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毎日400字小説「間違えたわ」

 駅を降りて歩いていると、後ろから駆けてくる足音がして、邪魔にならないようなんとなく道端に寄ったら、パコンと軽いパンフレットのようなもので頭を叩かれ、見ると半年前まで付き合っていた亮太だった。「よーうっす」亮太は普通に言って、「なに、二限から?」「コンビに寄ってく?」「また昨日隣の部屋の奴がさ」など、付き合ってた頃と全く同じような話を全く同じような調子で続ける。私は戸惑いながらも、距離を意識して返した。「なんか今日変だな?」と、覗き込んでくる亮太。変なのはあんただ。私は胸の中で言う。それとももしかしてパラレルワールドってやつ? こっちの世界では、亮太は浮気もせず私が振られることもなかった? ハテナを抱えたまま、学校に着く。去り際、亮太は言った。「ごめん、間違えたわ」私は一人立ち尽くした。今さら戻りたいとは思わなかった。けれど、あのころが蘇って、きゅんとしていた。忘れたくなかった。新緑のにおいがしていた。

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