星空の下(完結編その2)

ゾンビと相対して数分が経った頃
「割と手応えなかったな。」
「まぁ数が多いだけで、分かりやすい動きをしてくれますしいつもより簡単でした。」
「だな。さて後はこいつらの死体を片付けて…うん?なんだこの音。」
俺達は音がする方に目を向けるとそこには

…人間の倍はあろうか。
俺達の身体なぞ容易く破壊できるだろう、筋骨隆々とした体躯。
腐敗して、いたるところの肉が爛れて、片目は腐り落ち、唇も裂け、歯も剥き出し。
それでも所詮、今まで幾度となく殺してきたゾンビだ。多少図体が良いだけ。今の俺たちなら軽く潰せるはずだ。
…なのにここまでの圧迫感はなんだ…?
今までの連中とは何かが違う。
その違和感を払拭する前にそいつは動き出す。
真っ直ぐにこちらに走ってくる…!
「ちぃっ!」
俺は反射的にショットガンを敵目掛けて撃ち抜いた。相棒もそれを見て速射を額に撃ち込む。
だがそいつは止まらない。弾丸はくい込んでいる。並のゾンビなら倒れてしまう威力のはずなのに…!
「おいおいおい!マジかよ!」
このままだと危険だと判断し武器を持ち咄嗟に回避行動を取る。
そいつは俺たちがいたところにあった何もかもをなぎ倒し突っ込んだ。
…あんなのに巻き込まれたら体中がぐちゃぐちゃになるな。
「さてさて…とんでもないのが来たなぁ…初めて見たぞあんなの。」
「全くですね拳銃が効かないとなるのは面倒ですね。」
「効かないというより致命傷部分まで届いてないって感じだな。他の奴らより頑丈に出来てんだろうな。」
「厄介ですね…どうします。幸いにも弾薬は沢山ありますが。」
「まぁ図体がデカかろうとやることは1つだろう。」
「なんですか?」
「ど頭をぶち抜くだけよ。」
「…まぁその通りですね。あいつらに対する必勝法は。」
「よし。じゃあ俺が囮になりながら機動力を地道に落としていくからお前は遠方から目ん玉ぶち抜け。お前なら多少動くレベルなら打ち抜くぐらい大差ないだろ。」
「また私を大きく信頼してますね。」
「なんせ俺が育てたからな!それぐらいやってもらわないと困るわ。」
「今となっては正確性には貴方に負けないと思ってますからね。」
「まぁな。良く成長したよ。今まで本当に助かってる」
「…気持ち悪いぐらいに褒めますね。いつもなら何言ってやがるって張り合うのに。」
「なんかそういう気分だったんだよ。行くぞ!」
「…納得いかないですが。了解です。」

さてとそれじゃあ行きますか。
「おい。化け物!俺が相手してやるからかかって来い!」
瓦礫に突っ込んでいた化け物は体を起こしこちらに向かって疾走する。
俺はこちらに向かってくる化け物に向かってショットガンを撃ち抜く。
…やっぱりこれじゃあ威力が分散するからか効果的なダメージにならないな。
そうこうしてるうちに化け物は俺に向かって拳を振り下ろす。
「いよっと!」
俺は左方向に飛んで回避をする。
拳はそのまま地面に当たりコンクリート砕ける。
(今だ!ついでにこれも食らってけ!)
ロングソードを振りかぶり太腿を切りつける!がやはり効果が薄い。
(回避に専念した切りつけだしな。踏み込みが甘すぎるか。)
化け物はそのまま追撃を開始する。
左腕のアッパー、右脚のミドル、左腕のストレートと単調な攻撃を繰り返す。
俺は敵の攻撃を見極め回避をしながら思考する。
(攻撃は単調で躱すのは簡単だがこのまま続けてたらジリ貧でまずいな。
どうやって反撃を…そういえばこいつも人間と同じ構造か。やってみる価値はあるか。)
「仕掛ける。マルヒトマルマル。撃ち抜け。」
「了解。狙撃ポイントに移動します。」
相棒に無線で合図を送りロングソードを強く握る。
化け物はちょこまか動く俺に対して我慢が出来なくなったのか大振りな一撃を俺に振るう。
(今だ!!)
俺はその一撃を回避し今度はしっかり踏み込み右足のアキレス腱目掛けで振り下ろす。
人体と同じ構造ならそこ切られたら動けなくなるだろ!

しかしこちらの動きを読んでいたかのように敵は脚を一歩踏み出しそれを回避する。
(なっ!?)
俺の攻撃は外れ地面を切り付ける。
大幅に体制を崩した俺に化け物は渾身の一撃を打ち込む。
「ぐぁっ!?」
俺は手に持ってた武器を落としながらそのまま4、5mは吹っ飛び壁にぶつかる。
(ヤバい…骨が何本かイカれたかもしれん…)
化け物はこれを好機と言わんばかりに俺の方に向かってくる。
「まずい。回避…!」
しかし身体がまだ麻痺してるのか上手く動かない。
化け物は目の前まで来るとそのまま拳を振りかぶる。
…その瞬間相棒の銃が唸る。
マクミランTAC-50。スナイパーライフルによる一撃で敵が後ろに仰け反る。
俺はその隙に身体を無理やり動かし少しづつ距離を取る。

「大丈夫ですか!?」
相棒から無線で連絡が入る。
「いきなり叫ばんでくれ。耳が痛いじゃねぇか…」
「そんなこと言ってる場合ですか!?怪我は!?」
「あばらに数本ヒビが入った。これじゃあ動き回って行動するにも限界があるな。」
「…撤退しましょう。私が援護するので逃げて下さい。」
「バカヤロウ。そんな事したらあの嬢ちゃんがやられ…うわっと!?」
化け物は回復したのかこちらに向かって来て攻撃を再開する。
「…っ!?しかしこのままでは全滅してしまいますよ。」
「大丈夫だ。まだ手はある。」
俺は躱しながら、相棒も腕などを撃ち抜き援護をしながら会話を続ける。
「…虚勢じゃないでしょうね。」
「違ぇよ。あいつはあの動きから見るに普通のゾンビよりも知性が発達してるんだと思う。」
「確かに普通のやつとは違う動きだと思いました。まるで攻撃を誘ったような。」
「あぁ。明らかに俺の動きを読んでたから間違いない。どこを攻撃するのか予知してたんだ。」
「…逆にそんな相手にどうやって一撃を食らわせるんです?」
「俺では無理だな。この体だし。囮になってあいつの動きを制限するのが精一杯だ。だがお前ならやれる。」
「それはどういう…?」
「さっきのお前の一撃だよ。あいつは遠距離にいるお前までは観測できてない。」
今だって俺の反撃は躱してるがお前の牽制は躱しきれずに当たってるのが証拠だ。
「ならあなたも今から引いて2人で射撃を…」
「そんなことしたらずんずんとあいつはお嬢ちゃんとこ行っておしまいだろ。あの嬢ちゃんは死なせてはダメだ。囮役は続行だ。」
「ですが武器もない貴方に何が!!」
「お前だって本当は分かってるんだろ。あの嬢ちゃんはこれから先、何かの鍵になる。それをこんな所で手放すわけにはいかん。俺を信じろ。お前は俺の合図があるまでしっかり耐えて一撃で仕留めろ。」
「……………………分かりました。生きて帰ってきてくださいよ。」
「おう。当たり前だ。」
俺は無線を切り行動する。

敵の攻撃を躱しながら俺は下準備を始める。
相手は知性があるという事は想定外の出来事には弱いはずだ。
例えば…
(死角からの突然の爆撃とかな。)
俺は倒れている時に仕掛けておいた複数の手榴弾のピンをワイヤーを利用し引き抜く。
化け物の後方から爆音が轟く。
奴は爆音のする方向に体を翻し後方を確認する。
俺はその隙を利用し一撃を食らわせる。
手に持っていた手榴弾のピンを抜き相手の口の中に手ごとぶち込む。
その瞬間持っていた手榴弾は起爆した。
だがさすがの化け物もその一撃は効いたらしく、呻きながら動きが止まる。
(左手1本こっちは犠牲にしたのにまだ死なねぇとは本当に頑丈だなおい!?…だが俺にはまだあいつがいるんだよ!)
「今だ!やれ!」
「…了解!」
その隙を逃さず相棒はスナイパーライフルで一撃を撃ち込む。
その弾丸は一直線に化け物の眼球を貫きその
まま脳を破壊する。
「…コレ…デ…オワリト…オモウナ…」
…化け物はそのまま地に伏せた。

外は日も暮れ始める。
終わった…か…
俺は安堵感から全身におった怪我が痛み出す。
「…っ!さすがに暴れすぎたか…いってぇ…!」
そうこうしてるうちに遠方から相棒が駆け出してくる。
「なんて無茶な事するんですか!?危うく死ぬところでしたよ!?」
「でも確実に動きは止めたろ?へへっ!凄いだろ!」
「馬鹿なこと言ってないで早く治療を!」
「いいよもう。どうせ手遅れだ。」
「何言ってるんです!確かに怪我は酷いですがまだ何とかなります!」
「おまえ俺がした事見てなかったのか?口の中に手を入れて噛まれたんだぞ俺?」
「そんなことは分かって………もしかして感染したんですか…」
「おう。血を流したとかじゃなくて既に右手が動かなくなりつつある。自由に動かせん。」
このまま俺は数時間も経てばアイツらの仲間入りだ。
「あなたそんなあっけらかんと…あなたもアイツらと同じになるんですよ?なんで…」
「さすがにそれは嫌だからよー俺がいつもやってたことしてくんね?」
俺がいつも儀式のようにおこなっていたあれを。
「…私に貴方を殺せと?ああなる前に?」
「そうそう。お前の手にかけられるなら本望よ。」
「嫌です。ゾンビが嫌なら私の見えないところで自決して下さい。」
「頼む!一生のお願い!」
「長年慕ってきた人をあなたは殺せというのですか?」
「お前だからこそだよ。もしこうなったらそうしてもらうつもりだった。」
「…ッ!俺はそんなことしたくないって言ってるだろ!」
「お?久々に聞いたなぁその口調」
俺はヘラヘラと笑いながら懐かしむ。
「長い旅路だったなぁ…けど俺は最善を尽くして死ねる。お前を生き残らせることも出来て、未来への鍵となるあの嬢ちゃんとも出逢えた。…充分生きたよ。」
「…私は納得してません。まだ貴方に勝てたことがないのに。勝ち逃げは許しません。」
「ははっ!それは確かになぁ!最後に忠告しとくがお前はまだまだ甘い。人の天秤の測り方をしっかり覚えろ。それさえ出来ればお前は腕前もいいし強くなる。今回だって情で俺を生かそうとするしな。それじゃあダメだ。」
(それがお前の良い所ではあるが今の世界では足枷になる)
「…私はあなたみたいになれません」
「なれるよ。俺が育てたんだからな。」
「………………………………」
「覚悟してくれたか?」
「…あなたは昔から言う事聞いてくれませんでしたからね。」
「ははっ!すまねぇな。意地の悪い性格で。」
「えぇ…でもそんな貴方が好きでしたよ。」
「ありがとな。」
(俺の死を背負って生きてくれ。俺の最後のわがままだ。)
「僕が死んだ時にまた会いましょう。お酒用意しといて下さい。」
「お前と飲むの楽しみだなぁ!とびっきりの用意しとくよ! …じゃあな。」
「えぇ。またあいましょう。」
1発の銃声が虚空を響いた。
空は綺麗な星達が舞っていた。


私はまだあの女性と過ごしている。
ワクチンの開発にはまだ掛かりそうです。
あの化け物のようなやつは複数いるらしく、また攻め込んできた。入念な準備をしていたので1人でもどうにか出来たが、このままではジリ貧だった。人手が必要だ。
女性に広範囲に渡る無線を作ってもらい少しでも生きてる人をこの地下施設に集めた。
犠牲は…出てしまっているがこのままなら耐えられるであろう。
私はこの状況を打開するまで生き続ける。
あの人の死を無駄にしないためにも。

あぁ今日は綺麗な星空ですよ。
貴方が居たらお酒とつまみを欲しがるような。雲ひとつない満天の星空。
あなたが居なくなった日にそっくりな。
私はこれからずっとこの景色を見る度にあなたを思い出すでしょう。
これからも貴方を背負い、生きていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?