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読書日記 『乳と卵』

川上未映子 作


【一行説明】東京に住む私の元にシングルマザーでホステスの姉巻子と姪の緑子が訪ねてきた蒸し暑い夏の三日間。

【趣旨】姉巻子は豊胸することに取りつかれ遥々大阪から東京の整形外科を訪ねに来る。一方思春期の娘、緑子は自分の身体が「女性」へと変わりゆくことを極端に厭う。やがて対照的なそれぞれの身体対する思いが交錯し衝突する。

【考察・感想】わたしの姉でありシングルマザーでホステスで巻子は、自分でも理由が分からないが豊胸をすることに執着し、はるばる大阪から外科医を訪ねに東京にやって来た。対照的に巻子の娘で私の姪にあたる緑子は、理由もなく「女は子どもを産むもの」という社会の当たり前のような風潮に反発し自分の身体の発達を拒んでいる。巻子は水商売という世界に生き、女性らしさを求められる象徴であり、女性らしさとはいわゆる身体的特徴が最たるものである。その為、まわりによって固められた”美しさの型”、”女性らしさ”というものに気づかぬうちに染められて、盲目的に追い求めている。

それに生理が来るってことは受精ができるってことでそれは妊娠ってことで、こんなふうに、食べたり考えたりする人間がふえるってことで、そのことを思うとなんで、と絶望的な、おおげさな気分になってしまう、ぜったいに子どもなんか生まないとわたしは思う。 緑子

日記にそう綴り、初潮を迎えて”女性”となることがめでたい事とする世の中の風潮に疑問を呈する緑子からは、身体的機能を持ち合わせた故に子供を産むことを期待される事は理不尽なことであるという筆者の思いを感じた。終盤の緑子が癇癪をおこし、卵を割り続ける場面での卵は緑子の身体の中の卵子を示し、緑子がそれを割ることで卵の主権は自分にあり産むも産まぬも周りが決めることでなく私の自由だ、そう訴えているように感じた。

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