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学習と教育心理学について

学習とは経験に基づく比較的永続的な「行動の変容」と言われます。それは、知的な部分だけでなく、社会的、技能的、態度的な部分も含まれます。例えば、スピーチが上手くなることも学習になります。また、学習は良い方向だけでなく、悪い方向に向かうこともあります。例えば、非行や犯罪といった反社会的行動や、引きこもりや不登校といった非社会的行動も学習に含まれます。しかし、薬物や疲労で一時的に行動が変化するものは、比較的永続的な現象ではありませんので、学習にはなりません。また、身体の成熟から生じる変化も学習にはなりません。これから、学習について説明をしていきます。

学習理論について


学習理論は大きく分けて連合説と認知説の2つがあり、それぞれについて説明します。

①連合説(S-R理論)

外界の刺激(S)と人や動物の反応(R)につながり(連合)ができることで学習が成立すると考えます。

・古典的条件付け(レスポデント条件付け)

特定の刺激がないと生じない行動を言います。これはパブロフによって犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことで、次第にベルの音を聞くだけで唾液を分泌するという条件反射の研究観察がもとになった理論です。

刺激と反応について

無条件反射
生体が本来持っている反応をといいます。例)犬が唾液を分泌する。

無条件刺激
無条件反射を起こす刺激です。例)犬に餌を食べさせる。

中性刺激
無条件反射を起こさない刺激をいいます。例)学習成立前の犬に音を聞かせる。

無関連反応
中性刺激によって起こる反応をいいます。例)犬が耳をそばだてる。

条件刺激
条件づけに用いる刺激です。例)犬に音、光を与える

条件反射
条件刺激によって生じる反応。例)犬が音を聞くと、唾液を出す。

 強化と消去について

強化:条件刺激を与えた直後に無条件刺激を与えることをいいます。
例)犬に音を聞かせると、犬に餌を食べさせる

消去:条件反射が成立した後、条件刺激のみを与えて無条件刺激を与えないことを繰り返すと、条件反応が起こらなくなることをいいます。

(例)犬が音を聞くと唾液を出す反応が成立したら、今度は音を聞かせるが餌を与えなくさせると、唾液を出さなくなる

・オペラント条件付け(道具的条件付け)

刺激がなくても自発的に生じる行動を言います。スキナーが提唱し、スキナー箱を用いて検証しました。スキナー箱とは、マウスが餌が出るレバーを押すように自発的に行動(operate)するようになることを観察する代表的な実験装置です。

この実験で、ネズミが箱の中に入れられ、箱の中にあるバーに触れると餌をもらえたことに気づき、バーを押す頻度が高まったと言うことがわかりました。学習をする行為(バーを押す)と報酬(餌)を与えることを生の強化といいます。また、何もしないときは電気ショックなどの罰が与えられる仕掛けにし、学習する行為(バーを押す)が生じると罰を与えないとしたら、行動をしようとすることを負の強化と言います。強化と消去を組み合わせることで複雑な行動を学習させることをシェイピングといい、これを個別指導学習に応用したものをプログラム学習と言います。

ソーンダイクの試行錯誤説
ソーンダイクは問題箱を使って実験をしました。

問題箱は箱の中の紐を引くと扉が開くようになっています。その中に猫(被験体)を入れ箱の外に餌を置く(刺激状況)。猫は餌をとろうとするが、とることはできません(誤反応)。しかし、何らかのきっかけで紐を引くと扉が開き(正反応)、餌をとることができます。餌をとるまでがひとつの試行であり、被験体は試行を繰り返すことで、誤反応が少なくなり正反応に達する時間が短くなります。これを試行錯誤学習と言います。つまり、学習が試行錯誤によって生じる考えを試行錯誤説といいます。

効果の法則
快感をもたらした反応は強化され、不快感をもたらした反応は弱まることを効果の法則と言います。

②認知説(S-S理論)


外界の刺激全体に対する人や動物の認知の変化が学習と考えることです。

(1)ケーラーの洞察説

学習は試行錯誤的に行われるのではなく、洞察によって行われることを主張しました。学習者はその洞察力によって、問題場面を構成している要素間の関係を見て取り、関係が把握されると即座に解に至ります。

(2)トールマンのサイン・ゲシュタルト説

認知を重視した学習理論を提唱。学習=刺激がサインとしてどんな意味を持つのかを認知しま す。目標と、それを導く手段との関係の認知が学習を仲介します。

 (3)レヴィンの場の理論

行動は人格と環境の相互作用によって決定されると提唱しました。

 B=f(P・E) 行動は人格と環境の関数

 B:行動(behavior)、P:人格(personality)、 E:環境(environment)

 動機付け(モチベーション)

動機付けとは、人が目的や目標に向かって行動を起こして達成までそれを持続させる力です。

動機付けに繋がる要因は主に、人の内部に沸き上がる欲求が要因となって行動を起こす動因と、外部からの要因によって行動を起こす誘因があります。

①外発的動機付け

外発的動機付けとは、強制や懲罰、評価、報酬などの外部からの要因によって動機付けられることです。職場環境や上司など外部から受ける要因がきっかけで行動を起こすのが特徴です。

②内発的動機付け

内発的動機付けとは、物事に興味や関心を持つことで意欲が沸き起こり、達成感や満足感、充実感を得たいという、人の内面的な要因によって動機付けられることです。人の内面で自発的に沸き起こる要因によって行動を起こし、持続することが特徴です。

内発的動機付けは、内発的に動機づけられた行為に対して、報酬を与えるなどの外発的動機づけを行うと、元々の興味や関心が低下する性質を持ちます。これをアンダーマイニング効果と言います。

③社会的動機付け

社会的動機付けとは、社会生活を通じて獲得させる動機付けを言い、以下に分類されます。

達成動機

ある優れた目標を立て、それを高い水準で達成しようとする動機です。

この特徴は、成功や失敗を自分の能力や努力に帰属させる傾向があります。

また、仕事仲間の選択では能力を優先します。

親和動機

他者と友好関係を確立し、それを維持したい動機です。

他者とのコミュニケーションが大野が特徴です。

また仕事仲間の選択では親しさが優先されます。

その他のトピック

ヤーキーズ・ドットソンの法則

課題の難易度によって動機付けの水準が異なると言う理論です。それによると、ある程度までは動機付けの強さに比例して成績が向上するが、最適水準を超えて動機付けが強くなりすぎると、かえって成績が低下すると言います。このことから、一般に、優しい課題は最適水準が高いので、強い動機付けが好成績を残すことが多いが、難しくない課題は逆に最適水準は低めで、あまり強くない動機付けが効果的だと言われます。

これは、ストレスは人を成長させる存在でもあるとも言えます。例えば、テストがなければ多くの学生は勉強をしようとはしません。テストがあるからこそ、学生は必死に勉強に励み、自らの能力を伸ばしていくことができるのです。しかし、このテストが難しすぎたり、理不尽な問題ばかりが出題されるようなものだと、やる気を失ったり、勉強しすぎて病気になることもあるのです。資格を取るための学習や受験勉強をするときは、初めのうちは難易度が低い薄いの参考書をこなし、それから本格的に取り組むといいでしょう。英単語を記憶する場合も、このような状態が当てはまるとされています。

学習曲線

学習曲線とは、学習の進行過程をグラフにした時に曲線を言います。

この曲線で特徴的なのは、初めはよく伸びるが、途中で伸び悩み、やがて急激な進歩を遂げると言うものであるます。途中の伸び悩みを、プラトー(高原現象)と言い、疲労や興味関心の低下、練習方法の変更、課題の難易度の上昇などが理由とされている。もし、自分が指導者となった時、生徒や部下がプラトーに直面した時は能力の限界と勘違いしてはならないことが重要です。

学習の転移

学習の転移とは、ある経験や学習が、そのあとの異なる学習に影響を与えることです。過去の経験や学習がそのあとの異なる学習に促進的に働くことを正の転移と言い、例えば、ピアノを学んだことのある人が、学んだことのない人に比べ、その他の楽器も容易に習得できるなどといった現象をいいます。その逆で妨害的に働くことを負の転移と言います。例えば、クラシックバレエを習った経験のある子どもは、ヒップホップダンスを上手に踊れるようになるまでに時間がかかるなどといった現象です。これは、学習の転移の以下の特徴が関係しています。

  • 前の学習と後の学習の間に同じ要素が多く、学習の材料や結果として現れる反応の類似性が高いほど正の転移が起こりやすい

  • 前の学習と後の学習の間に同じ要素が少なく、学習の材料や学習の結果として現れる反応の類似性が低いほど負の転移が起こりやすい、もしくは転移が起こらない」

学習の方法

全習法: 系列学習において学習課題を一まとめにして反復・学習する方法

分習法:学習課題を適当な部分に分割して部分単位で反復・学習する方法

一般に、学習者の実力が高い人や学習内容が少ない時は全習法で、その逆は分習法が良いとされています。

集中法:休憩事件を入れないで学習する方法

分散法:休憩時間を入れて学習する方法

長時間を有する学習は分散法が良いとされています。

ATI(適性処遇交互作用)
クロンバック
によって提唱されたものであり、性格や態度、能力などの学習者の特性によって、効果的な指導法が異なると言う考え方です。例えば、学習に自信があり、学力が高い人には発見的な学習方法が良いとされ、逆に基礎力が整っていない人は、懇切丁寧な指導者が主導となる方法がが望ましいとされます。

モデリング
モデリングとは、他者の行動や特性を観察することで学習をすることです。

記憶と忘却

(1)記憶とは何か

記憶とは過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出すことです。記憶の過程は記銘、保持、想起、忘却という流れになっています。

記名とは、経験されたことを覚えることです。
保持とは、記名された内容を保存することであります。
想起とは、記名された内容を思い出すことです。
忘却とは、記憶したことを想起できないことです。

(2)記憶の分類

感覚記憶
感覚記憶とは、目や耳などの感覚器で受け取った外界の情報を一時的に保持しておくための記憶です。

短期記憶
感覚記憶に残って注意をひいた情報は、短期記憶に保持されます。短期記憶とは、数分もしくは数十分くらい保たれる記憶です。

長期記憶
短期記憶にある情報のうち、その情報を何度も反復して想起することを通じて、脳内の長期貯蔵庫に送られる情報です。長期間に渡って保存されます。

(3)忘却曲線とレミニセンス
忘却曲線
エビングハウスが考案したものです。
記名した事柄が時間の経過とともに再生できなくなる現象をグラフとして表したものです。

このグラフのように、時間経過とともに、覚えた事柄は忘れていくのだが、条件によっては、記名直後より一定時間経過後が、よく覚えていることがあります。これをレミニセンスと言います。

(4)系列位置効果
例えば、東海道新幹線の東京駅から九州新幹線の鹿児島中央駅の間の駅名を順序よく記憶するように、多くの事柄が一定の順序で配列されている系列を学習することを系列学習と言います。
その系列学習において、一番最初の部分の成績がいいことを初頭効果と言い、一番最後の部分の記憶がいいことを親近効果と言います。それらをまとめて系列位置効果と言います。

思考について

(1)

再生的思考
過去の経験やその記憶を直接当てはめる思考です。

生産的思考
過去の経験やその記憶にない新しい方法を見出す思考です。

(2)

集中的思考
様々な可能性について考えたり、様々なアイディアを思いつく能力です。

集中的思考
与えられた課題のただ一つの正解に到達しようとする差異に働く思考です。

(3)

アルゴリズム
一定の順序に従って正解に至る思考です。ランダが提唱しました。

ヒューリスティック(発見法)
直感的に効率よく解を見出す手続きを言います。

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