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映画「ノーカントリー」ををNetflixで見ました。語りから始まる物語。

冒頭は語りから始まります。けっこう長いです。「冒頭で話していたことは、この映画のテーマだったのだろう」と映画の途中で気付きます。

麻薬取引の争いあとの現場で、モスは残された大金を見つけ、盗みます。そのお金を取り戻すために、殺し屋シガーが追う物語です。

シガーの人物描写は、何を考えているのかわからず異常的なところを感じさせます。空気ボンベで人を殺すという、奇妙な道具の使い方からも異常性を強調しています。

お金を盗んで、モスは追われるので自業自得ですが(しかも、彼はいったん家に帰ってから、唯一生き残っていて水を飲みたいと言った麻薬取引の人に水を与えるために現場に戻るのです。そのために自分がお金を盗んだと疑われます。愚かですね。まあ、それゆえに、シガーに狙われる描写の中で、モスを応援する気分になれるのでしょう。ただ窃盗犯じゃ、応援できなかったかも。私は感情移入という状態がいまいちわからないのですが、こういうことをいうのかもしれません)、モスがシガーに狙われ「殺されないか」という感情を持ち、緊張感を持って見られます。といっても、これだけではただのサスペンスで特に、物語に新しい要素はないですね(派手なアクションもないし、娯楽作品としても地味です)。ただし追いかける存在が、シガーのような異常性を感じさせる存在となると話は別です。「こんな人間から逃げられるのか?」という、感情がもたげます。主人公(モスが主人公というと違うかもしれませんが)をはばむ壁の大きさを、異常性で表現し、見る人に「どうやって乗り越える」という期待感を与えます。このシガーの人物造形に他の追いつ追われつの物語との違いを感じます(私は新規制があると感じました。と言っても、この作品は2007年の映画なので、私が知らないだけかもしれません。サイコサスペンスの作品探せば、似た作品あるかもしれませんが)。

ただ、この映画単純な娯楽作品とではありませんでした。娯楽映画の展開なら、クライマックスにモスとシガーの大きな争いを行わせて、シガーは殺され、お金を盗んだという事実もあるのでモスも結局は死ぬという展開が予想されますが、そうはなりません。最後は争いの場面などなく、モスは殺されます。

この物語には、モスとシガー以外にも、この事件を追う(といってもそんな真剣でなく、大きな事件としたくないようです)地元の保安官も出てきます。彼が劇中で新聞紙面に書かれた事件を読み「最近の事件はわからない」と言います(他にも保安官は折に触れて、今の時代変化を話しています)。シガーはその象徴です。この映画はシガーの異常性を描くことによって、現在(といっても劇中の時代は1980年だけれど。物語のほぼ終わりにあった、モスの妻の母親のお葬式の場面から私は知りました)の時代の異常性(劇中が1980年なので、現在から見るとアメリカが変化した時代の始まりの時代ということかもしれません)を描いています。ラストの場面で、シガーは取ってつけたような罰として交通事故で大きな怪我をしますが、その生死は不明です。その死が時代が正常(正常の定義は難しいですが、古き良き時代ということだと思います)に戻るもいうことを表していたとしたら、生き残ったのだろうと私は考えます(正常に戻ってないということ)。

古き良き時代の象徴としての保安官は、事件に少しも抗うことができず、保安官を引退します。その捜査も、おざなりで時代が戻ることは不可能だということも表してます。

モスの存在は何かを表しているのでしょうか? 古き良き時代の悪党などと無理やり考えたりもしましたが、モスの存在はシガーの存在を際立たせるためだけの存在のように思えます。シガーの時代の象徴としての異常性を際立たせるために物語上必要な存在。物語を物語として見せるために必要だった存在なのだと思います(追いつ追われつというドラマがないと、見てて面白くないですしね)。

クライマックスらしく最後にモスとシガーの争いを描くこともできたはずですが、この作品を作った人はそういう展開にしませんでした。そういう展開にすると、あまりに娯楽作品らしく、見た人が「面白かった」で終わってしまうからかもしれません。そういう展開でないからこそ、「この映画は、いったい何を伝えたかったのだ」と考えるのかもしれません。この映画の制作者は、物語を怠惰に享受することを許さなかったのでしょう。

物語は、シガーが母の葬式から帰ってきたモスの妻と話し(モスの妻は死んだかわかりません。原作では殺されたそうです)、その帰りにシガーは交通事故にあいます。保安官が、妻に夢のことを話し、物語は終わります。

娯楽作品の形で映画を見せてますが、時代の変化(あまり良くない形の)伝える、考えさせられる映画でした。モスの死を娯楽作品の形で終わらせないので、その考えはわかりやすくもあります。良い映画でした。


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