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沢登りとヤス穴

かつてマタギが寝泊まりに使用していた「ヤス穴」に行ってきた。

和賀岳の登山道を進み、途中道を逸れて藪をかき分けながら沢に降り、そこから上流に向かって登っていた先にそのヤス穴はある。
誘ってくれた友人から事前に「川を歩いていく」と聞かされていたが、実際は「歩く」なんて呑気なものではなく、いわゆる沢登りだった。

行く手には滝がいくつかあり、それらをクライミングしていく。滑らないように、一つひとつを慎重に選択し、でも力み過ぎずに体を運んでいく。久しぶりのハラハラするアクティビティだ。

最近、意識的に運動をするようになり、心身ともにいたって健康なのだが、何か足りてないような気がした。それが沢登りをして、スリルだと気付いた。

ヤス穴は源流近くから斜面を登ったところにあった。一見すると大きな岩だが、沢側に対してきれいにくり抜かれ、膝を抱えれば十数人くらいは雨露をしのいで休めるスペースがある。

お昼ごはんはここで取ることになり、カップラーメンをすすっていると雨も降ってきた。先人たちもここで腹を満たし、体を休ませていたという。もしかしたら、対岸を見張り、クマの姿を見つけて司令を出していたマタギもいるかもしれない。

きっとこの先、かつてのマタギのようにこのヤス穴を使う人はいないだろう。登山者がたまたま見つけるようなところでもないので、知っている人が受け継いでいかなければ、この空間は忘れ去られる。

忘れ去られても何も世間に影響はないんだろうけど、この場所を目指して冒険する人がいなくなってしまうのはすこし寂しい。
せっかく出合わせてもらったわけだし、道すがらの景色も美しいので、またスリル補給を兼ねて友人とともに遊びに行きたい。



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