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Rupert Holmes「Partners In Crime」(1979)

先日、Radikoで「山本さゆりのミュージックパーク」を聴いていたら、いい夫婦の日(11月22日)にちなんでルパート・ホームズの「エスケイプ」をオンエアされてました。その選曲に思わずニヤリ…。さすが音楽評論家だけあって、ちょっとシニカルな選曲。この歌詞をご存じの方はきっとそう思うでしょう(笑)

ってことで、ここしばらく、私の大好きなAORから遠ざかっていたこともあるので、今回はルパート・ホームズをチョイス。
ルパートは「エスケイプ」の大ヒット後、しばらくして得意のストーリーテラーを活かし、80年代にミュージカル界に転身。ブロードウェイ・ミュージカルの楽曲はもちろん、台本も手掛けるようになり、アメリカ演劇界でもっとも権威のあると云われているトニー賞まで受賞(しかも3部門受賞した最初の方)…、ミュージカル界でも大成した方なんです。

私は知らなかったのですが、彼は音楽業界における下積みも長く、パートリッジ・ファミリーにも曲を提供していたこともあるらしい。バーブラ・ストライザンドが、まだ無名だったルパートの楽曲を気に入り、彼の曲をチョイスしたことは有名ですが、彼が書く楽曲もいい曲が多いんですよね。ミュージカル界転身後も数曲楽曲提供しており、あのジェッツの名曲「You've Got It All」も彼が提供した楽曲でした。

前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する「Partners In Crime」は、彼の転機となった名盤。10篇の男女が織りなすショートストーリーそれぞれが、かなりユニークというか…。彼が小説を書くという道を選んだことが妙に納得する作品です。

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前作「Pursuit Of Happiness」がブレッカー・ブラザーズやスティーヴ・カーン、エリオット・ランドール等著名ミュージシャンが参加したアルバムだったのに対し、本作は当時のバンドメンバーを従えて制作されたもの。それだけにアルバム全体に統一感が生まれたような気がします。

あまりにも有名な①「Escape」。長年連れ添った奥さんに飽きた男性、ある日新聞に「ピニャ・コラーダが大好きで、雨に濡れることを気にしない人…、一緒に逃避行しましょう」という広告を目にして、思わず「私もピニャ・コラーダが大好き、一緒に逃避行しましょう」とメッセージを出します。そして密会することに…。でもそこに居たのは自分の奥さんだったという話。ブラックユーモア過ぎるなあ~。一応ハッピーエンドとなっている歌詞なんですけどね~。
ちなみにもともとはピニャ・コラーダという言葉ではなく、ハンフリー・ボガードだったらしい。でも逃避行→ビーチ→ピニャ・コラーダという連想から、急遽歌詞が変更。それが当たってしまったのだから分からないものです。タイトルもいつの間にかピニャ・コラーダ・ソングが後追いで付くことになりました。ルパート・ホームズ自身はピニャ・コラーダを飲んだことがないというのも笑えます。
この歌詞をどうやって歌っているのか、ルパートの容姿も見てほしく、ライブ映像をアップしてみました。ユニークな歌詞のところで観客が湧いてますね。

③「Nearsighted」、これを紹介する方は少ないかもしれません。でも私にとってはこれは名曲!タイトルもズバリ「近視」…ですね。本作ジャケのようにルパートは極度の近眼。ある日、眼鏡を取ったら素晴らしい世界が拡がっているように見えた…、それは人間を見るときも同じ。眼鏡を取って、その人を感じる。これは近視賛歌なんですね。当時ライブでもこの曲をやるときは、眼鏡をかけている人は取って聴いて下さいと言っていたらしい。あ、私も極度の近眼です(笑)。

④「Lunch Hour」は本作のコンセプトぴったりの楽曲。キャリアウーマンがお昼時、仕事をエスケイプして、メイクラブするというストーリー。ラテンフレーヴァーなアレンジなのは、歌詞がそういった系統のものだから。この曲なんかは、歌詞も理解した上で楽曲を聴くと面白いと思います。

名曲⑥「Him」。云わずと知れたルパート・ホームズの代表曲。これは男女2人ではなく、男2人に女1人が登場するストーリー。どっちを取るんだという話。コーラスはルパートの多重録音。このベースラインなんか面白いですよね。

⑦「Answering Machine」も詞を知らなければチョイスされないような隠れ名曲。楽曲はスティーリー・ダンとビリー・ジョエルを足して2で割ったような楽曲。ヴォーカルも気のせいかビリー・ジョエルにそっくり。楽曲の途中に電話のフォーンコールが聴こえますね。30秒の留守番電話にメッセージを残すことがテーマとなってますが、その年30秒ギリギリ、時間切れで肝心なことが言えないってところがユニーク。是非、歌詞チェックしてみて下さい。

本作は歌詞と共に楽曲を味わうと、非常に味わい深いアルバムになります。もちろん楽曲だけ聴いても名盤に違いないのですが。

ルパートは1983年以降はミュージカル界に本腰を入れ、以降90年代に1枚アルバムを発表しただけなんですよね(しかも日本のみの発売)。昨年のインタビューでは「最後に1枚くらい自分のアルバムを出すのも悪くない」と語ってますが、それが実現するのはいつになるのやら。
最後に彼が1986年にジェッツに提供した名曲「You've Got It All」をアップしておきます。


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