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映画「最後の決闘裁判」を見てきた。映像は客観的なのに受ける印象の違い。

映画「最後の決闘裁判」を見てきました。難しい映画でした。三章構成で、騎士である(最初は従騎士)「ジャン・ド・カルージユ」を主とした章、元友人であり最後にジャンと決闘裁判を行うことになる「ジャック・ル・グリ」を主とした章、ジャンの妻であり決闘裁判のきっかけとなった事件の当事者(ジャックに強姦される)「マルグリット」を主とした章。「各章で言っていることが違くなって、誰が真実言っているかわからないというパターン映画かな(羅生門のような)」と思いきや、違いました。各々の章のカメラは客観的であり、登場人物たちの言動や行動に差異はありません(言動がちょっと違ったような気もしましたが、大きな違いはなかったはず。ジャックの視点だと妻に優しい場面も、マルグリットと視点だと冷たく描かれたようなところもあった気がする。他の人の感想見たら、少し違うらしい。全部行動が同じでありながら、印象が違うだったらなお良かったな)。犯罪を犯したジャックの章でも、やはり犯罪を犯しています(私から見たら、ジャックがマルグリットを襲っている場面は両方の視点とも強姦に見えたのですが、ジャック視点の場合はどうやら違うらしい。一次ソースでなく、誰かの感想からなのでもしかしたら違うかもしれないけど、ジャック視点のは強姦であるようには撮ってないらしい。いや襲っているようにしか見えなかったけど……)。誰が真実を言っているかわからないパターンなら、ここで彼は犯罪を犯さないだろうはずです。ただ、写し取られている場面は違います。その違いだけで、彼らの視点、何を考えながら生きているかを浮かび上がらせます。

ジャンの視点では、自分が英雄的行動をとっているように描かれます。彼の言動と、彼が活躍している場面を映しているので、見ている人そう見ますよね。友だったジャンと、ジャックが互いの中に溝が描かれていることを中心に描いてます。自分が得るはずだった、妻の領地の一部や父から受け継ぐはずだった長官の地位がジャックに奪われていきます。そして、妻がジャックにより強姦されるのです。そのことを知ったジャンは決闘裁判で真実を潔白することを妻に語ります。妻のために献身的に上訴などしていくのです。これだけ見ると「妻のために頑張っているな」と思うのですが、マルグリットの章を見て思い返してみると、ジャックへの個人的な恨みと、騎士としての名誉のために動いているだけで、妻のために動いるわけではないと思ってしまいます。

ジャックの章で見えくるのは、彼は序盤はジャンとの友情を壊さないように行動しているということです。ジャックは伯爵であるピエール二世(王の親戚。権力ある)と仲が良いのですが、彼との会話の中で、ジャンの英雄的行動が対局的に見たらむしろ失策であったこと、ジャンはジャックを守ったと言っているが、そもそも戦いの中で無駄に飛びたしたジャン死なさないために、無駄とわかりながらジャックは戦っていたこと。土地や長官の地位を得たのも、決して自分が求めたわけでなくピエールから与えられ仕方なく得たこと。ジャックはシャンのの頼みに応じて、地代の徴収をシャンだけには甘くしていたこと。女てらしであることも描かれはしますが。彼がマルグリットに恋したことは、本当のようです。心が離れてしまったことは仕方ないとして、ジャンは会えば自分勝手にジャックは責めます(一時的な和解はしますが)。マルグリットを襲ったのも、ジャンへの当てつけの気持ちもあったのだと思います(だからといって、襲っていいわけではありませんが)。教会で告白すれば、罪の意識が消えるのはどうなんでしょう。なんとも自分勝手な(ジャックも自分勝手で都合がいい男であることは、ジャンと変わらないような気がしてきました)。

マルグリットの章では、子供を産めない悩み。義母との確執(そんなに深くはありませんが)。ジャックへの印象を語ったりします(美貌は認めていますが、そんなに気に入っているわけではなさそうです。これが、ジャックの章だと知的な会話をしている場面だけを抜粋しているので、マルグリットが少しはジャックのことを気に入っているように描かれます)。訴えることが決まったあとは、同性である義母から訴えることをみっともないことのように言われ、友人からも疑念の目で見られます。裁判が始まれば、およそ女性として酷いことを言われます(当時は女性は男性の付属物という扱いだったとはいえ、ひどい)。考えさせられます。男性優位社会が浮かび上がってきます(現代的なテーマはここにあるのでしょう)。そして、決闘裁判に負ければ女性は罪を認めて恥ずかしいともいえる刑に処せられます。こんなことなら、黙っていれば良かったとマルグリットに言わせます。このセリフから、ジャンが決して妻のために決闘裁判を起こしたわけでないとわかります。女性に黙っていれば良かったと、言わせてしまう社会、ここには現代への批判もありますね。テーマはここだと思いますが、14世紀の話です。マルグリットが具体的に何かできるわけではありません(「プロミンシング・ヤングウーマン」みたいに)。男である、夫に勝ってもらうことを願うしかないです。新しい社会の方向性までは見せていません。中世と変わらない、現状の女性の問題を浮かび上がらせているだけです。男性の名誉のくだらなさも、浮かび上がってきますね。「黙っていれば良かった」と言わせる社会は良くないですが、そう言ったマルグリットは名誉より、生きること、子供とともに生きることが大事だと考えていることも読み取れます。名誉など気にしてません。

決闘はジャンの野勝利に終わります。勝利するジャンとマルグリットの抱き合う場面。決して、マルグリットは喜んでいようには見えません。凱旋の時も。肉弾戦はいいですね。泥臭い戦いとなりますが、ドキドキしながら見ちゃいました。

羅生門のように登場人物の台詞が変わることはありません。なので、映っている場面は全て真実と考えていいでしょう。各章の登場人物たちが見ている場面を客観的に切り取ったとき、同じことを扱っているはずなのに、それぞれの登場人物の印象がまるで違うという、不思議な体験をしました(ある意味、羅生門はわかりやすい)。面白いといえば、面白いのですが、技巧的にすごいなと思ってしまいました。だって、誰一人嘘をついてないのに、全く見ている世界が違うんですよ。現実でも、同じところにいても人によってどれだけ見ている世界が違うんだ、と考えちゃいますね。

物語は視点人物にとって、印象に残った時代の一場面を映す形で展開していきます。なので、場面が変われば年が飛んでいることもあります。

女性についてがテーマだと思いますが、それ以上にこの映像的技巧を再現したかったのではないでしょうか? こっちの方がテーマとしては大きいかも。マルグリットのことは以外のジャンとジャックの関係も立場が違えば、相当違いますからね。ジャックはジャンとの友情を維持しようとしていたのに、ジャンがらそれに気づきもしないのは少しジャックがら可哀想でもある。マルグリットに対しての行為は許せませんが、その代償として物語の最後では報いを受けますね。


この動画見たら、マルグリットの視点からジャンはまるで仕事ができない(25:00あたりから)と言っていて、確かにそうだと思った。

たまったシネマイレージカードのマイルを使って、ポップコーンを買ったのだが、盛大にこぼした……。


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