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映画「その男、凶暴につき」をDVDで見ました。ひどい男だ。

ホームレスを襲う少年たち。衝撃な始まり方ですね。一方、過激さが足りないななんて、少し思ってしまいました。そういうのが好きというわけではなく、派手な映画だともっと劇的、派手に映すじゃないですか。そういう感じではないです。派手なものにはある爽快感とかは、皆無です。この映画の描写の方がリアルなのかもしれません。この少年の中のひとりの家に乗り込んで、少年に暴行を加えながら自首進める刑事がこの物語の主人公、我妻です。

物語は、麻薬が絡んだ殺人を追ううちに、警察内部で麻薬を横流しをおこなっいる人物がわかり、その男(岩城)は我妻と親しくしていました。岩城は自殺をしましたが、我妻は捜査を続き、殺人犯清弘に行きつきます。我妻と清弘の決闘までを描きます。

物語はこのような形ですが、物語で語る映画ではなく、その物語の中で表出する画を見せる映画なのかなと思います(自分の考えとしては、全ての映画はそういうものだと考えていますが。物語が生み出す運動が、映画にしても小説にしても主なのではないかと考えます。物語がどうでもいいというわけではないですが)。

見せたいのは「暴力」ですよね。衝撃的な始まり方でした。それに続く場面でも、川を走る船に向けて小学生が缶を投げつけています。最初の少年たちの暴力、すぐさまこの小学生の場面。この映画の空間では、こういうことが日常的に起こることだと表しています。最初の場面だけだったら、主人公の暴力性を見せるための場面と思わせるだけで、終わっていたかもしれません。似たような場面を映画の冒頭で続けることで、この映画の方向性を示しています。連続で行う発想が凄いなと思いました。

映画は我妻と清弘を通して、暴力を見せて行きます。一方はまだ常識の範疇に止まっている人間の暴力であり、もう一方はそれを踏み外してしまっている暴力です。我妻の暴力性は、刑事としての仕事であれば頼もしくも感じさせます。同行する、新人刑事の菊池は犯人を追っているときも決まり事をきちんと守ろうとします。それがあたりまえだし、実際は守ってもらわないと困るのですが、映画としては我妻の暴力性は魅力的に感じます。犯人を走って追っている時も、それなり懸命です。一方、清弘は簡単に人を殺します。残酷な殺しの場面は、麻薬の売人をビルに落とす時くらいしか描写されませんが、他の人間の語りから、残酷さがわかります。こちらはただ殺しが好きなような人物で魅力的ではないです(魅力に感じる人もいると思いますが)。私には怖さの方が、先に感じます。

しかし我妻は清弘を相手にしていくうちに、その暴力性は清弘と類似したものになっていきます。我妻には知的障害者の妹がいました。我妻との対立したことで、清弘に拉致され、清弘の子分に乱暴され、無理矢理薬を打たれます。我妻は妹を大切にしていたはずですが、清弘を殺した後、薬を欲しさに清弘の死体にまとわりつく、妹を銃で撃ちます。殺人を犯した自分が妹を世話して生きていくことはできず、妹がまともに生きられないという可能性があるから殺したという解釈もできますが、自分はただその妹の行動に醜さを覚え殺したのだと思います。しかし、刑事であった我妻であればたとえそう思っても殺さなかったとも思います。我妻は清弘を通して、「暴力」に感化されたのだと思います。

暴力性をもった街が、暴力を是とする刑事をうみ、その刑事もまたより強い暴力に感化されていく。暴力の連鎖を描いた物語でした。ラストでは、殺された岩城が受け持っていた、麻薬の横流しを我妻と行動をともにしていた新人刑事の菊池が引き継ぐかたちを見せ、終わります。犯罪は引き継がれ、終わることがないことが示唆されます。

北野武監督の好きなところは、映像で経過を見せているのに結果を見せず(正確には結果は見せているかな。経過と結果をつなぐ場面をなくしている感じ)、それがすでに起こったこととして次の場面に進むところです。何かの本で、数学に例えて因数分解と監督が呼んでいたような気がします。

暴力とかはあるんですよ。でもすごく静かな印象の映画なんですよね。ほとんどアップがなく(バストショットくらいはあるけど)、引きの映像が多いからでしょうか。それがとても心地よい。覚えているアップは我妻の妹が病院から退院後、タクシーの乗っている場面の時の妹(ここだけふっと映画内の人物の視点になったので驚いた記憶があります)と、ラスト清弘を打つ時の我妻の顔です。妹を撃つときは確か、表情は映像で見せてなかった(撃つ前はアップがありましたね)。

妹が清弘の体をまさぐっている場面を見せたあと、妹を撃つ瞬間の我妻の顔のアップ、我妻が何を考えているのか視聴者に考えさせます。こういう場面に「運動」が生まれるのではないでしょうか。この行為を「あなたならどう考える」と問いかけています。違うとは思いますが、この問いかけを作るためだけに、それまでの物語があったと考えることも可能ですし、そのように物語を作ってもいいと思います。売れるか、売れないか、面白いか、面白くないかは別にして、物語はある限られた形式だけで作れると考えています。この最後の問いかけだけのために、それまでは類型的な物語でもいいのかもしれない、と思いました(この作品が類型的と言っているわけではありません)。

上述した「因数分解」で、盛り上がるところを省いてしまっていると感じるところもあります。もちろんわざとであり、この映画にはそういうものは必要ないと監督は考えたのだと思います。暴力の場面には惹きつける力がありますね。自分の知らない世界、人間が見れる興味が強かったのでしょうか、面白くみれました。映像は目を背けたくなる場面もありますが心地よく、考させられる良い映画でした。


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