九十九 仙次の日常

楽しい一夜が明けて目が覚める。
そこはいつもの自分の部屋。
戦隊ヒーローやタンスから泥棒をするような勇者たちのグッズに溢れかえっている部屋。
「うぁ…?そっか昨日は伊礼ちゃんとステラバトルしてからそのまま遊び惚けてたんだった。」
戦闘で受けたダメージは他のステラナイトに癒してもらったおかげで体は何ともない。
あるとしたら二人で寝ずにトランプやテレビゲームをしながら遊び疲れた感覚のみ。
「いやー!昨日は本当に楽しかった!勝ったり負けたりしてお互いにドタバタしたけども!」
それにしてもまた頬にキスしてほしいだの、手をつないでほしいだの、1分間見つめてほしいだの何でそんな罰ゲームばっかり俺にさせたのか本当に謎だ。
おかげで沢山恥ずかしい目に合った…そういう風にからかって俺で遊んでんのか…?
さすがに負けた方は服を脱いでいくなんていう罰ゲームを提案されたときは断固拒否したけど凄い不服そうだったな…
「女の子なんだからもっとそういうのはしっかりしないとダメなのになー。」
俺は一人で昨日の楽しかった出来事を思い出しながら顔を洗ったりしてのんびりしていたその時。
ピンポーン
「?」
突然のチャイムに首をかしげる。
時刻は朝の9時
休日とはいえ遅くもないが早くもない時間。
…こんな時間に来るってことはもしかして
ピンポーン。ピンポーン。
チャイムの音が少しづつ激しくなる。
「起きてる!起きてるからちょっと待って!」
チャイムがぴたりとやむ。
俺は急いで身支度を整え玄関のドアを開ける。
そこに立っているのは銀髪の長髪にオレンジがかった眼。
見慣れた姿の女の子が目の前にいる。
「やっぱり伊礼ちゃんだったか。朝からどうしたの?」
「キミの事だからそろそろ起き出す頃かと思ってね。一緒に朝ごはんでも食べながらのんびりしないかい?」
「伊礼ちゃんは相変わらず俺の事をよく見てるし覚えてるなぁ。この前も来てくれたし。いいよー!俺もお腹空いたし行こうよ!」
(この時間に起きることは前から知ってたしね。君の事をもっと知るためにも。)
「それじゃあどこか食べに行こうk…」
「その必要はないよ。」
伊礼のその手にはエコバックがあり、大量の食材が見て取れる。
「今から君に朝ごはんをご馳走してあげよう。楽しみにしていたまえ。」

手伝うと言い張るキミをリビングに押し出しボクはキッチンに立つ。
さてさてあの子を落とすためにどんな料理を作ってやろう。
昨日は夜遅くまで遊んで多少なりとも疲れてるだろうし栄養がある物を中心に作ろうか。
「ここのキッチンは少しばかり大きいな ボクも少しばかり変身して作業しやすくしよう。」
1歩-服に手を当てる-動きやすいエプロンに変わる
2歩-喉に手を当てる-少し大人びた女の子の声に変わる
3歩-顔に手を当てる-そこには、いつもより成長した美少女が立っていた
「これでよし。さて、とびっきりの物を作ってあげよう。」
伊礼は少し微笑みながら、楽しそうに料理を進める。
キミの美味しそうに食べている姿を思い浮かべながら。

「おお!めっちゃ美味しそう!これぞ和食って感じ!さすが伊礼ちゃんだね!」
並んでるのは卵焼きにお味噌汁に焼き鮭、ほうれん草のお浸しなど沢山の料理が並べられる。
「さぁ出来立てが美味しいですし、早くいただきましょうか。」
「じゃあ伊礼ちゃんも早く準備して一緒に食べよう!」
「分かりました。少々お待ちを。」
伊礼ちゃんはいつもの文言を唱えよく見る伊礼ちゃんの姿に戻る。
「…何度見ても慣れないしビックリするなぁ」
「毎回ポカーンとしている顔を見るのもとても楽しいですがそんなになれませんか?」
「俺にとっての伊礼ちゃんは今の伊礼ちゃんだからね。他の姿は伊礼ちゃんだけど伊礼ちゃんじゃない感じがしてムズムズする。」
「この世界ではこれぐらいの能力を持つ人間は山のようにいそうですが。本当になぜでしょう?」
「うーん。今の伊礼ちゃんが一番好きだし似合ってるからかな。」
「………もう一度言ってくれますか。」
「?今の伊礼ちゃんが一番好きだし似合ってるからかなって。この前のステラバトルでもすごい波長?があってとても動きやすかったし。何より凄い安心した。」
「!!やっと私に愛を向けていただけたのですね!?」
「???」
「……?何かが致命的に噛み合ってませんね?」
「いやだって伊礼ちゃんはステラナイツで戦う相棒だからこう愛とかで見てる気が無かったから…」
「………ぬか喜びでしたね。せっかく君の愛を受けることができたかと思ったのに(ボソッ)」
「な、なんかごめんな?…そうだ!このあとまだ時間ある?」
「もちろんです。時間には余裕があります。」
「じゃあ一緒に遊びにいこ!時間は沢山あるし!!」
「えぇ。いいですね。喜んで参ります。」
「それじゃあまずは腹ごしらえからだね!たべよたべよ!」
「それではいただきますか。」
二人は手を合わせて、仲睦まじく一緒にご飯を食べ始める。
(いつになったらキミは愛を向けてくれるのだろうか…)


二人は身支度を整え(伊礼は変身するだけだが)外へと向かう。
「ところでどこへ向かうんだい?」
「まずは買い物行こ!せっかくだしお互いにプレゼントの交換とかもしようよ!向こうではできなかったし!」
「それはいいな。今から楽しみだ。
 それじゃあ着くまで時間があるし、キミに質問を投げかけながらのんびり行くとしよう。」
「おお?面白そうだなぁ!どんとこい!」
「じゃあ一つ目。君は恋をしたことあるかい?」
「今までにしたことはあるよー!クラスの女の子や上級生の子とかに!」
「そうなのかい?じゃあ過去に付き合ったこともあったり?」
「いんや!まったく!大体他に好きな人がいるって断られるんだよなぁ。」
「それはまたついてないうべきかな。」
「それでその人が幸せならよし!」
それを聞いた伊礼ちゃんは少し眉をひそめた。
「…キミとペアを組んだ時から思ってるが私にはその思考が分からない。」
「うん?なにが?」
「他者をそこまで尊重する思考だよ。普通の人間はもっと自分を尊重するんじゃないのか?」
「だってその子はすでに幸せなんだよ?そこに俺がいなくてもそれだけで十分じゃん。」
まるで当たり前かのように九十九はそう語る。
「他者の幸せのためなら自分の事は置いておくと。犠牲にしてもかまわないと。」
「なんか難しいこと言ってるけどそれって当たり前の事じゃないの?」
「私の考えでいくとありえません。私には他人を理解することが難しいという点も関係しているかもしれませんが、過去に会った人たちと比べてもおかしいかと。」
「だって自分が犠牲になるだけで周りが幸せになるんだよ?いい事じゃん!まるで戦って傷ついても周りを助けるヒーローみたいでかっこいい!」
「ヒーローみたいでカッコいい…」
なぜか少しぽかんとした顔で伊礼ちゃんが呟く。
「そうそう!だからステラナイツに選ばれたときは凄い喜んだんだ!皆を助けるヒーローに近づけたみたいで!」
「なるほど…理解はできませんが覚えておくことにします。
 では続けて質問します。キミはさっき皆のためなら犠牲になると言いましたね。」
「それがどうしたの?」
「一つ今回の戦いで気になったことがあるのです。キミは自分をおろそかにしすぎだと。ただひたすらに自己を犠牲にしながらも相手に猛進して斬りかかる姿がとても…気がかりでした。」
「だってその方が効果的にダメージ与えられて他のステラナイツの助けになるじゃん。」
「他の人のために傷つくことが当たり前なのですか?死が怖くないと?」
「死なないよ?だって俺はこの世界の主人公でヒーローになる男だからね!死ぬわけない!」
「その自信はどこから…」
「だって主人公が負けるのはありえないでしょ?それに…」
「なんでしょうか?」
「君が傍に居れば大丈夫な気がするんだ。全く負ける気がしないから!!」
「………キミは誰にでもそういう態度を取りそうだと最近思い始めた。」
「?伊礼ちゃんだけだよ?」
「分かった。降参だ。これ以上の言及は危険だと感じた。」
伊礼ちゃんはそう呟くとそっぽを向く。その横顔は少し赤みを帯びている。
「寒い?頬が赤いけど?」
「何でもない。ほら。早く目的の場所に行こう。クリスマスプレゼントを買うのだろう?」
「うん!行こ!」
二人はそのあとも他愛のない話を楽しみながら歩みを進めていく。
一人はこの現状をいつまでも続けれるように愛そうとする相手を守ろうと更に思いを強め、
一人はこの現状がいつまでも続く事を疑わず、楽しげな笑顔でどんなプレゼントを買おうかとワクワクしながらどんどん時は過ぎていく。

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