも注目して比較しないといけません。

●PERが変動するとき
PERの変動は株価に大きな影響を与えます。特に高いPERの株ほど大きな影響を受けます。一方で低いPERの株はほとんど影響を受けません。PERの変動は投資家の期待の変動と言えます。その要因は様々ですが、代表的なものは以下の通りです。

〈長期金利〉
長期金利(米国10年債利回り)が大きく変動すること、これは株式のライバルである債券の魅力が変動していると言い換えられます。金利が上がると株式の魅力は相対的に減ります。金利が下がると株式の評価は上がります。つまり簡単に言えば、金利高=PER圧縮、金利低=PER拡大なのです。理論株価の計算式を用いた解釈もできますが、ここでは省きます。

2022年は中央銀行が0%→4%まで一気に金利を引き上げたため、PERは大幅に圧縮しました。SP500は22倍→15倍までPERが下がり、株価は約30%暴落しました。

〈業態変化〉
2019年、アップル(AAPL)株のPERは約2倍に拡大しました。

この間、売上高はほとんどゼロ成長でした。しかしPERが2倍に拡大し株価も2倍になりました。アップルの利益の大部分はiPhoneでした。これでは新製品が売れなければ利益を維持できません。消費者のウケが悪ければアウトなのです。その利益は移ろいやすいものと言えます。そこでアップルはサブスクリプションサービスの割合を増やしていきました。サブスクならば顧客が解約しない限り将来の売上高は確保されているのと同じです。つまり収益におけるサブスクリプションの割合を増やすことで利益の見通しのききやすさをアップすることができたのです。ゆえに投資家の期待の強さが上がりPERは拡大したのです。

〈成長率変化〉

赤字企業のためPSRを使用

電子署名のSaaS企業ドキュサイン(DOCU)は21年に投資家の期待に届かない決算を出して暴落しました。その後、成長率は急減速していき、20年は40%以上の成長率を誇っていましたが、今や10%前後の成長率しか出せなくなってしまいました。2020年の頃より今では売上高の水準は高いですが株価は地を張っています。これは悪い決算によって投資家の期待が一気に萎んだこと、成長率の急減速、低成長が恒常化したことで期待が萎んだままであるためと考えられます。重要なことですが、決してバリュエーションが割高すぎるから下落したのではなく、投資家の高い期待を裏切ったために期待値が萎んだから下落したのです。

決算をしくじった株をすぐに処分すべき理由はここにあります。投資家の期待値が萎みPERが縮小することによって株価が下落していくのです。ゆえに、売上や利益が成長しているからといって、決算をミスした株をホールドしていると大事故に繋がりかねないのです。

〈利益見通しのききやすさの変化〉

コカコーラ(KO)は長年PERは30倍くらいで推移していましたが、23年末に一気に縮小し、今なお以前の水準に戻っていません。これは抗肥満薬が流行し、炭酸飲料やお菓子の需要が減るのではないか?との不安を投資家が感じているためだと考えられます。つまり、外部要因によってコカコーラの利益に対する見通しがききづらくなり投資家の期待がやや弱まったのです。

●PERは割安・割高の判断指標となるか?
単純にPERの数値だけを見て割安・割高とは判断できないと思います。高いPERには投資家がそれくらいのプレミアムを払っても良いとみなしているという事情があり、逆に低いPERにも安値放置されている理由があります。

例えばテスラ(TSLA)を見てみましょう。

2020年の上昇の当初は、何百倍ものPERがついていました。その後、PERは1000倍を超えていきました。市場平均は20倍でしたので極めて高いPERだと言えます。しかし、その間、株価は上昇し続けたのです。この時、PERの数値だけを見て割高だと判断していれば、株価上昇を取れませんでした。

なぜ高いPERが許容されていたのか?それは当時コロナ禍であり、業績が成長している企業はほんの一握りであったため、成長株の希少性が増し高いプレミアムが付いたのです。当時テスラは売上高成長率+70%を超え急成長していました。さらに大規模金融緩和によって金利はゼロでした。株の魅力が高まる環境でした。尚且つEVを大規模に製造・販売している企業は当時テスラだけであり、EVシフト後の自動車市場を支配するのはテスラだというストーリーが投資家の間で説得力を持っていました。ゆえにPERが3桁倍でも割高ではなかったのです。

しかし現在はPERが40倍まで下がってきています。過去のPER推移を見れば割安だと判断する人は多いかもしれませんが、僕は割高だと思います。なぜならテスラの売上高成長率は+8%まで鈍化しており利益も伸びない状況になっているからです。尚且つ中国EVメーカーという強力なライバルの台頭でテスラは値下げ競争に巻き込まれています。また25年後半まで新モデル投入はなく、現在の状況が近いうちに好転する兆しはありません。利益の伸びない企業はテスラ以外にも沢山ありますが、皆PERは10倍くらいです。ゆえにテスラの40倍は割高であり、まだまだ下がる可能性の方が高いと考えています。

こういった背景事情を考慮せずに単にPERの数字だけを見て投資をしても上手くはいきません。2023年、テスラのPERが下がってきたから割安だと判断して投資していたら大変なことになりました。テスラの株価が更に下落してPER15倍くらいになれば妙味があるか?と言えばNOだと思います。それはテスラがその程度の会社に成り下がったことを意味し、そこから株価がV字で切り返すとは思えないからです。

まとめると、割安の判断には、なぜPERが低くなっているのか、その背景事情を分析し、その投資家を弱気にさせている状況が今後好転するという読みが必要です。逆に割高の判断では、なぜPERが高くなっているのか、その裏側を分析し、投資家強気にさせている状況が近く暗転するという読みがなければいけないと考えます。


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