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映画「ナイトメア・アリー」をディズニープラスで見ました。何が面白いのか考える。

映画「ナイトメア・アリー」を見ました。大変面白く、ほぼ退屈することもなく楽しく視聴しました。
しかし、私はどこにそんなに魅力を感じたのでしょうか?
主人公であるスタントン・カーライルにそれほど魅力があるとも思えないですし、彼は何か目的があって動いているというよりはその場その場の判断で動いています。私は物語はある程度先が見えていた方が良いとは思うのですが、この作品からは先がどうなるかあまり見えてきません。後半で、スタントンが不幸になるだろう予感が何度も示唆され、そこから俄然面白くなるのですが、少なくともそれまではどこに向かっている映画なのかわかりませんでした。それでも、何で面白く感じたのか物語を追いながら、考えたいと思います。

物語はスタントンが家ごと人を焼く場面から始まります。
冒頭ですからどういう物語でいく映画なのか全くわかりません。ただ印象的な場面から始まるわけですから「主人公は何でこんなことしたんだ?」と思います。その謎が解かれることを期待し、私は映像を見続けます。
スタントンはカーニバルに入ります。そこに着くまでの演出が幻想的でしたので(スタントンがバスで寝ている場面を映し、窓から見える景色が急に観覧車があるカーニバルに変わる)。バスから降りスタントンはカーニバルの芸人(背が小さい)を追いカーニバルに入ります。
カーニバルの場面は、観覧車やメリーゴーランド、舞台に乗って踊る芸人たち、映像として魅惑的で見ていて楽しいです。主人公の目的がどうとかとは違う「何かありそうな予感」がして、どうなるか見てしまいます。この時点でも主人公がどういう人間かわかりません(というか最後にスタントンが殺したのは父親とわかりますが、理由までは語られません。予測するのみです。)。スタントンはカーニバルの出し物である「獣人」が逃げた際、見つけそれをきっかけでカーニバルで働くことになります(カーニバルにいた女性モリーにも興味を持ったようでもあります)。
カーニバルは移動し、近くの家の風呂を借りる場面。そこの女主人ジーナの足を写し、意味ありげに動かす場面は「何かありそう」感じさせます。この「何かありそうな」演出で冒頭から20分くらい見せていますね。
カーニバルではジーナを手伝う場面。モリーとも普通に話せていて、時間経過を感じさせます。スタントンがカーニバルで過ごす場面を削っていますね。無駄な場面を削って、飽きさせないようにしているのでしょう。スタントンを雇ってくれたクリムとどうなっているのか説明もしません。うまいですね。削らなかったこの場面ではジーナの芸は失敗しそうになり、見ていて飽きさせませんね。この失敗の場面(失敗はせずどうにか切り抜けます)が物語の後半に生きてきます。必要な場面のみ描いているんですね。
唯一退屈に感じたのは上記の場面のあとの、ジーナの家でのスタントン、ジーナ、ピート(ジーナの同居人の男性)の会話の場面です。ピートがスタントンに読唇術を享受する大切な場面ですが、落ち着いていてハラハラするような気配もないので退屈に感じました。スタントンが何かやりたいことが示唆されていて、それが読唇術を知ったこと上述されるだろう予感でもあれば退屈しなかったかもしれませんが、相変わらずスタントンが何を行いたいのか示唆されません(おそらくこの時点ではスタントンに何かやりたいことなどなかったのでしょう)。
この後は、スタントンがピートに「芸を教えてくれ」と頼み、モリーとの逢瀬を描き、獣人の死、ピートの死、と印象的な場面が続き飽きさせません。カーニバルを閉鎖しようと保安官がやってきますが、スタントンはピートに教わった読唇術で切り抜けます。これを機に自分能力に自信を持ったのか、スタントンはモリーを誘い、街へと行きます。別れはスタントンがジーナと話す場面くらい。ここまで一時間くらい。
ここまであまり、スタントンが何を求めているのかわかりませんでしたね。「酒は絶対飲まない」というセリフからお酒に対して嫌悪があるようには見えました。最後まで見て、特定の目標があるわけでなくただ上昇志向があるだけの人間だったとわかります(上昇志向というより、ただお金が欲しいだけかもしれません)。

その2年後から物語は続きます。一瞬の回想で冒頭で殺したのはスタントンの父と分かります。「何で殺したのかわかるかな」と期待できますね。
スタントンのショーの場面。モリーが手伝っているのですが、失敗したようです。それを責める、スタントンの言葉は険がありあまり両者がうまくいっていないことが予想され、先の展開が見たくなりますね(物語は両者の関係性について描く方向を主として展開はされないですが)。スタントンのショーへの女(リリス・リッター博士)の邪魔、そして以前のジーナのように幽霊がいるかのように演出してスタントンはジーナの邪魔によって疑いを持たれたことを払拭します。この行為がスタントンを破滅へと導くことになっていきます。以前のジーナは幽霊は実在しないと客に伝えましたが、スタントンは幽霊がいることにして、その幽霊と会いたい人からお金をとっていくことになります。やってはいけないことをやっているのを見ていくのはハラハラしますね。
モリーは、スタントンが見えないところで電話をかけようとして(浮気とかではなかったです)、両者の心のすれ違いが垣間見えます。
スタントンは、リリスに会いに行きます。心理学者であるリリスと共謀して、一山当てたいようです(モリーに対しても口説く時「こんなところにいる人ではない」と言っていたし、スタントンは詐欺師の気がありますね)。この場面で、時代が第二次世界大戦開戦少し前あたりとわかります。。ここでスタントンは「この世で大事なのは金だけだ」と言ってますね。スタントンのお金への執着が見えてきます。リリスのスタントンへの心理分析と引き換えに、スタントンはリリスから情報を得ます。この心理分析からスタントンの過去が見えてきますね。リリスの優秀さも見えてきますね。スタントンの父親へのコンプレックスが感じられます。お金への執着も、父が母と離婚して貧しく過ごしたからでしょう。
この後、昔のカーニバルの仲間が来ます(ジーナのうさぎが廊下にいる場面は少し不気味ですね)。ジーナのタロットから不幸な未来が見えてきます。ここから破滅の未来が見えてきて、面白くなりますね。
スタントンが向かっている先は分かりません(破滅に向かうであろう行動に至る理由はわかります。お金や名誉という欲望です)が、彼の未来の方向性は見えてきます。その未来に対する緊張感で続きをら見たいと思っていきます。映画の登場人物の明確な行動を示唆するであろう予感がなくても、向かっている先のぼんやりとした未来(破滅とかマイナスの要素の方がハラハラするので、視聴者を夢中にさせますね)あり、それに対する人物の行動に明確な理由(違和感を感じさせない)がなあれば、作品を楽しく私は見られるようです。
最初の降霊詐欺は成功し、彼は次の依頼も受けます。リリスからその依頼者と関わると命取りにならと言われます。こんなこと言われると、緊張感高まりますね。ここまで約1時間30分。
次の依頼者エズラは嘘発見器を使うほど人を信じてない。どうにか懐に飛び込みます。
この後、リリスからエズラの情報を得ようとしますが、リリスの口からは教えらず、スタントンはリリスの持っている患者(エズラ)の診察の録音を盗むために鍵を複製します。この場面って、あまりにあからさまに鍵があるので、わざと情報を盗ませているのではと思いました。リリスの目的はわからないのですが。
リリスは「権力者を怒らせると報いを受ける」と言いながら、スタントンに傷を見せます。誰がそんなことしたのか説明はありません。
スタントンはモリーに、エズラが会いたがっている女性の役をやらせようとします。その頼みの前に、スタントンとリリスの会話から何をしようとしてあるのかわかるのがいいですね。その場面で、スタントンは酒を飲みます。破滅の未来を予感させますね。モリーは反対します。モリーはスタントンと別れようとしますが、スタントンは捕まえてその役を行わせます。しかし、失敗。スタントンはエズラを殺し、付き人も殺してしまいます。そんなスタントンを見たモリーは離れ、スタントンはリリスの家に。
リリスに預けていたお金を持ってリリスの家から出ようしたスタントンに、リリスは「愛しているはスタン」と言います。スタントンはその言葉から何かに気づいたようで、リリスに理由を問います。リリスは拳銃でスタントンの耳を撃ち抜かれ、スタントンはリリスを襲います。しかし、警備員が来たので逃走。
回想でスタントンは父を憎んでおり、父を殺したであろうこともわかります。
酒代欲しさに父の形見も渡してしまいます。時計は父のようにならないための戒の象徴だったのだと思います。父からの枷が外れたことによって、上昇志向なども消えてしまったのかもしれませんね。スタントンの行動原理は「父のようにならない」ことだったのでしょう(だから酒も呑まなかった。スタントンの父が酒で身を崩したという描写はなかった気もしますが)。
ラストは以前クレムから聞いた人間を獣人とするやり方通りに、スタントンは動き獣人になることを示唆して終わります。劇中の破滅の象徴のような存在になることを示唆して終わるのはうまいですね。

いまいちスタントンがリリスに裏切り気づいた理由がわかりませんでした。
リリスが言った「愛している」という言葉は、スタントンに何を気づかせたのでしょうか? 「愛している」という言葉に対して、何か気づいたわけでなく、彼はその言葉によって引き止められたと思った(希望を持って)、しかし続けて「やりすぎた」(この言葉は愛していると言ったのは言い過ぎだったという意味だと思う)というリリスの言葉と行動の異変、そこからスタントンはリリスのに疑いを持った、と私は考えました。「恋人とお母さんへの想いを私に向けている」というリリスの言葉が、リリスの異変に気づく前のスタントンの心情なのでしょう。
でも、スタントンの「今、何て言った」は厳しい感じだったので、読唇術を散々やってきたスタントンにとってはその言葉に「相手を騙そうとている気配を感じたのかもしれません」。
この面白く見られましたが、この場面がなく終わっていたら「面白かった」で終わる作品になっていたと思います。考えさせる場面を入れると、作品の印象が残りますね。
リリスがなぜ、スタントンを騙したのかこの理由も語られません。リリスは胸に傷を負っていました。この傷はエズラがつけたもので、リリスは復讐にスタントンを利用したのでしょうか? これも考えさせますね。
物語のテーマは「狐と狸の化かし合い」を描くことだったのかな。調子にのると身の破滅が起こるというのもテーマかな。同じような詐欺師でも、上には上がいるということ。
ファム・ファタールを描く?
最後のどんでん返しを描きたかったのかな?
物語にはテーマは大切だと思っていたけど、「狐と狸の化かし合い」とか「最後のどんでん返し」とか、こういう作劇の見せ方がテーマになっていると印象は薄くなるね。
親(特に父)への複雑な感情がテーマなのかな。そこに主眼を置くと、色々考えさせるな。最後まで、父の時計をつけていたということは、殺してもなお父への想いを断ち切れていなかったということだと思うし。それを無くした時、しかし同時に世に対する希望も失っているようにも描かれている。何かに対する執着や、呪いというのは、人が生きるために必要なこと。呪いは希望と表裏一体ということを描きたかったのだろうか。

主人公や他の主要人物に強い特徴がなく、人物が引っ張っていくタイプの物語ではありません。主人公に対してどの時点で応援したくなるのか、その人物のことを考えて行動が楽しみになるのか、その瞬間を見極めようとして見ているのですが、この映画の主人公に対しては最後までそういう気持ちになりませんでした。そういう物語がなぜ面白いのか考えるのは実に難しい。主人公に魅力があれば、その主人公がどう行動するかの予感を考えているだけで(もちろん周囲の情報がないと、主人公の魅力がどう出来事に対して反応するかわかりませんが)面白いのですが。その作品の面白さが人物にないなら、映像(カーニバルの印象的な映像)から予感を感じさせ、演出(ジーナの足とか。あとジーナのタロットも)からも何かあると予感を感じさせ、エズラのようにそれに対すると危険が起こるだろうという存在から、何かあると予感させる(これは人物の魅力とはまた別。魅力ある人物がこういう存在になることもあるけれど、エズラはただの役割という感じである)など、ありとあらゆる演出で見ている人を惹きつけないといけない。それを考えると逐一物語の場面を書かないといけず、長くなってしまった。

主人公にそれほど魅力を感じませんでした。それなりに安定した存在でもありましたし、何かやらかす予感も感じさせません。不幸の予感はジーナのタロットやスタントンがお酒を飲む場面、エズラの疑り深さなど外部から感じさせるものです。本性を見せたリリスには魅力を感じましたが、本性を見せたのは物語の終わりですし。演技のことはわかりませんが、役者の演技良かったので映画の人物として魅力的でなくても見られたのかもしれません。
ここまで人物の魅力で引っ張らない、かつ面白い作品はあまり記憶にないです。ただ、見終わった後主人公の印象が残らないのは、作品としての印象も現じてしまいますね。
テーマに対して上述しましたが、心に残るような強いものはなかったかな。原作は1946年のものなんですね。日本だと今年公開の作品ではありますが(アメリカだと去年)、現在生きている私に何か考えさせるということもなかった。と思ったけど、よく考えて「呪いは希望と表裏一体」というテーマを見出したら、考えさせられた。扱っている時代が古いから、印象として現在性を感じさせないのかな? 前回見た「リコリス・ピザ」はそんなふうに思わなかったから違うか(こちらは映画館で見たからかもしれないけれど)。

とても良質なサスペンスですごく面白い作品でした。ラストのリリスの裏切りもびっくりしましたしね。優れた娯楽作品です。

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