「コブラ効果」を検証【インセンティブのねじれ】

割引あり

コブラ効果について、命題を使って論理的に検証します。


コブラ効果

コブラ効果(cobra effect)という言葉は、経済学者のホルスト・シーベルトが イギリス統治時代のインドで起きた逸話に基づいて作った造語です。

インド、デリーにおいて、多くの毒蛇、特にコブラによる被害を脅威とみなした当時のイギリス政府インド総督府は、コブラの死体1匹につき報奨金をを出すことにしました。

当初、デリーの人々は報奨金のために多くのヘビが捕獲され、成功していた戦略でした。しかし、やがて人々は報奨金のためにコブラを養殖するようになりました。

このことがイギリス政府に知れ渡ると、報奨金制度は廃止されました。結果、養殖していたコブラが野に放たれ、野生のコブラの個体数はさらに増加しました。

定義

$${Cobra}$$: コブラ
$${Increase}$$: コブラの増加
$${Decrease}$$: コブラの減少
$${Breed}$$: コブラを養殖する行為
$${Capture}$$: コブラを捕獲する行為
$${Cost_B}$$: コブラを養殖するコスト
$${Cost_C}$$: コブラを捕獲するコスト
$${Reward}$$: 報奨金

イギリス政府の想定

1.命題「コブラの死骸を役所に持ち込めば報奨金を与える」

$$
Cobra ⇒ Reward
$$

イギリス政府は、コブラの死骸1匹につき報奨金を出すことにしました。

2.命題「コブラを捕獲するならば、コブラが減少する」

$$
Capture ⇒ Decrease
$$

人々がコブラを捕獲するならば、コブラの個体数は減少します。
人類が乱獲して絶滅した生物は数多く存在します。
この命題が真であることは、歴史が証明しています。

3.命題「報奨金が得られるならば、コブラを捕獲する」

$$
Cost_C < Reward ⇒ Capture
$$

そこで、イギリス政府はコブラを捕獲するコスト(時間と労働力)より高い報奨金を出せば、人々がコブラを捕まえて役所に持ち込むと考えました。
コブラの報奨金制度が無かったときはコブラの価値は0でしたが、報奨金制度が出来たことにより、人々は時間と労働力を使ってでもコブラを捕まえる動機ができます。

4.命題「コブラの死骸に報奨金をだすと、コブラが減少する」

$$
Reward ⇒ Decrease
$$

従って、「コブラの死骸に報奨金をだすと、コブラが減少する」というのがイギリス政府の想定でした。

しかし、コブラは増加した

1.命題「養殖コストが捕獲コストより低い場合、人々はコブラを養殖することを選択する」

$$
Cost_B < Cost_C ⇒ Breed
$$

コブラを養殖するコストがコブラを捕獲するコストよりも低い場合、人々はコブラを養殖することを選択します。
これは、イギリス政府の想定外だったのだと考えられます。「コブラの死骸を役所に持ち込めば報奨金を与える」と制度を設定だけで、「捕獲したコブラ」と条件付けがされていないからです。

2.命題「コブラを養殖するコストと報奨金の関係」

$$
Breed ⇒ Increase
$$

当然、コブラを養殖するならば、コブラの個体数は増加します。

コブラを養殖していると知ったイギリス政府は報奨金制度が廃止しました。つまり、コブラの死骸に対する報奨金はゼロ($${Reward=0}$$)となりました。

すると、人々は養殖していたコブラを野に放ち、結果的にコブラの個体数は増加しました。

3.命題「コブラの捕獲コストが捕獲コストより高く報奨金より低いとき、コブラは養殖により増加する」

$$
Cost_B < Cost_C < Reward ⇒ Increase
$$

人々には「より少ない時間と労働力の消費で、報奨金を得る」というインセンティブが働きます。

コブラの捕獲コストが養殖コストより高いならば、最大限の利益を得るために、人々はより少ないコストでできるコブラの養殖を選択することになります。

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