嫌いなんて言えない 前編

副題
泣き出しそうな相手のほっぺをぷにぷにとほぐして、
何度も可愛いと囁きました

私…(絵巳)は今大変困っている。
演者としてヘルプで出て欲しいとのことだ。
私は元々表に出るのが苦手である。
なのになぜ演劇部に入ったのかと言うとこの学校の新入部員の勧誘でやっていた演劇に魅せられたのだ。
主演の部長とヒロインの副部長の一挙一足全てに魅せられた。
部長が台詞を唱えながら手を振りかざすと場の空気が一変する。
副部長が感情を露わにして涙を流し号哭する姿に目を奪われる
一つ一つの言葉の力強さと優しさに心を撫でられた。
それを更に盛り上げる背景の道具たちの完成度に感動した。
私もそれの一つになりたいと思ったのだ。
…だが私はどうしても表に出るのが苦手なのだ
昔から人の目線が集中すると顔が真っ赤になり上がって何も話せなくなってしまう。
まるで私がミスする所を見逃さないようにしているかのような錯覚を感じてしまうのだ。
それでも私はどうにか、あの演劇の手伝いをしたかったのだ。
だからこそ私は裏方に応募をした。
元々絵を描いたり物を作ることが好きだった私にはピッタリ。
裏方なら表に出ることなくあの演劇の手伝いができると思い入部した。
そのはずだったのに…

「何で私なんですか…?」
私は台本の製作者である(想子先輩)に問う
「今回の劇でやる演目のヒロインである画家にピッタリなんだよ!君が裏方で書いてる絵には部長も舌を巻いてる程の技量だし、何より君上手く髪で隠してるけど結構な器量よしと見た!何より今回は新人のこの成長を重きに置いているからね!舞台に立つ事でライトをどうかける事が最善か、演者の動きを映えさせるために背景をどのように描くか等色々知って欲しいんだよ!!!」
想子先輩はそう力説する。
…けど私は知っている。
まだまだ短い期間の付き合いだがこの人の事だ。
きっと…
「それは建前として単純に面白そうだからっていうだけじゃないです?」
「…あれ?バレちゃった…?でも言ってることに嘘偽りはないよ!君が実は可愛い顔してるだとか1度舞台に立って見た方が良いとかね!それに今回は新人さんだけでやる内々の舞台だから観る人も少ないしね!そんな中劇をやるのも楽しいと思うというか絶対楽しいー!」
「入部した時にハッキリ言いましたが人前に出る事が苦手なんです。台詞を読んで劇をするなんて無理です。そして私は可愛くなんてありません。」
「絵巳ちゃんはつれないなぁ。だからこそ僕の脚本的に今回の舞台にピッタリだと思うんだけどね!演じるのではなく君をあるがままさらけ出せばいいのよ!それで今回の舞台のヒロイン役が光るのだから!!というわけで先輩権限で決定ぃ!明日から早速稽古始まるから軽く台本を読んでおいで!なーに明日はヒロインの動きとかを軽くやるだけだから軽ーい気持ちで部活に来てね!そういう訳だから!任せた!」
「あっ!想子せんぱ…」
想子先輩は風のように去っていった…
全くあの人は人の話を聞かないんだから。
でもあの人の書く脚本は本当に素晴らしいものが多いのは事実。
すでに出版社にも持ち込みして賞を貰ってたりしてるらしいという噂も漂うレベルの本を書くらしい。
…まぁ本人があんな調子で飄々としてるので実際の所はどうなるか分からないけど…

とりあえず今の問題はこの台本だ。
こうなった以上やらねばならないだろう…
想子先輩が言ったのだからやらざるを得ないだろう…
だが私をそのまま表現するとはどういう意味だろうか。
私は台本のページを捲る。


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