死が二人を別つまで(後編)

「なんとか間に合ってよかった。」
人気の少ない場所を人数雇って張らせていたが間に合うかどうかは賭けだったからな。
距離の近い公園で助かった
俺は胸を撫で下ろした。
「よくも邪魔してくれたなぁ」
化物が人の言葉を喋る。
「やっぱりお前も能力者か」
「いい感じに追い詰めてたのによぅ!」
化物は魔法陣に囲まれ光に包まれ、光が晴れたその後には二人の男女の姿が出てきた。
しかしその姿は異様だった。
男は先ほど斬り付けられた傷はウソかのようにピンピンしている。
そして焦点は定まっていない虚げな目。
明らかに何か大切なものが欠落している人間。
女は鎖に繋がれ、生気のない目をしている。まるでただの傀儡のよう。
「その女性はどうした。」
「こいつかぁ?人を食う感触を沢山味わったら壊れちまったぁ。至福の時間なのにこいつというやつは。」
「お前みたいの能力でそういう行為は禁止されてるはずだが?肉の味を覚えたりして後遺症が残る場合があるからな。今のお前のように。」
「なんでそんなこと守らにゃならねぇんだ?こんな能力あるのにあいつら…これはするなあれはするな…俺たちの命を削ってるんだぞ?好きに使わせろぉ!」
「…俺たちの命を削ってる。だから好きに使わせろって言い分は分からないこともない。俺も思ったことあるからな。」
「そうだろう!話が分かるじゃねぇか!だからこそ俺は協会を脱した!不都合もあるがそんなこともどうでも良い!お前もはぐれなら分かるだろ?」
「…俺がはぐれになったのはアイリのためだ。お前のように自由勝手したいわけじゃない。それに…お前のように人を不幸にする存在は許さない。」
「ちっ!話が分かるかと思ったがやはりダメか。それじゃあどうするつもりだぁ?」
「ここで抹殺する。」
「は!出来るもんならやってみろぉ!」
男は女の手を強引に引っ張り魔法陣を展開する。
強烈な光が去った後には一匹の化け物が姿を現れる。
顔は獅子、脚は虎、尾は蛇の通常ありえない生物が目の前に存在する。
「さて…それじゃあこっちも本気を出すか。アイリ!」
俺は刀を納めながらアイリを呼ぶ。
「やっぱり救いようのないやつだったわね」
アイリは物陰から顔を出して、ゆったりと歩いてくる。
「あぁ。もう少し救いがいのある奴だったら話し合いでどうにかしようと思ったが…無駄だったな。」
「こんな事件起こしてるんだもの。そりゃ無駄でしょう。」
「まぁな。さてじゃあ準備できたか?」
「当たり前よ。早めに頼むわよ。」
「分かってる。お前にあまり無理をかけさせない。」
俺はアイリの手を取り、そして魔法陣がアイリを包み込み光を放つ。
光が晴れた先には一振りの刀が俺の手に収まっている。
黒き刃を持つ禍々しくも清廉な印象をもたらす刀。
「お前?もしかして死神かぁ?お前と関わるとどんどん人が死んでいくせいで教会からも追い出されたはぐれの能力者。」
「そうだと言ったら?」
「はっ!そんなやつ食い殺したら俺も有名になれるじゃねぇか!ぶっ殺してやる!」
化け物は先ほどとは違いトップスピードで撹乱しながら爪で斬りつけに来る。
俺はそれを躱そうと試みるが一歩遅く頬を切りつけられる。
(異常なほどの速さだなおい…!)
先ほどのように弱者を舐め切った速度ではなく本気で殺しにくる攻撃。
「流石にこの程度じゃ無理か。じゃあ次はどこにくるか予測してみなぁ!」
敵は更にスピードを上げ周りにある電灯や建物を利用して縦横無尽に動き回る。
こちらの目が追いつかない速度で襲い掛かる。
(全然対応しきれてねぇ!もらったぁ!)
背後から心臓めがけて爪の一閃が奔る。
「剣斗!」
アイリが死の気配を感じ取り頭の中で叫ぶ。
剣斗はアイリの剣をその死の気配に向かい一太刀を浴びせる。
化け物の腕が飛んだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!なんで反応できたぁ!!!」
「俺の能力だよとだけ言っておいてやるよ。冥土の土産話にでもしな。」
実際は俺じゃなく死を感じとるアイリのだがな。
それにこの程度で終わらないのはさっきの攻撃で知っているあいつの能力は…
「くそがぁ!再生するのに生命力使うんだぞ!?無駄な消費させやがってぇ!」
化け物はありえない速度で手が再生した。
やはりこの二人の能力は…変化の能力と超再生の能力。
「くそがぁ。こうなったら一時撤退…」
「俺がそれを逃すと思ったか?」
俺は追撃でもう一度手を斬り落とす。
「あがぁぁぁ!て、テメェ…!」
「再生する前に完膚なきまで始末させてもらう。覚悟はでき…」
「まだよ!剣斗!後ろ!」
その言葉に対して咄嗟に俺は横に跳ね飛んだ。
俺がいた場所にもう一匹の猛獣が通り過ぎる。
こいつ…まさか!
「ちっ…!しぶとい奴め。気付きやがったかぁ。」
目の前には先程の怪物が二匹に増えていた。
こいつもしかして…
「気づかれたかぁ…見ての通り俺達は2人で一つだぁ」
「せっかく虚な目をして体のいい奴隷を演じてたのに無駄に終わったわね。」
「さっきのぐったりしてた女か…まだ人格が残ってたんだな。まさか演技とはな」
「ああやってかわいそうな自分を演じておくと戦いに対して油断するバカが多いから。」
「なるほどな…」
「でもこれでこっちも本気を出せるわね。もう2人とも救いようのない連中だと分かったから。」
「ああん?テメェ何言ってんだ?2対1だぞ?テメェらのが不利なのが分からねぇのか?」
「不利かどうかは攻めてきてから言え。さぁ来いよ。化け物。」
「その態度気にくわねぇなぁ!いくぞ!」
「えぇ!八つ裂きにしてやるわ!」
化け物はさらに加速して俺たちを翻弄する。
四方八方に飛び、見事な連携で2人同時に死角に向けて鋭い爪の一閃が入る…はずだった。
「「なんだ(なに)この感覚は…!」」
剣斗の纏う空気が変わり漠然とした死の香りから2人の攻撃に戸惑いが入る
剣斗はその戸惑いに入った隙を見逃さない。
「消しとべ。」「さようなら。」
繰り出される一振り。
それは今までと全く違う攻撃。
剣の先から虚空に向かって黒い闇が広がり化け物を飲み込む。
闇からは声が聞こえる。
それは今まで葬った怨霊達の声。
「ひぃ!いやぁーーーー!!」
化物が闇に呑まれ消えていく。

剣斗のもう一つの隠された能力。
剣に変えた女性の持つ能力を強化させる。
アイリを変えた時の能力は、
今まで葬った敵を利用し、死に招く闇を使役する。
だが強力ゆえの代償が一つある。
自分の生命力ではなく周りの人の生命力を奪う。
それは剣であるアイリも…
これが死神であるもう一つの由縁。

「テメェ!?なんだその能力!?」
「お前が知る必要はない。ここで終わりだからな。」
俺は剣を一振りしてまた化け物を飲み込む。
「くそがぁ!俺はまだ喰い足りねぇんだよ!地獄でテメェを喰い殺せるのを待ってるから覚えておけぇ!!!」
化物が闇に呑まれ消えていく。
「毎度毎度負け犬の遠吠えって似たような台詞ばかりね。」
「あぁ。捨て台詞はもう聞き飽きたよ。」
「私もいつか捨て台詞吐いてあんたの元から消えるのかしら?」
「縁起でもねぇ…その時は俺も一緒に行ってやるから大丈夫だよ。」
「あら?それなら死への旅路も楽しそうねー。あんたにおぶってもらって楽に行かせてもらうわ!」
「それぐらいは自分で歩きやがれっての。」
俺達はいつも通り軽口を叩き合いながら帰路へ立つ。
少しでもこの時間が長く続くことを考えながら。


一俺は夢を見る
誓いを果たしたその時のことを。
俺は最初の誓いをした時アイリの能力を心底恨んだ。
周りの生命力を奪い不幸にしてします能力を。
何よりアイリの寿命を凄い速度で縮めてしまう事を…
だからこそ俺は誓った。
アイリが死ぬ時は自分も一緒だと。
自分が相手を奪うのであれば自分も奪われるべきだ。
このくそったれな世界のために戦わないといけないのならば、死ぬ時は自分の勝手にさせてもらう。
死が二人を別つまで。
俺はアイリと共に生き続ける。
…まぁ本人にはこんな感情を吐露するつもりはないがな。
あぁ。そしていつもの日々が始まる。
「剣斗!ご飯出来たから起きなさい!さっさと起きて食べないと全部食べちゃうわよ!」
「はいはい。起きるからそんな急かさんでくれって」
仕事がこのまま来ないことを祈りながら。
退屈で幸せなこの生活が続くことを祈りながら。
少しでもアイリが長く生きてくれることを願いながら。

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