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映画「花束みたいな恋をした」を見てきた。一般的な男を目指して。

「花束みたいな恋をした」を見てきました。普段は恋愛物語は見ないのですが、ラジオで宇多丸さんの映画批評を聞いて「面白そうだな」と思い、見てきました。劇中で劇的なことがあるわけではなく、ゆっくりした時間の流れを感じられる良い映画でした。

何か、軸となる出来事があるわけではなく(二人の恋が軸ですが、その恋に対しての障害として特別なことは起こらない。二人の出会いが特別といえば特別なのかもしれないですが)、山音麦と八谷絹の出会いから別れという瞬間を淡々と描いています。人生の中の一時期を始まりと、終わりで区切ってその瞬間を描いていく形の物語です。そこに、フィクションとして大きな事件はありません。恋をして、同棲して、就職に悩み、就職して、男性は夢を諦め、女性は自分が行いたいことを行い、そんななかに少しずつ二人はすれ違い、別れに至る。そんな物語です。

こだわりがあって、少しオタク的なところがある二人があるきっかけで(きっかけは押井守でした)、意気投合し恋に落ちる。奇跡のように趣味が合う二人。二人が紹介しあった作家さんは結構知ってました。私がよく本を読んでいたのは、作中時間よりさらに十年くらい前になりますが、舞城王太郎さんとか読んでました。私は海外文学とかも好きだったので、そこら辺の名前も出してほしかった。人を好きになる瞬間みたいのってこういうことなんだな、と思いました。私も二人に似ているところがあるなと思いましたが、私は全然好きなことを外に出さない。そんなわけで、自分の趣味を思い切り話して楽しむという経験はほぼないのですが、恋愛抜きにしても二人を羨ましいと感じました。大学生活までは二人はうまくいって過ごしていきます。

二人は同棲を始めるのですが、就職せず麦はイラストレーターのようなことをし、絹はバイトをしています。麦の実家からの仕送りもなくなり、麦は夢を諦め就職します。

男は夢を見て、女性がそれに翻弄される、もしくは現実を見ない男性と別れるという物語のパターンみたいなものがありますが、これは逆のような形です。男性は夢を諦め、いつしか自分の好きなものだったものを忘れていき現実を見、仕事に没頭する、逆に女性は昔のままで好きなものを好きでいて、同じように好きだったものを見ていた麦の心からそれを思う心がなくなっていくのを残念に思っている。象徴的なのは絹が書店で好きな作家が載っている雑誌を見つけ、麦に見せようと思ったら麦が自己啓発的な本を読んでいた場面です。

私自身は今でも小説とか好きです。ただ仕事で忙しく昔ほど読めなくはなっています。そんな状態が歯痒く、バイトで生活していた時のように一日中読んでいたいと思っています。麦は「ゴールデンカムイ」を途中で読むのをやめてしまいましたが、自分だったら漫画であれは読まなくなるってことはないと思います(内容がつまらなくなったら読まなくなってしまうかもしれませんが)。一般的な男性は麦のようになるものなのでしょうか? 絹がいたから、同棲していたから、というのがひとつの理由かなと思います。もちろん絹にとっては、そんなことは頼んでないでしょうし、昔の麦のままでいてほしいと思っていたでしょう。麦は世間一般的な男性のロールモデルを指向してしまった。男性が働き、女性を支えるというロールモデル。たぶん自分で意識して、目指したわけではなく、ごく自然に。そこには女性もまた、行いたいことがありそれを目指す個人であるという視点が抜けています。「自分と結婚して、絹は好きなことをすればいい」という台詞や、絹が転職しようとしているイベントの仕事を「遊び」という一言で片付けてしまうあたりにもそれを感じます。学生時代にそれなり本読んでいれば、柔軟な考え方が持てるのではないかなと思うですが、決してそうではないようです。

また自分と重ねて恐縮ですが、私はけっこういい歳して独り身です。何も支えるものなどありません。小説は読めてないですが、趣味で絵を描いたり、こうやって映画見たり、アニメ見たり、たまにゲームやったりと楽しんでいます(一人でより、誰かとの方が楽しめるとは思うので、自分の生き方が良いとは思ってはいませんが)。あと麦が働いた先が、上昇志向を持っている人たちの集まりのような会社だったのもよくなかったのかもしれません。たぶん、昔の麦だったら「社畜」とか言って偏見持っていただろう人たちです。学生時代だったらきっとお互いに友達にならない。自分はwebデザイナーで何かを作る仕事をしているからでしょうか、周りに映画やアニメが好きな人がたくさんいるのも良いのでしょう。夢を諦めた麦はステレオタイプのサラリーマンに見えなくもないです。

夢を見ている男性が劇中にてできますが、女性をなぐったり、自分が夢を追うために恋人を働かせています。夢を見続けることが良いとも描いていません。

そんな二人は別れようと思っていて、友人の結婚式の帰りファミレス(二人が恋人になった時のファミレスのようです)で別れを切り出そうとします。その場面で、結婚式を共に行った友人からのラインで写真が送られてきます。色々な過去の写真を見ます。長い恋愛なのですが、物語の中では断片しか描かれません。写真を見せることによって、二人の恋の長さに厚みが出てきて、上手い演出だと思いました。そのあとさらに演出は冴え渡り、昔二人が座り告白した席に、若いカップルが座り、まるで昔の二人のコピーのような行動取ります。一気に楽しかったあの頃を思い出させる演出。その時のことを思い、私の目にも涙が……。

物語の冒頭は別れた二人が偶然出会うところから始まるのですが、物語の最後はその場面の続きから始まり、終わっていきます。Googleマップで二人が映っている場面見つけるのは、物語序盤の演出と重ねていて上手い終わり方でした(麦は絹からのラインで送られてきていたのにパン屋が無くなったこと忘れてたけど)。

二人ともこの別れを経験した後に出会っていたら、別れず結婚していたかもしれません。なぜ大事なものを失わなくてはいけなかったかを知っているから。

二人は最初は同じ靴を履いてました。映像はそれを見せていきます。いつしか二人は同じ靴を履かなくなり、別れを予感させます(物語の途中の電車の中で、絹は白い靴を履いていて、麦は青い靴を履いていたので「もう別れるのか」と思いましたが、そうではなかったです)。最後のファミレスに出てきた、二人も同じ靴を履いていてそれも昔のことを思い出させる演出になってました。絹の好きなブロガーからの引用など、幸せの絶頂の時でさえ別れの予感を感じさせていました。

今の若い人をきちんと描いているも思います(自分は若くなく、近くに今年の新入社員くらいしか若い人は知らないから想像ですが)。皆優しいのでしょう。就職してからの麦は絹に対して、デートに付き合ってやっている感がありましたが、麦にとってはそれも優しさなのでしょう。絹にとってはいらない優しさだとしても。二人の人物造形は最大公約数的なものだなとも感じました。実際はもっと趣味の領域は狭く極端によっていそうな気もします。まあ、それじゃ違う映画になるけど……。

冒頭は2020年から始まります。しかし、マスクはしてません。撮っていた時は今(映画公開現在)のようにウィルス蔓延するとは思ってなかったのだと思います。このような何事もない日常の一瞬を切り取りドラマにしていく物語はあと数年は難しいかもしれませんね。ウィルスを心配して暮らしていかなくてはならない現代において、「何事もない」なんてことはないのだから。そう考えると、日本という国のまだ普通の生活とか、幸せがあると信じられていた時代の奇跡のような作品(そして最後の作品)にかもしれませんね。

恋人が死ぬとか、浮気するとかそういう場面がなく、優しく幸せな時間が映画には流れていました。

私は派手な動きのある映画が好きです。この映画を面白いかと言われると、面白いと言っていいのかわかりません。色々と考えさせてくれます。深読みすれば、この二人を別れさせるきっかけになった労働環境(日本のといっていいかもしれません)。色々と考えさせてくれる映画は良い映画です。落ち着いた、ゆったりとした時間に浸れるのも良いです。

そういえば麦の先輩の女性はなんて言ったのでしょう? 「今追わないと、もう会えないよ」と言って絹を追わせたのかな? それとも「私を好きになっても無駄だよ」とはっきり言ったのか。

二人が映像の中で、どんどん大人びていくのはすごかった。撮ったのは三ヶ月くらいだよね。特に絹役の有村架純さんは、心の中はそれほど変わってないだろうに、外見はすごく大人びていきますね。宇多丸さんのラジオで宇垣美里さんが「髪型が変わっていく」と言ってました。その点踏まえて見てたのに、あまりよくわからなかった……。

場面場面で何かを期待させたり、謎を作ったりして物語を引っ張ってません。だからこそ、別れている時代から始まるのでしょう(私はここから恋が始まるのかと思いました)。別れるという結末がわかった状態で、この二人はどんな時を過ごしこうなったかを興味を抱かせる。あとはもうただひたすらにこの二人に興味が持てるか、持てないか。持ってなかったら、退屈な映画だと思う。持てたら、「こんな最高なカップルがなんで別れたんだろう」、あと麦に対して「そんなこと言っちゃダメだよ」とか思う気持ちで見ます。それに対して、絹がどう思うか。

モノローグが多い映画でした。冒頭からけっこう長くモノローグが流れるので「小説みたいだな」と思いました。


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