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Chicago Transit Authority「Chicago Transit Authority」(1969)

80年代前半から洋楽を聴き始めた者としては、やはりシカゴの「Hard To Say I'm Sorry」は印象深い1曲です。そしてシカゴと云えば、スマートな佇まいのピーター・セテラ。そのイメージが強烈なんですよね。音楽もAORを好んで聴いていたので、アルバムでも「シカゴ16」が愛聴盤でした。
もちろん初期シカゴの名曲「25 or 6 to 4」でのテリー・キャスの熱の籠ったギタープレイも大好きだったのですが、なぜか初期シカゴのアルバムはじっくり聴いたことがなく、気になっておりました。

今回、漸くシカゴのデビューアルバムを聴く機会があり、ここしばらくじっくり聴いておりますが、いいですね~。デビュー時のバンド名は「Chicago」ではなく、「Chicago Transit Authority」。このジャケットも素晴らしいです。

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1967年8月、まだ彼等がシカゴ市内のクラブ・バンドでしかなかった頃、彼等にマネジメントを買って出た人物が居りました。それがジェイムズ・ウィリアム・ガルシオ。彼は当時はバッキンガムスを手掛け、ヒットを飛ばしておりました。ジェイムズの熱烈なアプローチでようやくコロンビアと契約を交わし、シカゴは1969年4月にデビューを果たします。但し、当時はコロンビアのシカゴに対する評価は高くなく、ジェイムズがBS&Tの次作のプロデュースを請け負うことが契約の条件だったらしい(ジェイムズはBS&Tのデビューアルバムのプロデュースを断った経緯があります)。

決して円満なデビューであった訳ではないのですが、それでもシカゴはいきなりLP2枚組でデビューします。強気な立場でいられる程、彼等に余裕があったとは思えませんが、その音楽に相当な自信があったのと、ジェイムズのマネジメントが功を奏したのでしょうね。確かに本作、デビュー作とは思えない充実した内容であることは間違いありません。

冒頭でスマートなピーター・セテラと申しましたが、このデビュー当時の彼等は、80年代の彼等とは全く別のバンド…ですよね。まず一番驚いたのが「ピーター・セテラってむさ苦しい男だった…」ってことと「テリー・キャス、凄いギタリストだったんだなあ」ってこと。それから加えて「ダニー・セラフィンってメチャクチャ上手いドラマーだな」ってこと。いろいろアップしたい映像があったのですが、やはり一番はデビューシングル④「Questions 67 and 68」の日本武道館でのライブ映像!
画像は良くありませんが、終始むさ苦しい髭面のピーターの熱唱&アップが堪能出来ます(笑)。なぜか曲の作者で、かついいハーモニーを聴かすロバート・ラムは殆ど映っていない。その代わりテリー・キャスの速弾きとか、ダニー・セラフィンのやたらと手数の多いフィルインとか、堪能出来ます。この日本語対訳も、語尾に「ヨ」とか「ネ」とか、カタカナをやたらと付けるセンスが微笑ましい。あとは何と言っても演奏を盛り上げる武道館での日本の観客の歓声がいい!イントロからのピーター・セテラの歌いだしと、素晴らしい間奏、テリー・キャスのギターソロからのピーターの歌い出し、それぞれに大歓声が…。その歓声を聴くと鳥肌が立ちます。

アルバムも濃密な内容で、特にA面1曲目の①「Introduction」から②「Does Anybody Really Know What Time It Is?」、③「Beginnings」、そしてB面の④「Questions 67 and 68」のトップ4曲の流れが圧巻。
ロバート・ラムが歌う②「Does Anybody Really Know What Time It Is?」はイントロから1分以上続く知的なピアノソロ…、そして変拍子が混じるブラスロックと難解な曲?…と思いきや、ヴォーカルが入るとブラスが心地いい軽快なポップス。ジャズを巧みに取り入れた知的な要素を散りばめつつ、非常に聴きやすい曲に仕上げているのがシカゴの魅力ですね。

それに続く③「Beginnings」はイントロのアコギのカッティングが爽やかなソフトロック系の楽曲。こちらもロバート・ラム作、ロバートのヴォーカル。
こちらはライブ映像をアップしておきます。熊みたいなテリー・キャスが優しい音色のカッティングを聴かせてくれるんですよね。それからピーター・セテラのハイトーン・コーラスも素敵です。でもこの曲の魅力は後半、徐々にグルーヴ感を醸しだしいく部分。ダニーのドラミング、メンバーを煽っている感じがいいですね。あとこの当時のステージング、ロバート・ラムを中心にメンバーが比較的横一列に見えます。通常ドラムがかなり奥に引っ込むのですが、ここでのダニーのドラムセット、結構前面に出てますよね。ホーン3本に、Key,G,B,Dsのスタイル、カッコいいです。

テリー・キャスの独壇場の⑦「Free Form Guitar」は曲というよりも、ギターで感情を表現した(曲ではなく)作品といった感じ。
これは明らかにジミ・ヘンドリックスからの影響大ですね。そのジミもテリーのギターを「俺より上手い」と評していたらしい。この曲を聴くと、それがよく分かります。この曲をテリーが実際に弾いている姿を見てみたい。

本作では唯一のカバーの⑨「I'm A Man」。ご存じスペンサー・デイヴィス・グループの作品。
イントロからピーターの黒っぽいベース、リズミカルなダニーのドラミングに重なるようにパーカッションが鳴り響く。ここでのリード・ヴォーカルはテリー・キャスとピーター・セテラ、ロバート・ラムが持ち回りで歌います。ホーン隊は全員パーカッションを担当。間奏のパーカッション隊のソロなんかも見事です。アップしたスタジオライブの映像もめちゃカッコいい!

日本ではシングルカットされた⑪「Someday(August29,1968)」、邦題「流血の日(1968年8月29日)」。
シカゴは反体制のバンドというイメージが強いのですが、この曲は反戦をモチーフに、その色彩が顕著。タイトルの日付はシカゴで行われた民主党党大会開催の日。この大会が大暴動へ発展してしまったことは有名な話。その時の音もコラージュで挟み込まれてます。この曲にもシカゴのセンスが発揮されてますね。

デビューからLP2枚組…、この流れはしばらく続きますが、当時はこうしたサウンドはブラス・ロック、ニュー・ロックと呼ばれていたジャンル。シカゴはその先頭を行く、革新的なバンドだったんですね。

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