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映画「ニア・ダーク/月夜の出来事」をU-NEXTで見ました。感情移入とはこういう気持ちのことかもしれない。

映画「ニア・ダーク/月夜の出来事」を見ました。いわゆるヴァンパイアものです。しかし、ヴァンパイアについて説明がありません(一番初めの場面で主人公の男性ケイリブが蚊のことを「吸血鬼」と呼ぶ以外は)。ケイリブはメイという女性のヴァンパイアに噛まれて、ヴァンパイアになってしまい、メイの仲間に連れていかれるわけですが、彼らのことを「ヴァンパイア」と呼称する場面はないです。説明がほぼないまま、物語は進みます(血を吸わずに噛まれると、ヴァンパイアになる、ということだけ台詞で説明があった)。陽光にあたると身体に害を及ぼす、血を吸わないと生きていけないということは、言葉では説明がありませんが、映像を見ているとわかるようになっていました。映像で見せて説明する。映像作品として素晴らしいですね(といっても、映像なので「血をどのくらい吸えば腹が満たされるのか」厳密なところまでは分かりませんが)。そして、この説明がないというところが「これが感情移入か」と思った所以です。

例えば映画を見ていて毎回「感情移入」ということをしますか? 「感情移入」ができないから作品がつまらなかったという感想をみたります。私はあまり「感情移入」という感覚があまりわかりません。言葉を文字通り取れば、視聴者たる「私」が作中人物と一体となり、作中人物の感情を自分のものとして捉えるということでしょうか。実際は完全に一致するということでなく、それに近い感覚ということなのだと思いますが、私はそのような感覚になったことはないと思います。第三者として、映像に映る人物たちを応援する形で鑑賞していることが多いです(私がそのようにして見る映画、いわゆる大作エンターテイメント作品を主に見ていることも影響していると思いますが)。その作中人物と一体になるような感覚は持ちません。「感情移入」とは何だろう? と常にではないですが、思いながら鑑賞しています。しかしながら、そういう作品にはいままで出会わなかったような気がします。しかし、この「ニア・ダーク」で、それに近い感覚を覚えました。覚えたのは作品の前半と後半あたりです。

ケイリブはナンパしたメイという女性に噛まれヴァンパイアになります(メイは、夜中のデートでそれほど積極的にケレイブを噛もうとしていなかったです。しかしデートの最後に噛んでしまったのは、空腹に耐えられなかったのか、それともキスして興奮してしまったのか、ここら辺は想像に任されます。ここで説明を入れるかは難しいところですね。説明しないとわからないとは思うけど、説明しない方がスマートですね)。メイが逃げてしまったので、ケイリブはわけがわからないまま、一人残されます。家に戻ろうとするも、日にあたり身体は焼け(身体から煙が出ます。目で見て、わかりやすい演出ですね)思うように動きません。そしてどこからか来た車に連れ去られます。メイを含むヴァンパイア軍団(メイの他に、若い男、男の子、中年の男女がいました)に連れ去られます。その車中で、「噛むと仲間になる」「何年も生きている」など断片的な情報は与えられますが、ヴァンパイアという言葉は出てきません。見ている私としては、ヴァンパイアの映画という事前情報と、今まで描写で見てきたもので、「ケイリブはヴァンパイアになったため苦しんでいるのだろう」とはわかるのですが、きちんとした情報を与えられないので、「ヴァンパイアでは、もしかしたらないのか?」という可能性も捨てきれません。要するに、主人公ケイリブが与えられている情報と、視聴者の自分が与えられている情報がほぼ同じなのです。ケイリブが思っているだろう「いったい私はどうなってしまうのか」という感情と、彼は「いったいどうなっているんだ?」という私の感情。その感情の同期感覚が「これが感情移入では」と私に思わせました。その感覚は、ケイリブがヴァンパイア軍団からいったん離れ、町を彷徨している時まで続きます。

結局、ケイリブはヴァンパイア軍団の元に戻ります。メイがケイリブに対して、血を吸わせる場面が出てきます。この映像で、「これはヴァンパイア確定だな」と自分は思ってしまったのかもしれません。これ以後、ケイリブがヴァンパイアとして生きようとすることを選んだ映像が流れたからかもしれません、上述した同期感覚はなくなりました。

食事として人間の血を啜ることができるかをケイリブはテストされますが、人を殺めて血を吸うことができません。もう一度、今度は色々お膳立て(小さい酒屋を襲う)してもらいますが、やはりできません。そのあと警官に襲われ、ケイリブの活躍で逃走に成功。ここで、ヴァンパイア軍団に認められます。この一連の映像を見ているときは「ケイリブはヴァンパイアとして生きられそうにないけど、どうなるのかな?」という第三者目線で見てました。

仲間に受けいられるも、偶然同じモーテルに来ていたケイリブの妹サラ(父とともにケイリブを探すために来ていた)をヴァンパイアの男の子が連れてきたことにより、ケイリブはヴァンパイア軍団と対立し、父と妹と逃げます。この逃走場面でもケイリブへの同期感覚を覚えました。「病院に行こう」という父に、「殺される」というケイリブ。このケイリブの感情吐露と、私が思っていることが同じだったからだと推測します。

この後はけっこうご都合主義で話が展開します(モーテルで偶然会うところから、ご都合主義は感じましたが)。ケイリブは父の血を輸血することによって、ヴァンパイアではなくなります。「血を吸う」「太陽に弱い」はヴァンパイアのルールとして知ってましたので、それほど疑問なく映画を見てましたが、人間の血を輸血するとヴァンパイアから元に戻るという、決まり事ってありましったけ? もしあって、私が知っていたら疑問も持たずに、流して見ていたかもしれませんが、知らんかったので、「えっ」そんな簡単に治るのと思いました。このように説明されないことが展開すると頭に「?」が浮かんで、物語が追いづらくなりますよね。ヴァンパイアものとして見ていたので、「血を吸う」「太陽に弱い」を受け入れて見てましたが、ヴァンパイアのルールを知らない人にとっては、「なんで噛むと、噛んだ人のようになるの?」と「?」が浮かんでいて、最初から物語を受け入れられないかもしれませんね(まあ、噛まれると同族になる、という説明はあり、太陽に晒されると燃えるのは最初にケイリブを通して見せてはいるけど)。

ヴァンパイア軍団の男の子がサラに恋してしまったのか、サラを誘拐し、ケイリブは助けに行きます。ケイリブと、ヴァンパイア軍団が戦うのですが、ヴァンパイア軍団はほとんど自滅に近い形で全滅します。「ヴァンパイアよ、もう少し考えて行動し、ケイリブを危機にしてくれ」と思いました。

ヴァンパイア軍団より、ケイリブを選んでサラ救出を助けたメイを人間にして物語は終わる。サラが誘拐される前にケイリブにサラが会いに来るのですが、「輸血すれば治る」と教えてあげません。「教えてやれよ」と思いながら見ていましたが、ケイリブはサラのことを信用しきれてなかったのでしょうね。

ヴァンパイア軍団はそれほど個々の性格を見せるようなことはなかったですが、キャラが立っていたと思います。男の子は年齢は上なのに、子供のままの姿のことを気にしているわりに、自転車で移動しているところからやはり子供っぽいなと思わせます。田舎の居酒屋(とは言わないか……)で大暴れする時の行動で各々際立ってましたね。ここはアクションがあって面白い映像でした。メイは登場時のセリフで不思議なことを言っていて、人物性を際立たせます(その美しさも相俟って、人間ではないのではと思わせます)。ケイリブは少し軽いですが、現状に不満をもつ普通の男ですね。結局、人は殺しませんでした(吸血鬼として生きるためには血が必要なのに)。性格はかなりいい人ですね。ケイリブの人物性は、ヴァンパイアとして生きることを受け入れることを選んでいるのに、なりきれないところで際立ちますね。この作品は、吸血鬼として生きることの辛さを少しだけ描いていますね(インタビュー・ウィズ・ヴァンパイアのようにテーマとまでは言えませんが、面白くする要素としてはあります)。ケイリブが吸血鬼だったのは、数日ですし、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のようには苦悩を想像できませんでした。200年という長い年月を生きた人が語る、時間を重ねた苦悩はテーマになるけど、数日の苦悩はテーマにならないのかもしれません。まあ、描き方の問題だとは思いますが。

この映画にテーマがあるとしたら、「不死の者の暴力性、縦横無尽なさま。それによって映される映像的美しさ(滅びの映像も含めて)。魅力」を描くことでしょうか。ケイリブが吸血鬼になりきれないという展開は、物語を面白くする一要素でしかないような気がします。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」が異能の者の「苦悩」がテーマなら、「ニア・ダーク」は異能のもの「人間では敵わない、圧倒的な力」だと私は考えます。そう考えると、最後に自滅する様は正解かもしれないですね。人間であるケイリブには何もできませんでしたし。物語を面白くするには、いくらでもケイリブを活躍させることもできたのに、テーマに沿わせるためにそれをしなかったのはすごい事かもしれない(テーマは私が勝手に思っているだけですが……)。物語の展開上、吸血鬼たちは滅びますが、これは物語にオチをつけるためにあった展開でしょう。ケイリブとメイの恋愛要素も、物語の展開上のものかな。タイトルが「ニア・ダーク」近い闇(直訳。あっているか?)だし、「恐怖はすぐ近くにある」というのが一言で言えるテーマかな。その闇の具体が「暴力。縦横無尽」なのだろう。このヴァンパイア軍団は定住せず、移動して生きているようだ。どこにでもやってくる台風のような災害としてもとれる。

ヴァンパイアの行動はメチャクチャです。車を盗み、今まで乗っていた車を燃やす。襲った居酒屋を燃やす。後にヴァンパイアたちが、燃えて死ぬことの暗喩なのか、よく燃やします。映像的にも美しいです。居酒屋での殺しは行っていることはものすごく悪ですし、恐怖を感じます。同時に自由に生きている様は魅力にも感じます。その中で、自由に生きられるのに生きられない(人の血を吸えない)ケイリブに対しては、苛立ちすら覚えました。ヴァンパイアが暴れている場面では、私の心とケイリブの心が離れていることがわかりますね。

映像としては、ケイリブが何もわからず街を彷徨しているとき、全身でなくよろけている足だけ移す場面は「良いな」と思いました。

最後はちょっとご都合的になりますが、楽しめる作品でした。

メイも人間に戻りましたが、メイはケイリブと違って「生きるためとはいえ人を殺しているんだよな」と思い少し、モヤっとした気持ちは残りました。

舞台がアメリカの田舎なのですが、アメリカの田舎って物語の舞台として魅力的ですね。日本であんな火事起こしたらすぐバレそう。


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