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鈴木茂「Band Wagon」(1975)

邦楽のなかでもティン・パン・アレー系に所属するアーチストは非常に興味があります。何を持ってティン・パン・アレー系と称するかは定義の分かれるところですが、はっぴいえんどを祖とすると大滝詠一、細野晴臣、荒井由実、小坂忠、吉田美奈子、山下達郎、伊藤銀次、果てはYMO、杉真理までどんどん輪が広がっていきます。
どのアーチストも個性的で、オリジナリティ溢れるアルバムが多いですね。また真のミュージシャンばかりで尊敬すべき方々ばかりです。

そんな偉大なミュージシャンのひとり、鈴木茂。 
1970年に細野晴臣松本隆大滝詠一と伝説のバンド、「はっぴいえんど」を結成。
1972年には3rdアルバムの録音のためL.A.へ渡米。ここでヴァン・ダイク・パークスリトル・フィート等と交流。
1973年、細野晴臣林立夫松任谷正隆と、サウンド・プロデュース集団「キャラメル・ママ」を結成。
1974年にグループ名を「キャラメル・ママ」から「ティンパン・アレー」と変えて活動。
1975年に自身のソロアルバム「BAND WAGON」を発表。

私はこのアルバムを聴いた当時、鈴木さんのことは「はっぴいえんどのメンバー程度の認識」だったのですが、いや~、ぶっ飛びました。日本人がここまでスワンプやっていたとは…。

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乾いたギターのカッティングに、複雑に絡むドラム、キーボードも心地いい。①「砂の女」はこうして始まりますが、頼りない鈴木さんのヴォーカルはご愛嬌(笑)。
素晴らしい演奏だなあと思ってクレジットを見ると、なんとドラムはあのタワー・オブ・パワーのDavid Garibaldi!「オークランド・ストローク」を生み出した名ドラマーですね。そしてベースはDoug Rauch、キーボードはDon Grusin!!
これは凄い面子です。どうりでグルーヴ感がすごいと思いました(アップした動画の下の画像は演奏とは関係ありませんので)。

そして強烈なサザン・ブギーの②「八月の匂い」。やはりリトルフィートに多大な影響を受けているのでしょうね。この楽曲の貴重な映像がありました。鈴木のスライドプレイが見れます。

更にグルーヴ感が炸裂するのが③「微熱少年」。松本隆(元はっぴいえいんど)の詞、タイトルもイカしてますが、このスリリングな楽曲。やはり演奏面子が凄い。
ドラムにスライ&ザ・ファミリーストーンのGreg Errico!、ベースはDoug Ranch、独特のノリを醸し出しているクラビットはDon Grusin、エレピはリトルフィートのBill Payne!。
鈴木のスライドギターも冴え渡ってますね。このノリを日本人が出せるとは・・・。イントロのグルーヴ感、そして鈴木の緊張感あるスライドギター・・・。これだけでも必聴モノですね。

そういえばレココレのティン・パン特集を見ていたら、細野晴臣の印象深いインタビュー記事がありました。
彼の初のソロ「Hosono House」録音中のインタビューで、JTの「ワン・マン・ドッグ」に敬意を表しつつも、「今回はこれくらいの音を出すよ」と自信を見せていたのです。つまり鈴木も含めてティン・パン系の人達は、海外のアーチストに対して憧れていただけでなく、ライバル視もしていたということです。
この鈴木のソロ作、通常では考えられない面子でのレコーディングを堂々と行った姿勢に拍手喝采ですね。
横道に反れますが、ティン・パン・アレーの貴重なライブ映像を発見しました。

本作にはインストが2曲収録されてます。そのうちの1曲、⑦「ウッド・ペッカー」。ここでも鈴木のスライド・ギターが炸裂してます。Davidのドラム、軽めのスネア音が心地いいんですよね。
ここにはバンド演奏の楽しさが表れてます。多分Davidにしても、Donにしても、最初はなんか訳の分からない日本人が来たと思ったかもしれませんが、こうした演奏を聴いてみると、皆楽しそうですよね。そして多分、このレコーディング終了時点では皆、Mr.Suzukiに敬意を表したのではないでしょうか?

70年代前半から後半にかけて、日本のミュージックシーンは大きく変貌を遂げていきました。海外のアーチストとも堂々と渡り合える素晴らしい時代だったのではないでしょうか?
この鈴木茂のファースト・ソロ作を聴いて、改めてこの時代の凄さを感じた次第です。

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